35-師匠との話し合い・後

色々と話をしながら分かった事はまだこの周辺には知られていない敵が複数いる事と、村があるという事だった。

この周辺の探索が全く進んでいない事を再確認しては眉間に寄った皺を伸ばすように指で解しながらライアは小さな溜息を吐く。

序盤の街はチュートリアルの延長線上のものだとは思うがもう少し探索してもいいのでは無いだろうかと思う。


「まぁ、誰よりも先に早く行きたい気持ちはわからなくも無いけど…な」


「俺が知ってる狩場を秘密にするとしたらやっぱりこの川のヤツらを相手にするしかねぇだろうな」


「それだと距離があるから2日は掛けないといけないだろう。ある程度の実力があれば野宿をしてという手もあるがソロの人間とかは厳しいだろうな」


地図上で見ていても川までの距離はそれなりにある為、野宿を視野に入れて考えると魔物避けなどが無い限りプレイヤーは効率を考えると近寄り難い。

テレポートのような機能は無いので己の足で向かわなければならない。

ライアのように使い魔との縁に恵まれた者なら途中にログアウトしても問題は無いかもしれないが、独りであれば敵に襲われないセーフエリアが存在するかも分からない場所になど行かないだろう。


「…実際に、俺が歩いてみるしかないか」


「あぁ?まだ訓練も終えてねぇってのに周辺の調査をする気か?」


「他の人達はこうして情報を得る事も難しい可能性があるからな。調査結果を公開すれば…ラルクが隠し通してきた狩場を秘匿したままにできる」


共に食事をしたり酒を呑んだりしたラルクに迷惑を掛けたくないという気持ちもあれば、出来る事なら恩を返せるような事がしたい。

監督しているだけと言うが訓練中に身体の動きなどしっかり見て変な癖が付いていれば指摘もしてくれるし、あまりにも豪快かつ大雑把な所から勘違いされやすいがこのラルクと言う男はお人好しで面倒見が良いのだ。

ライアが見ていない所でマオと関係改善をするべくおやつ等で釣ろうと試行錯誤しているのも知っている。


「ラルクには世話になってるからな。それに、実践程良い訓練は無い…とも言ってただろ?」


「はぁ…お前さんには負けるよ。口だけは適わねぇくらい立派だ」


「お褒めいただき光栄だ。なんならオマケに説教も要るか?」


「それは勘弁してくれ…」


肩を竦めながら首を横に振るラルクを見てライアは笑みを浮かべる。

話が纏まればこの地図をくれるというラルクに礼を述べつつインベントリにしまう。

話が終わると真剣な表情を引っ込め今日は何を食おうかと酒場に行く気満々のお気楽な姿を見せる。

変わり身の速さもいい所かと思うものの一緒に行こうと考えたところでマオが服の裾を引っ張るので顔を向ける。


『パパー、話し終わったー?』


『若、終わったでござるか?』


『もうわて等も喋ってえぇか?』


「あぁ、気を使ってくれてありがとうな。この後、酒場に行くから美味いものを食べよう」


『『『やった(でござる)ー!』』』


かなり待たせてしまった事に謝罪を述べつつお詫びに美味い飯を食うと告げれば小躍りする三匹を微笑ましげに見る。

道具屋に寄るのは明日にするかと思った所で何かを忘れているような気がして顎に手を添えながら首を傾げる。

指折りこの場所でやった事を確認するも特に問題は無さそうに感じるものの何かやはり忘れている気がする。

悩んでいたものの歩いていたら思い出すかもしれないと席を立てばマオや白銀、黒鉄がそれぞれ登りやすい様にテーブルに手を付く。


『ねー、パパー』


「なんだ、マオ?」


『ミュラお姉ちゃんはー?』


「………………あっ」


『旦那はん…女子おなごの事忘れるやなんて、酷い男やわぁ…』


『若、某も今回は姉上に同意しますぞ』


『おぅコラ、今回はてなんやねん!いつも同意せぇや!』


『言う事なす事、どこか間違える姉上のふぉろぅさせられる某からすればそうなってもおかしくないでござろう』


『ぐぅのねも出ぇへんわぁ…』


マオは襟元へと収まりつつ黒鉄は肩へ、白銀は腕に巻き付きながら会話をすると少し羨ましげにこちらを見ているラルクに酒場に着けば絡んでもらえると言って背を叩いてやる。

その前に道具屋にも寄る事を告げては先に行ってると言うので後から合流すると言うことで一旦別行動をする。

ライアは先に教官室を出てそのまま訓練所から出ると前に見掛けたご婦人が隠れるようにして此方を見ているのを視界の端に捉える。

特に何かをするような素振りは見せないので道具屋に向かおうと1歩踏み出した所で小石に躓き転びそうになればたまたま通りかかったアランに抱き留められた。


「おわっ!アニキ、大丈夫っすか!?」


「悪い、アラン。助かった…お前はどうしてここに?」


「アニキの所に行けばミュラに会えるかと思ってきたんだ!今日は一緒じゃないのか?」


「道具屋のヨハネの所に居るよ。俺が狩りに行ってる間、そこで取り扱ってる薬草とかが見たいって言ってたからな…ミュラの事が気になるのか?」


「なっなななっ!そんな事ねぇよ!でも、ミュラは可愛いから狙われたら危ねーし迎えに行くなら一緒に行くぜっ!男手は多い方がいいだろっ!!」


体勢を建て直しながら礼を述べるとライアではなくもう一人の姿を探すアランに意地の悪い笑みを浮かべながら問い掛ければ耳を赤く染め必死に言い訳をする。

ミュラがプレイヤーであれば可愛いカップルが見れていたかもしれないなと思うものの一緒に行く事にすれば、先程のご婦人を囲むようにして人集りが出来ている事に気付くもアランが早く行こうと急かすので道具屋に向かった。


あの場で倒れたご婦人が治療院に運び込まれると鼻血を出しながら「年下×年上最高」のような事をうわ言で呟いていたらしい。

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