37-遠出の準備

現実で目が覚めた雷亜はベッドから身体を起こすと欠伸と共に伸びをする。

遅くまで酒盛りをしていたが最後の方には酔っ払ったヨハネが泣き上戸と化し、白銀と黒鉄は笑い上戸と化しており絡まれまくって大変だった記憶しかない。


「悪い酒ではなかったのが救いだな」


苦笑を浮かべながらも今日は早めにログインし、マッピング用の魔道具や魔物避けのテントなどを購入しないとならない。

ベッドの脇に置いてある棚の上に置いてあるスマホを手に取りArcaの情報掲示板を開く。

テラベルタ周辺での敵の出現種類の内容に目を通し街道回りとフィールドボスの内容しか載っていない事を確認するとスマホを閉じる。

ベッドを降りて洗面所に向かうと顔を洗ってから鏡を見れば伸びてきた髪を切らなければなと思いつつ朝食の支度をする。


「ふぅ…髪、伸びてきたな…。いつ切るか…。後は飯、簡単に卵かけご飯とインスタント味噌汁でいいか…」


冷蔵庫から卵を取ると茶碗に割り入れてから殻をゴミ箱に捨て味の素と醤油を少し入れる。

それから一応炊いておいた米をよそうと箸で良く掻き混ぜてからインスタントの味噌汁をお椀に入れお湯を注ぐ。

行儀は悪いが手早く済ませようと台所でお椀の中の味噌汁の味噌を軽く溶いてから卵かけご飯を掻き込むようにして食べる。

空になった茶碗を流しに置き、味噌汁に息を吹き掛けながら火傷しないように気をつけながら飲み干す。


「ご馳走様でした…。あ、いただきますを言い忘れたわ」


手早く皿を洗い終えると水切りカゴに突っ込んでから手を拭き、雷亜は足早にカプセルの中へと寝転びArcaを起動した。

いつもの宿屋の天井を見るハズだったが今日は目元を覆うように長い物で巻かれており、冷たい感触を感じつつ鼻の上には爬虫類独特の手の感触がある。

胸の上にも重みを感じるという三重苦に見舞われるも1匹ずつ起こさぬ様に脇に降ろしてから身体を起こす。


「ちゃんとベッドの脇に降ろしてから寝てるのになんでピンポイントで顔を狙ってくるかな、コイツらは…」


苦笑を浮かべながらライアは呟くも気持ちよさそうに寝ている三匹を怒る気はしないのでそのままにしておく。

ミュラを道具屋に送り届けるついでにヨハネに貼紙に書くべき内容を伝えておくかと思い、ベッド脇のメモ帳に気付けば次の人が書くことを考え筆圧は弱めに備え付けのペンで走り書きをする。

綺麗に一枚書いたメモを剥がすと四つ折りにし、ポケットに仕舞うと一番最初に目を覚ましたのか黒鉄が声を掛けてきた。


『む、む?若…おはよう、ございます?』


「おはよう、黒鉄。よく起きれたな?良ければ白銀とマオも起こしてやってくれ」


『承知、した…』


まだどこか眠そうな様子を見ながらもマオと白銀を起こす姿を横目にベッドから降りると軽く身なりを整える。

この街を離れる時には服屋に寄ろうと思いながらもそもそと起き始めた白銀やマオを見てそれぞれの定位置へと手で移動させる。

黒鉄は肩の上、マオは襟元、白銀は今日は首の気分らしくマフラーの様にゆったりと巻き付き再び寝ようと目を閉じている。


「寝ててもいいが落ちないようにしろよ?」


『落ちぬよう気を付けまする…』


『はーい…』


「もう寝てる奴が居るな…。まぁいいが…」


「おはようございます、お兄ちゃん!」


「おはよう、ミュラ。道具屋に行くか」


「はい!」


苦笑を浮かべつつ扉を開けて外に出れば丁度部屋から出てきたミュラと鉢合わせたのでそのまま道具屋へと向かうのに宿を後にする。

今日は迎えに行けないことをミュラに告げると、昨日の内にアランが道具屋に迎えに行くと約束したらしい。

アランも隅に置けないなと思いつつ仲良くするよう告げては道具屋の前まで来るとミュラにポケットから四つ折りに畳んだメモを手渡しヨハネに渡すよう頼むとそこで別れた。

昨日の間に聞いておいた必要な物品を魔道具屋に買いに行き、その足でアラクネにも立ち寄り使い魔達を紹介すればペット用の収納ポーチと水晶が付いたリングを貰った。


「連れて歩くのが大変だなーって思ったらこの指輪を使ってみてちょうだいね?使い魔やペットを水晶の中の箱庭に預ける事が出来るわ!」


「ありがとうございます、アルマさん」


「ふふっ、どういたしまして!ホントはこの前渡そうと思っていたんだけど私ったら忘れちゃってたのよ!ごめんね?」


「アルマさんらしいと言うか…なんと言うか。じゃあ、俺はもう行きますね」


「気をつけて行ってらっしゃい、ライアくん!」


「行ってきます」


軽く手を振りアルマと別れると武器やにも寄り、新しい槍を一本と投擲用の短剣を二本、少し長めの刀身の片手剣を一本購入しインベントリに収納する。

空腹を感じた際に食べれるように干し肉などの携帯食も買ってから門へと向かうと腕を組んだラルクが立っていた。

この時間に訓練所に居ないのは珍しいなと思いつつ傍に行けばライアに気付いたのか手を振ってくる。


「おう、ちゃんと支度は出来たか?」


「朝から色々と店を回ってクタクタだよ」


「ガハハハッ!それくらいで音を上げてたら遠征なんて出来ねぇぞ?」


「それを言われたら頑張らないとだな?」


「言うようになったな!お前さんが外に居る間、様子を見れねぇからな。コレを渡しに来た」


「うげっ…」


ラルクが差し出す紙を受け取ると幾つかメッセージウィンドウが開かれ、全て訓練クエストと題名が書かれている事を確認し思わず声が漏れる。

大きな声で笑いながらラルクがライアの背を叩くと少し寂しげに目を細める。


「その訓練が終わったらお前さんに最後の卒業試験をやらせるつもりだ…。気合い入れてやってこい」


何時になく真剣な声音で告げると笑みを浮かべて訓練所へと向かうラルクの後ろ姿を見ながらライアは少し複雑な気分になるも頬を1度叩くと門を潜り外へと向かうのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る