34-師匠との話し合い・前

訓練所にてライアは前回と同じように教官室を借り今回手に入った素材を確認していた。

ラルクに大笑いされ怒った白銀と黒鉄が尻に噛み付くとそこにマオまで参戦しようとする小さな事件はあったが、それ以外はいつも通りの訓練所へ通うプレイヤー達をラルクが監督している。

ちゃんと訓練所を利用しに来るプレイヤーは居るのになぜかクリアする人間はいない事を不思議に思いながらヨハネに降ろす分と自分で使用する分の仕分けが終わる。

教官室に戻ってきたラルクが向かいの椅子に座るとテーブルの上に並べられたスロムの素材を手に取りながらライアに問い掛ける。


「よし、取り敢えずこれだけ売れば暫くはヨハネも苦労しないんじゃないか?」


「道具屋のヨハネがどうした?」


「ラルク。コラ、お前達…威嚇するんじゃない」


「あー、まぁ…嫌われても仕方ねぇことしちまったからなぁ。んで、今並べてるコイツが関係してる感じか?」


「まぁ、そうだな。実は教えてもらった狩場に関して相談があるんだ」


「………話の内容によるが聞いてやろうじゃねぇか」


ラルクを威嚇する三匹を落ち着かせながら話題が出たついでに道具屋の現状を説明する。

最初の方は興味なさげに頬杖をつきながら聞き流していたラルクだったが、回復薬の話が出ると真剣な面持ちになり聞く体勢へと変わる。

訓練生達が狩りに出る際に必須の持ち物となるのが回復薬である。


「どうやら周辺に生息してるウォルやグルゴン、ブルルンの素材は持ち込みがあるらしいんだが回復薬の材料となるスロムの素材が俺からしか持ち込みがないらしく手に入らない状態となってるらしい」


「…この街じゃ素材採取の報酬もそこまで高くないからな。引き受ける奴も少ねぇし場所が分からないとなりゃ貼り紙が出ててもやらんだろう。周辺の村から取引と言ってもスロム専門の狩人なんて居やしねぇし…」


「現状だとラルクの知ってる狩場を公開する事が一番丸く収まりやすい。距離もそんなに遠くないからな」


現状だとその方法が1番手っ取り早いのはラルクもわかっているのだろうが無精髭を少し弄りながら暫し考えた後に首を横に振る。


「悪いが公開はしたくねぇ。スロムが単体で生息している狩場はあそこだけだからな」


「そうか…だが、この問題をこのままにする訳にもいかないだろう?俺が何時までもこの街に居るわけにもいかないし早く卒業しろって言ったのはラルク、アンタだ」


言ったような言ってないようなという顔をしているラルクに苦笑を浮かべるもののこのまま放って置いてもいい話でもない。

何ヶ月も素材を狩りに行かなくていい分を確保しても結局は無くなってしまうだろう。

腕を組んで目を閉じるラルクの姿を見ながら考え込む姿を見つつ、逼迫してはいないが現状を打破できるような考えを導き出して上手く解決へと導かねばならない状況にライアも考えを巡らせる。

暫く口を閉ざしていたラルクが腹を決めたというように目を開けると狩場の情報を秘密にしていた理由を説明し始める。


「俺があのスロムの狩場を秘密にしているのは魔法ギルドのヤツらに占領されない為だ」


「魔法ギルドが、占領するのか?」


「スロムのような液体系の敵は魔法の方がリスク無く対処出来るからな…。修行場にも最適だから武器メインの奴は入るなと規制するんだよ」


「なるほど…。ラルクは液体系の敵を相手にする際に魔法を扱わない武器を専門として扱う人間でも倒す術がある事を教える為に秘密にしてるわけだな。なら…あの場所には触れずに他の方法を考える他ないか」


一見して簡単そうだが情報の公開の仕方をミスすると直ぐに魔法ギルドに知れ渡ってしまい狩場の占領が行われるだろう。

その事を考えて秘密にしていたと言うのであれば下手な手を打てばラルクの今まで隠してきた努力が水の泡になる。

それは出来れば避けたい。


「猶予に1週間設けておいて助かったってやつだな…」


「ん?なんだって?」


「こっちの話だ…。聞きたいんだがスロムの生態をラルクはどこまで知ってる?」


「水辺に生息する事と繁殖力はそこそこあるってくらいだな。湖や川みたいな場所がスロムの住処になるくらいだしよ」


「ふむ…ラルク、地図はあったりするか?」


「あるぞ、少し待ってろ」


周辺の地図を持って来ようと椅子から立ち上がり棚の方へと行くラルクを見ながらスロムの核を手に取るとライアは目を細める。

空いている方の手に柔らかな毛が触れたのに気付くと心配そうに此方を見るマオと目が合うと優しく撫でてやれば尾を揺らしながら擦り寄ってくる。

黒鉄を背に乗せた白銀もこちらに近づいてくると長い舌を口からチラつかせながらライアを見つめてくる。

心配性なペットと使い魔に笑みを浮かべながら少しの間だが構っていると地図を持ったラルクが戻ってきた。


「待たせたな、これがテラベルタ周辺の地図だ」


「ありがとう、ラルク」


「大体、この辺りからこの辺までが訓練生でも無理なく倒せる敵が生息している。平野にはウォルとグルゴン、ブルルンが。こっちの砂地の方にはモグルンっていう穴を掘るのが好きな攻撃しなけりゃ無害なやつとサリソンっていう尾に毒を持つヤツらがいる」


テーブルに広げられた地図を見ながらラルクが指で位置を指し示しつつどんな敵が生息しているか詳しく教えてくれる。

数日前に放送されていたこの街の周辺に生息している敵の情報よりも多いように感じる。

攻略班はこう言ったゲームに慣れている人間が多いからか周辺の探索はおざなりに先に進んだ可能性がある。


「最初の街の周辺はクエストがない限り中々調べる人間は居ないか…」


だが、購入者数が1億を超えているのだから狩場の取り合いがあってもおかしくない筈なのに話題が出ていないのが不思議だ。

もしかしたらテラベルタに居るのは一部のプレイヤーであり、スタート地点は選んだ種族などで変わっている可能性が出てくる。

余計なことまで考え始めてしまった為、雑念を払うように頭を振るとラルクがそれに気付き声を掛けてくる。


「どうした、ライア?」


「いや…少し気になることがあっただけだ。ここに流れている川にはスロムが生息してたりしないのか?」


「そこか、居るには居るんだが…普通のスロムと違うのも生息しててな。訓練生が行くには…危険が多い」


「ふむ、この周辺で狩りをする人間がこの街に売りに来たりは…」


「しねぇな。ここで狩りをしたらばこの近くにある…この村だな。ここで売る方が時間も掛からない」


「なるほど…」


地図を互いに指し示しながら情報を集めるライアは、あまり気乗りはしないのだが匿名にて各プレイヤーの目に止まるように情報を流す事も検討しつつ、ラルクから更に情報を得ようと話し合いを続けるのだった。

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