32-連携の練習・中

次は白銀との連携を意識して動く事を考えながら三体のスロムが固まっている場所に向かう。

先程の打ち上げの動作が攻撃判定にならなかったことを思い出し一番離れている個体の地面に片手剣を突き刺す。


「白銀、使おうと思っている魔法の効果範囲は?」


『指定範囲は円、旦那はんが狙っとるのを標的として…広めやから他に狙っとる奴らの真ん中くらいに置いてくれたら巻き込めるで!』


「了解、だっ!」


剣の柄を他のスロムが居る場所を確認してから多少片手剣の柄の位置を調整すると勢い良く踏み付ける。

土が抉れ宙に跳ね上げられたスロムを目で追いつつ片手剣を回収し腹の部分が当たるように持ち直しては次に狙おうとしていた二体の丁度真ん中辺りへ向け叩き付ける。

勢い良く地面に打ち付けられたスロムは水を地面に零した様な音を立てながら核の周りを覆っている体液が広範囲に広がる。


『旦那はん、ナイスや!発動、地華ちばな


『若!少しお下がりください!巻き込まれますぞ!』


白銀が大きく口を開け威嚇するように打ち付けたスロムを見ると片方の目から茶色の光が放たれ地面に魔法陣が描かれる。

初めての魔法にライアは興味津々になっていたが不意に届いた黒鉄の声に反応して飛び退くと同時に地面から細長い花弁の形をした棘が地面からせり上る。

無数の土の棘に刺されたスロム達が悲鳴のような奇声を発しながら光の粒子に変わっていくのを見つつ、先程ライアが居た場所も範囲内だったようで避けるのが遅くなっていたらと思うとゾッとする。


『ふふーん!どんなもんや!見とってくれたか、旦那はん!』


「いや、凄い…けどな?危うく俺まで巻き込まれるところだったんだが…?」


『へ?そんなアホなぁ………あれー?』


『姉上…某が言わなければ若が危うかったぞ…』


白銀が改めて発動位置とライアの立ち位置を確認しては地を蹴ったような跡を見付け首を傾げる。

額を抑えつつ笑って誤魔化す白銀の頭を軽く小突くと、発動した魔法を改めて見る。

地面から華が咲くように無数に飛び出ている棘を見ながら似た花を思い出そうとライアは考える。

前職は総務をしていたが色々な雑用もしていたので出張などもあり、折角なのでと帰る前に色々な施設にも立ち寄っていた中に確か植物園もあった気がする。


「菊…とも言えなくもないが他に似てるのは…ネムの花か?」


『これのこと言うとります?』


「あぁ。花の形に似てる気がしてな」


『旦那はんは色々と知ってはるんやねぇ』


「一人で過ごす事が多かったからな。色んな場所に行ったりしてたんだ」


魔法の有効時間が切れたのか砂となって消える様子を眺めながらライアは懐かしむように目を細める。

思えば一人で何かをするようになってから自分のペースで過ごす心地良さを知った気がする。

この街を離れた後は自由気ままに色んな場所を見て回り、たまにラルク達に会いに行くような生活もいいなと思う。

そんな事を考えつつ落ちているドロップ品を回収してインベントリにしまう。


「狭い範囲の魔法は何があるんだ、白銀?」


『狭い範囲やと敵を捕える氷獄、水の刃を作って飛ばす水刃、氷の槍を飛ばす氷槍やね』


「…ん?初期レベルでそんなに覚えるものか?」


『いややわぁ、使い魔なんやから旦那はんが経験値を取得するとわて等にも割り振られるんやで?』


「あ、レベル上がってたのか」


『旦那はんって意外と抜けとるよなぁ…』


使い魔の経験値分配システムに関しては知らなかったのでどうしようも無いが抜けてると評価されるのはライア的にはそのままそっくり白銀に返したい所である。

ふと気になる事があったので一旦スロム達から距離を取りマオと黒鉄の居る場所へと戻っては白銀に問いかける。


「話を聞いている限り、白銀は地と水、氷が操れるようだが本来これは普通の事なのか?」


『あら、そこ気づいてしまわれるとは…ふむ。話せる所までやけど…わてと黒は使い魔の中でも特殊なグループに位置する、とだけ』


「…俺が強くなれば話せるようになるか?」


『そやね、まぁ…折を見て話すさかい今は狩りに集中しましょや』


「分かった。今度は黒鉄と組むから白銀はマオを見ててもらえるか?」


『はいな!…って、黒?お前さんどこにおるん?』


『こ、ここでござ、る…』


『パパー!』


最初に乗せた木の枝から何本か離れた木の上から声がしたのでそちらを見るとマオを背に乗せた黒鉄が疲れきった様子で枝にへばり付いていた。

この短時間で何があったのかと思うものの首に巻き付いていた白銀を木へ移せば、マオが黒鉄から降りて枝に伸ばされている手に触ろうと寄ってくるので頭を撫でてやる。

暫しマオの柔らかな毛並みを堪能してから手を離すと疲れ切っている黒鉄を手のひらの上に乗せて様子を見る。


「大丈夫か?黒鉄?」


『先程の件で小さな兄上が若を心配して傍に行くというのを必死に止めただけですので…大丈夫でござる…』


「さっきのか…」


『姉上はあんな性格ゆえ若には申し訳ござらんが余計な気を使わせる事にはなりまするが足元などお気を付け頂ければと…』


「気をつけるようにする…。悪いな、マオの面倒を見てもらって」


『いえ!それはもう!某も楽しく過ごさせてもらったので謝らないで頂きとうござる!』


今度は白銀の上に乗るマオを横目に見つつ苦労したとはいえ楽しかったのか意気揚々と答える黒鉄の頭を撫でてやると気恥ずかしそうに顔を背ける姿を見てライアも笑ってしまう。

改めて気合いを入れ直すと黒鉄を肩に乗せてやり再びスロム達の方へと足を向けるのだった。

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