38-初の遠出・前

テラベルタの門を出たライアはインベントリからマップを取り出し位置を確認する。

目の前に見えるのが街道なので真っ直ぐ道なりに沿って行けばウォルやグルゴン、ブルルンと遭遇するだろう。

右に向かえばいつもの森へ向かうルートだが、今回は左の荒野を抜けて砂地がある方へ向かうルートを行く。


「気候はこの辺と余り変わらないらしいぞ。生息する敵が変わるだけでな」


『楽しみでござるな、若!』


『知らない場所楽しみー!』


「俺も楽しみだ…。ところで、白銀はいつまで寝てるんだろうな?」


『姉上が申し訳ござらん…』


首元で聞こえるイビキに苦笑を浮かべながら言うと黒鉄が申し訳なさそうに俯いてしまい頭を指先で撫でてはスロムの狩場に行く際に遠目に見ていたウォルが目に入る。

スロムしか相手をした事がないので初の肉のある敵との遭遇である。

狼などの四足歩行の獣は走る速度などが速い事を見越して短剣を取り出す。


『パパ、短い方でいいのー?』


「ああ…。槍や片手剣だと長さがあるから有利に見えるが速い敵を相手にするならこっちの方が向いてるからな」


『ふーん…パパのカッコイイ所が見れるならなんでもいいやー!』


『若、某と小さな兄殿はあの岩の上辺りに置いてもらっても良いでござるか?戦闘の邪魔になっても申し訳ないので。あぁ、姉上はそのままで…首を狙われた場合に肉の盾となるでしょうから』


「白銀に対して辛辣過ぎないか…?」


『惰眠を貪る姉上には良い薬になるでござるよ』


黒鉄の提案に頷けばマオと共に腰くらいの高さの岩の上にそっと降ろすと白銀の扱いに苦笑を浮かべる。

互いに対して気兼ねがないからこそのやり取りなのだろうが時折反応に困る事があるライアである。

戦闘が続くようなら離れない範囲で探索を許可しつつウォルの方へと向けば相手もこちらに気付いたのか体勢を低くし牙を剥きながら威嚇してくる。

レベル差はない事を確認してから短剣を直ぐに触れるように構え、ライアはウォルとの距離を徐々に縮めていく。


「気付いたのはあの1匹だけか…。奥にも2匹居るのが見える…が、気付いてなさそうだな」


ウォルが群れと意識する範囲が分からない為、あまり近くに行き過ぎて離れた2匹も加勢したら状況が不利になる事を考え足元に落ちている小石を拾う。

よく狙いを定めてからライアは小石を投げれば僅かに距離が足らず、ウォルより少し手前に落ちるとそれに反応して相手が動く。

人間の走る速度よりも早く駆けてくるウォルを見据えたままライアは緊張を解く為に深く息を吐き出す。

目前まで近付き首を狙って地を蹴るウォルを避けるように一歩分横へと身を動かし避ければ、ライアは短剣の刃を脇腹に刺し引き抜く。

脇腹に一撃を貰い悲鳴にも似た声を発するのを聞きつつ、そのままライアは身を翻すと着地するウォルに空かさず追い打ちを掛ける為に背を切り付ける。


「意外と毛皮が厚いな…刺す方がダメージが通る…。あっ…白銀っ!」


『んんー?…あいたぁっ!?』


振り向きざまに噛み付こうとするウォルに驚き仰け反れば首に巻いていた白銀が寝ている事で筋肉が緩んでいたのもあるが、先程から激しい動きをしていた事もあり首から外れて宙を舞う。

イヌ科の本能と云うべきか宙を舞う白銀へと標的を変えたウォルが、フリスビーをキャッチするかのように白銀に噛み付くと痛みによる悲鳴が耳に届く。

隙ありとウォルの首に腕を回し締め付けるようにしながらライアが短剣を頭に突き刺すと死の一撃とみなされたのか大きく体を震わせ光の粒子となって消える。

ウォルが消えた事によりそのまま地面へと落下する。


『ぐぇっ!』


「白銀、大丈夫か?」


『ひっどい目覚ましや…身体が痛いっ!』


「騒ぐわりにはそこまでダメージ通ってないが?」


『そりゃ見た目に比べて頑丈やからね!!』


蛙が潰れたような声を発した白銀を拾い上げれば綺麗な身体に多少の傷があるだけでそこまでダメージを受けていない姿に驚く。

後でステータスを確認しようと思いつつ腕に巻き付く白銀を労わるように撫でてやれば尾の先を揺らす。

他に怪我はないようなので安心して今度は片手剣をインベントリから取りだし短剣をしまう。


「よし、もう少しウォルと戦っていくか」


『えー、わては戦いたくあらへん…』


「大丈夫だ。いざとなったら白銀を投げる」


『なんでやねんっ!!』


先程遠くに見えていた二匹のウォルの群れに向けて歩みを進める。

うだうだとごねる白銀を横目に見ては笑みを浮かべて告げると即座にツッコミが返ってくるものの腕に巻きついているせいで逃げることも出来ずに狩りに連行される。


『四足歩行の獣共め!全員凍らせたるわぁぁ!!』


「そんなに投げられるのは嫌か」


『あったりまえや!そこまでダメ入らんけど痛いんやからなっ!?』


必死にウォルの足を凍らせたりと氷魔法でサポートをする白銀に問い掛ければ睨み混じりの形相で返されライアは苦笑しつつ氷が溶ける前にしっかりとトドメを刺していく。

もう一回ぐらい投げるチャンスがないかなと画策していると何かを察してか素早く行動する白銀にやる気を出さない時は投げる振りをしようと目論むライアであった。

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