31-連携の練習・前

話に夢中になっていたが当初の目的を思い出したライアが話を中断させると取り敢えずはと襟元に居るマオを近くの木のしっかりとした枝の上に乗せる。

護衛のつもりで黒鉄もその隣に乗せると離れようとしない白銀を見れば得意げな表情をする。


『旦那はん、わてはアイツらを狩るのに相性がえぇからいっちょここは連携でも練習しましょや』


「そうか、白銀と黒鉄は使い魔だから戦闘に参加できるのか」


『はいな!言うてまだわてのレベルは低いさかいそこまで良いサポートは出来へんかもやけど練習して損はなし!やろ?』


「ああ。折角だから試してみないとな」


ライアの腕から首元へと移動する白銀を見つつインベントリから片手剣を取り出すと仲間から離れているスロムを見つけようと視線を巡らせる。

白銀が器用に尾で服を引っ張ってから方向を指し示す。

ライアから見て5歩分位の距離にはぐれスロムがゆっくりと地面を這うように動いているのが見えた。

感謝の意を示すように白銀の体を優しく撫でれば気分が良いのか尾の先を揺らす。

ライアは片手剣を構え核に向けて勢い良く振り下ろす。

核が割れる音と悲鳴のような奇声を放った後スロムが消えるのを見てから次の獲物へと向かう。


『旦那はん、結構力があるんやねぇ。核を一撃やなんて』


「はぐれは普通のスロムより核が柔らかいんだ。何でかは知らないがな」


『ふぅん。ほな、今度はワイが魔法で奇襲を仕掛けましょか?』


「いや、スロムは攻撃を受けると体の性質が溶解液に切り替わるんだ。逆に仕留めきれなかった奴に追撃して欲しい」


『承知や。スペルストックしとくわ』


最初に狩りに来た時は長獲物と短剣といういざとなれば距離を置いて戦えるものだったが、今回の獲物は片手剣だ。

相手とある程度距離を詰めなければいけないし初撃は楽に当てられても攻撃態勢に切り替わったスロムの触手攻撃は非常に厄介だ。

中にはわざと近距離特化の腕の形に形状を変える奴も居るが本当に稀だ。

しかし、拳で戦おうとするスロムは非常に挑発的な態度をとる個体が多く学習させた人間が気になる所だ。


「なるべく、俺が処理しきれない時に追撃してくれ。一応、しっかり戦えとラルクに言われてるもんだからな」


『ほんま、真面目さんやなぁ…。多少は楽してもえぇやろに…』


「楽をしたら心に甘えができるだろ?」


『はいはい。まぁ、怪我しても黒が治してくれるやろうから思いっきりやってもろて』


『若!某、治癒できますゆえご存分に暴れなされ!』


「……黒鉄は地獄耳か?」


『わて等は双子やからね…共感覚っちゅうやつですわ』


白銀と話をしていたらマオと黒鉄を置いてきた方角から大きな声が耳に届く。

かなり距離があると思うがよく聞こえたなと思うものの種明かしのように白銀が答えると納得したように頷く。

双子だからこそ持つ何かがあり、それが共感覚という事ならば納得せざるを得ない。

気を取り直して二体で纏まっているスロムに視線を留めるとその他の個体とは距離があるのを確認してから距離を縮める。

剣の腹をスロムの下の地面に突き刺し抉る様にして振り上げれば宙へと打ち上げた。


「コレが攻撃判定に入ったら剣がお陀仏だな…」


『なんでも試してみる旦那はん、素敵!』


「茶化すな、白銀…気が抜ける…」


『すんまへーん』


反省しているのかしていないのか分からない答えにライアは苦笑するものの打ち上げたスロムを見つつ、剣を持ち替えしっかりと刃を標的に向けると核を狙い一閃する。

勢いをそのままに体勢を変えると近くに居るスロムの核を目掛けて振り下ろす。

敵の体力を確認すれば最初の個体は削り切れたのか奇声を発しながら光の粒子となっ て消えたが、核の位置を瞬時に変えたのか数ミリ体力が残っているスロムの触手攻撃を体を捻るようにして避ける。

ラルクにあらゆるパターンの動きを見せてもらったお陰で真似る事が出来たが僅かばかり体を掠め焼けるような痛みに僅かに眉間に皺が寄る。

追撃しようとするスロムに向けて無理な体勢ではあるが片手剣を投げ付けると体に当ったのか体力がなくなり光の粒子となって消える。


「この動きは、結構疲れるな…」


『旦那はんはラルクっちゅう教官のお陰で鍛えられとるから出来たかもしれへんけど普通やったら飛び退いて避けて、体勢を整えたらもう一撃って感じちゃう?』


「それも考えたんだが、俺が体勢を整えている間に敵も体勢を整える時間を与えるって事になるだろう?だったら多少無理してでも倒す方がいいかと」


『んー、旦那はんの戦闘思考が長年戦ってきた玄人寄りなんやけど、どうしたらえぇと思う?』


小さな溜息混じりに告げる白銀にライアは答えにくく地面に突き刺さっている剣を抜き刃の状態を確認する。

若干溶けてはいるもののまだ使える範囲であることが分かると一旦鞘に収めドロップ品を回収する。

最初の狩りに比べれば買った武器の消耗が抑えられている事に嬉しさを覚えていると白銀に尾で肩を叩かれる。


『次はわても追撃するさかい旦那はんは初撃後の立ち回りだけ考えて動いてや』


「そうするか、頼むぞ白銀」


『任しときぃ!泥船に乗ったつもりで安心してや!』


「いや、泥船だと沈むだろう。そこは大船だ…」


『まぁ、細かいことは気にせんと!ほな、行きましょ!』


笑って誤魔化す白銀を見て多少の不安は過ぎるもののどうにかなるだろうと次のスロムの群れの方へとライアは向かうのだった。

その頃、マオが暇だからと黒鉄の上に乗せてもらいながらこの辺りを散策していたらしい。

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