40-這い寄るモノと毒のサリソン・前
テントの中でログアウトし、なるべく早めに起きようとスマホのアラームを早朝にセットして寝た雷亜は緊張もあってかそれよりも早く起きてしまった。
若干眠さは残るものの手早く家事をこなし、トーストと珈琲を胃に入れてからカプセルに入りArcaを起動する。
目を覚ませばテントの中で今回重みを感じる部分に視線をやると腹の上に白銀が、胸の上にマオ、黒鉄が額に張り付いて寝ていた。
毎度ながら寝相が悪い三匹だと思いつつ、寝ているのを起こさないように己の上から降ろしては外の様子を見ようとテントの入口へ手をかけた所で動きを止める。
「……何かが、居る?」
何かが這いずるような音が辺りから聞こえ思わずライアは息を潜める。
入口を少し開けて見える隙間から外を除けば焚き火の後と敵避けの結界の外に黒い何かが居る。
ゆっくりと動き時折身を起こしては辺りを見回すように動く。
垣間見えた目の前の黒い何かは赤い光を目であろう箇所から放っており不気味であった。
陽が大地を照らし始めると諦めたように夜の闇がまだ残る方へと向かって逃げて行く。
「なんだ…アレは…」
緊張で早鐘を打っていた鼓動が恐怖の対象が消えた事により徐々に落ち着いていくのを感じながら深呼吸をする。
用心して高めの野営のアイテムを購入してよかったと思いつつ、先程の黒い何かに関してラルクに聞く為にインベントリからメモ帳とペンを取り出し書き記しておく。
焚き火の後始末をするべく枝を囲んでいた石を砂地の方に向けて撒くように投げ捨てる。
多少熱が残っている焚き火の燃え跡は辺りの土を掛けて良く踏んで慣らす。
「他にもやり方はありそうだがそのままにしておくよりはいいだろ」
『おはよー』
「おはよう、マオ。起きてくるのが1番早かったな」
『へへー、お兄ちゃんだからねー!』
胸を張る姿を見てしゃがんで手を差し出すと駆け寄り手の上に乗るマオをそのまま持ち上げては汚れをチェックする。
インベントリからタオルと水を取り出しては飲む前に少量水を染み込ませるとマオの身体を拭いてやる。
多少汚れていた毛並みが白さを取り戻す頃には白銀と黒鉄も起きてきたので順番に体を拭いてやるとそれぞれ所定の位置へと収まる。
それぞれの朝食としてマオにはナッツ類を、黒鉄と白銀には干し肉を食べさせる。
「それじゃあ、昨日話した計画を再確認するぞ。この砂地を抜ければ川があるはずだ。半日くらいの距離だと思う。生息する敵を確認したら安全な場所を確保し野営をするぞ」
『了解や。この干し肉美味いなぁ…何の肉なん?』
「………蛇だ」
『嘘やん!?共食いさせたん!?』
「冗談だ。確かオルクの肉だったな」
『姉上、蛇の肉だったら多分もっと淡白でござるよ』
『妹は騙されやすいなー』
『普通に食った後に言われたら誰でもビビるやろがい!』
発端はライアだが仲睦まじく喋る三匹を微笑ましげに見ながら会話を楽しむと出発の準備も兼ねてテントと敵避けの呪具を回収する。
使用量が1回分低下しており残りの回数を確認しつつ出した物をインベントリにしまっていく。
訪れる前の状態の光景になるとライアは軽く服を叩いてから川へ向け歩き出す。
疎らに草の群生地があった光景から砂しかない光景に変わってくるとウォルやグルゴンの姿は消えサソリの様な敵が歩いているのが遠目に見え始める。
「砂ばかりだからか少し乾燥して感じるな」
『乾涸びそうでござる…』
『あんまり好きやない場所やなー』
『ここには何があるのかなー?探検したーい!』
『小さな兄さんは元気やな…』
気温は変わらないのだが光景がそう思わせるのか音を上げる爬虫類姉弟を他所に襟元で目を輝かせるマオが尾を揺らす度に毛が肌を撫でてこそばゆい。
飲み水は多めに持ってきてあるので時折黒鉄と白銀を地面に降ろして水を掛けてやる。
気持ちよさそうに水浴びをして回復する姿を見て再び持ち上げようとするも濡れた身体に砂がへばり付いて何となく触り心地が悪い二匹に思わず眉尻を下げる。
『旦那はんの言いたい事は分かる…せやけど、ここは考えて欲しい!わてと黒が歩いて行ったら何時迄も着かんで!』
『いや、胸張って言うことではないでござるぞ…姉上…』
「…川で水浴びができそうならしていこうな」
『旦那はん!よく腹括った!素敵!』
『若、大きくなったら某が運びまするからな!』
「蛇と蜥蜴のお前達が持てるほど軽くないぞ、俺は…」
申し訳なさそうな黒鉄の頭を優しく撫でてから肩へと乗せ、白銀の頭を小突いてから腕に巻き付かせる。
カチカチと何かがぶつかるような音がして振り返ればサソリに良く似ているが両手は鋏ではなくボクシンググローブのような形をしている敵が背後に居た。
マオに離れるように告げれば素早く自分が飛び降りれる部分まで服の中を駆け降りライアの腰辺りから反動をつけて飛び降りる。
少し遠い場所に降り立つのを見てからインベントリを呼び出し槍を取り出す。
先端が針の様に尖っている尾を警戒しつつ敵の腕が届かない距離をキープする。
「コイツがサリソンか…攻略法を聞いてくるんだったな」
『取り敢えず火で応戦はどうでござるか?』
『ほな、わては小さい兄さんを守りに行くわ。他に何が居るか分からんし』
「頼んだ」
魔法で水を呼び出し滝のように地面に向けて流すと白銀はその水流に乗り地面へと降りる。
槍で突くように牽制しながら時折伸びてくる尾を上半身を逸らして避けては槍で応戦するものの甲羅が硬くダメージが通らない。
どこがダメージが通りやすいかと考えていると不意にサリソンが距離をとったかと思えば素早く突っ込んできたので槍を突き出すも笑うように口を鳴らすと急に立ち止まり尾を振るようにその場で一回転する。
「ぐはっ!!」
『若っ!』
「いっ…傷口が、異常に熱い…毒か?」
槍を突き出したせいで反応が遅れ脇腹に尾の針が刺さり遠心力も加わり衝撃でライアは吹っ飛ばされる。
受身を取るものの関節が弱いのか尾が千切れ脇腹に刺さったままの針を抜くが痛みの中に確かに感じる異常な熱に奥歯を噛み締める。
黒鉄が治癒の魔法を発動させようとしているがサリソンはカチカチと歯を鳴らしながら回復などさせるものかとライアヘと飛び掛ってきたのだった。
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