33-連携の練習・後

マオと共に白銀を置いてきてしまったが、ライアにしたように調子に乗って何かやらかしてしまわないか不安になるもののそれを拭うように片手剣を構える。

若干溶けている刃を見て戦闘体勢のスロムを2体倒したら完全に斬る事は出来なくなり叩いたり打ち上げる用の道具になってしまうだろう。

刃が潰れたらラルクに高値で売りつけようと思いつつ肩に乗っている黒鉄に声を掛ける。


「黒鉄はなんの魔法が使えるんだ?」


『某は炎と雷、治癒に関する魔法が使えるでござる』


「ふむ…白銀と反対の属性が扱えるという事か?」


『若は賢いでござるな!いかにも!姉上と反対の属性が操れると思って貰って良いでござる』


意気揚々と答える黒鉄を見て手を伸ばすと背を優しく2回ほど叩くように撫でれば更にやる気を示す姿に大丈夫だろうかと思いつつ再度片手剣を構える。

今回ライアが相手に決めたのは目の前に居る他の個体よりも少し大きめのサイズの一匹で行動しているスロムだ。

他の個体よりも大きいからかHPも少し多めになっており力も大分強くなっている。

白銀との連携は群れを意識しての戦闘にしたが、今回は一対一の戦闘をメインとするつもりだ。

普通に真正面から突っ込んでみようかと足に力を入れた所で黒鉄に止められその場で静止しながらライアは声を掛ける。


『待って下され、若』


「どうした?」


『某の魔法は、どちらもこの場所で使うには向かぬのです。一歩間違えれば森を無くしかねぬので、若の武器に付与しようかと』


「そんなこと出来るのか?」


『理論上可能かと。そう言った専用の魔法はござらぬが弱い威力の物を使い剣に纏わせる形にならば…。試して見ては貰えぬでしょうか?』


「…分かった。やってみよう。今は練習だから試せることは試さないとな」


黒鉄の提案を受け入れれば魔法の準備が出来るまでの間に今回のスロムの動きを確認しておく。

群れの方へ近づく素振りはないがただ気紛れに右へ行ったり左へ行ったりと動いている。

周りの群れが攻撃に気付く範囲からは離れている事を確認するも大事を取って初撃をどうするか考える。


『若、用意出来ましたぞ』


「ん、わかった。直ぐに発動できるのか?」


『勿論。何時でも声を掛けてくだされ』


「それじゃあ、俺がスロムの背後に回って一発蹴りを入れるからその後に発動してくれ。持続時間が分からないからな」


事前に打ち合わせると他のスロムが戦闘に参加するリスクを無くす為に背後へと回っては思い切り掬う様にして蹴り上げる。

柔らかい感触が足に伝わり威力が吸収されてしまったものの2m程先に着地し転がる。

転がった後の距離も含め大分離れる事に成功したものの怒ったのか無数の細い触手を伸ばし振り回してきた。


「黒鉄、頼む」


『承知!発動、焔舞ほむらまい


黒鉄の右の目から赤い光が放たれると剣の刀身部分に小さな魔法陣が展開されるとそこを軸に炎の帯の様な物が巻き付くように出現する 。

火ゆえ多少の熱さは感じるものの動きに合わせて揺れる炎が舞っている様に見えるからこの名前なのだろうかと思いつつ迫り来る触手に対抗するように目の前で円を描くように振る。

炎が触れた部分から触手が蒸発しスロムから忌々しげな奇声が発されると更に触手が増やされ四方八方から伸びてくる。


「…多少、服を溶かされるのは覚悟しないとだな」


『怪我は某が治せますゆえ…まだ、焔舞の持続時間はありますので存分に暴れなされ』


「なんだか、忠実な家臣ができた様な気分に…なるなっ!」


迫り来る触手を最小限の動きで避けつつ炎を纏う剣の刃で切り離しながらスロム本体へと走る。

無数の触手のせいで本来ならばかなり苦戦しただろうが黒鉄の魔法のお陰で容易に距離を詰めることに成功する。

目の前まで迫ったスロムの核を狙って片手剣を突き刺せば刀身に宿っていた炎が獲物を見つけたかのように帯がスロムに巻き付く。

核への衝撃とスロムを構成する体液への追加ダメージでHPが一気に吹き飛べば光の粒子となって消えるのを見てライアは深く息を吐き出す。


『若、お見事!』


「弱い魔法だが威力は凄いな」


『的確に核を狙ったからこその威力でござるよ!ぶっつけ本番で上手くいってよか……あっ…』


「どうし、た……あ…」


成功した事に喜ぶ黒鉄だったがふとライアの手に持つ片手剣を見て言葉が尻つぼみになっていく。

どうしたのかと視線を追うようにライアも片手剣を見れば動きを止める。

刀剣部分が炎の熱に耐えきれず溶け落ちていたのだ。

どうやら焔舞の特性が関与していそうだが戦闘中良く溶け落ちずに耐えていたと片手剣を褒めてやりたくなる。


『すまぬ、若…ここまでは予想出来ず…』


「まぁ、気にするな…。どうせ刀身もボロボロになってただろうしな」


落ち込む黒鉄を慰めつつライア自身も反省する。

初期装備の片手剣にこんな使い方をしてしまえば簡単に耐久度を使い切ってしまうことなど少し考えれば分かる事である。

無駄に落ち込ませてしまったなと思いながらドロップ品を回収しようとスロムの居た場所を見るも何も落ちておらずライアは周囲を見回す。

何処を見ても居るのは生きているスロムだけであり思わずふらついてしまう。


『わ、若!お気を確かに!』


「ドロップ品まで燃やし尽くすなんて…。この連携は、暫く封印だな…」


何も収穫が無かった事に落ち込むものの己と白銀や黒鉄に経験値が入ったと前向きに考えようとしたがショックには変わりなく、今日はここまでにしようと狩りを切り上げる事にした。

この後、マオと白銀を回収し話をしながら街へと帰還したライアは訓練所に立ち寄り師匠のラルクに事の経緯を話せば大笑いされたのであった。

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