41-這い寄るモノと毒のサリソン・後

脇腹から全身に向けてゆっくりと熱が拡がっていく感覚にライアは眉間に皺を寄せつつ、サリソンの尾を握り引き抜いては血が流れ出る感覚に痛覚を100%にしたのは失敗だったかと思いつつせめて突き刺してやろうと口を狙い槍を構える。

しかし、向けられている刃の切っ先にサリソンが反応しては宙に浮かびながらも拳で槍の腹部分を叩く。

力の入りづらくなっているライアの手ではその衝撃に耐え切れず槍から手を離すと嘲笑うようにカチカチと口を鳴らす。

レベルにそこまで差がないからとサリソンの注意すべき行動を聞いて置かなかった落ち度である。


「くっ…どれだけダメージを喰らうか見当がつかないな」


『某の回復も間に合いませぬっ!』


『奴を穿て、地針ちばり!』


マオを背に回収した白銀が状況を見て発動させた魔法陣が宙に浮かぶサリソンの位置を正確に捉えて地面に浮かび上がると同時に土が盛り上がり剣山の様な針が形成される。

下からの不意打ちにサリソンが為す術なく針に串刺しにされては野太い悲鳴のような奇声を上げる。

命尽きるまで抵抗しようと動く姿を見ながらライアは手早くインベントリを開き、ヨハネから買っていくように進められていた毒消しの丸薬を取り出し噛む。

徐々に身体に回りつつあった熱が少しずつ引いていくのを感じながら再び槍を持つと宙にあるサリソンの口を狙い渾身の力を込めて突き刺す。

断末魔の叫びをあげながら光の粒子となって消えるサリソンを見つめ、ライアは大きな溜息を吐くと黒鉄の治癒魔法が発動したのか脇腹を薄緑色の光が覆っているのを見る。


『傷を癒しまする…癒光ゆこう


「すまない…助かった」


『流石に今回は肝が冷えたでござる…』


『わての詠唱も間に合ってよかったわぁ…』


「二人が機転を効かしてくれたお陰でなんとか勝てたな…。サリソン相手に槍は分が悪いって覚えたよ」


苦笑を浮かべながら血の滲んでいた患部の治療が終わると怪我など無かったかのように衣服まで修復されているのを見て感嘆の息を漏らす。

申し訳なさそうにする黒鉄の頭を撫でてやり立ち上がると服に着いた砂を払いながら白銀とマオへ手を差し出す。

腕に巻き付く白銀と襟元に戻ればライアの傷を見たからか服をしっかりと握り震えているマオを落ち着かせるように手を添えてやる。


「もっと実戦を経験しないといけないな…。そこそこ扱えると思ってた武器が全然使えてないのがよく分かった」


『いや、旦那はんの場合はスキルもなく基礎技術だけで相手しとるからやと思うんやけど…?』


『それもあるでござるが、若がラルク殿に教えて貰ったのは無型の技術ゆえかもしれませぬぞ?』


「ラルクにはラルクの考えがあるんだろうが、素人が型を覚えても意味が無いから扱える事に慣れろとしか言われてないからな」


肩を竦めながら答えれば確かに言う通りではあるが腑に落ちない事があるのか白銀と黒鉄が互いに顔を見合せ首を傾げる。

震えが落ち着いたマオが乗せていた手を小さな手で握ると頬を擦り寄せ会話に参加する。


『んー?でもなんであのヒゲゴリラはパパに型を教えなかったんだろー?』


『ぶふぉっ!!ヒゲ、ゴリラっ!!』


『ぐっ…ふっ、ふふっ…』


「っ…待てマオ…ヒゲゴリラって、お前…。的を射てはいるが絶対本人の前で言うなよ?」


『ボクの声はパパにしか聞こえないもーん』



立ち止まっているとまたいつサリソンに襲われるか分からないので周りを警戒しながら川に向かい歩みを進めつつ、先程の戦いの反省をしているとマオのヒゲゴリラ発言に白銀は盛大に笑うも黒鉄とライアはなんとか笑いを噛み殺し平静を保つ。

顔を背けながらツンとした様子で口答えするマオの頭を指先でぐりぐりと押すと楽しそうに抵抗する姿を眺める。

暫く歩みを進めていると地面が盛り上がり何事かと見ていればドリルのような模様の刻まれた大きな爪の先が地面から出てきて思わず息を飲む。


「アレは…なんだ?」


『穴掘るのが好きなのがおるとか言うてなかったっけ?』


『確かモグルン…という名前でござったはず』


手を振動させているのか爪の先が小刻みに震えそのまま勢い良く地面からモグルンが飛び出してくる。

地面から奇襲されたらたまったものでは無いなと思っているとたまたまモグルンと視線が合う。

つぶらな瞳を持ったビーバーのような顔にモグラの体を持っているが、歯と爪がかなり大きい。


「目が合っても襲って来ないな」


『こっちから手を出さなければ襲って来ないって言ってたよねー』


『小さな兄上、よく覚えているでござる!』


『えっへん!』


「まぁ、戦う気は無いから地面から出てくる時の行動パターンを覚えて巻き込まれないようにしよう」


軽くその場で飛んでから右手と左手の爪を重ね合わせると勢いを付けて大きく飛び跳ねると地面に突き刺さり目にも止まらぬ速さで手を震えさせているのかそのまま地面の中へと消えていった。

見ている分には面白いなと思っていると前方に三匹で固まっているサリソンの群れが居ることに気付く。


「………骨が折れそうだな」


『わてと黒で先制するさかい旦那はんは1匹ずつ確実に仕留めてくださいな』


『先程、尾は脆いのか関節を狙うように切ると無力化出来るかもしれませぬ!』


「よし、今度は片手剣で挑もう。切断力ならこっちが上だ」


『ボクは気を付けながら見てるねー!』


最初の戦闘の反省点を踏まえ今度は有利に戦おうとインベントリから片手剣を取り出し、いざ参らんと駆け出すといきなり三匹のサリソンが目の前から消える。

驚いて気を付けながらその現場へ歩み寄ると陥没した地面に三匹のサリソンが落ちており、その周りに数匹のモグルンが居るのを見ればヨダレを垂らしながら噛み付いているのが見える。

尾は早々に鋭い爪で切り離したのか子供かもしれない小さなモグルン達が食べており、刃が簡単には通らなかった殻を噛み砕き本体は親であろう大きなモグルン達が食べている。


「……………俺達もああならないように気を付けよう」


『多分、さっき地面に出てきた者は餌の場所を探してたのかも知れませぬな…』


『わて、あんなの食べたないなぁ…』


『ボクもー…アレは無理ー』


暫く呆然とサリソンパーティーをしているモグルン達を眺めていたライア一行だが、あまり見ていたい光景ではなく地面に落ちぬように迂回してさっさとその場を去るのだった。

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