30-絆深まる話し合い?
取り敢えずは各自の今日の予定を終わらせようと硬直したままの蜥蜴は肩の上に乗せ、マオはいつもの場所となる襟元へ、蛇は腕に巻いたままミュラを道具屋に届けるべく宿屋を後にする。
手に巻きついている蛇と最早オブジェクトと化している蜥蜴に注目が集まりはしたものの絡まれる事はなく平穏な道程だった。
道具屋の前でミュラと別れてはその足で街の外へと向かう。
森の方へ入ってしまえば誰に見られる事も無く話をする事ができるだろう。
「悪いな、一旦このまま街の外に出る。無駄に人に絡まれても困るからな」
『はーい』
マオが元気良く返事をし蛇はこちらを見て頷くのが見えたが蜥蜴は微動だにしない。
実は寝ているのではないかと思うものの尾が揺れているのを見て意識はあるらしい。
テラベルタに留まるものも少なくなってきたのかウォルやグルゴンを狩るプレイヤーの姿も疎らになっていた。
特に人に見られることも無く森へと辿り着いたライアは蜥蜴を手のひらに、蛇と視線を合わせる為に腕を少し上げる。
「ここまで来ればいいだろう。産まれたばかりなのに悪いな」
『大丈夫やで、旦那はん。わて等の事を考えてくれておおきに。こうして旦那はんと喋れるようになれて嬉しいわぁ』
『数々の御無礼誠に申し訳なく!姉上にも怒られ申した…』
蛇は少女のような声色で答え、蜥蜴は少年のような声色で答える。
姉という言葉からこの二匹が双子である事には変わりないのだろう。
初めての挨拶から蛇の方がしっかりした性格のようで受け答えがハッキリしており、蜥蜴の方は気弱な性格なのか顔色を伺いながら話しているように見える。
「ここに来ながらずっと考えていたんだ…。名前なんだが、白金の綺麗な蛇の君は
『どこまでもわて等の事を考えてくれる旦那はん…素敵!ほな、わてはこれから白銀と名乗らせていただきますわ』
『なれば、某は黒鉄と名乗りましょう!この命尽きるまで姉上と共に若のお力になりましょうぞ!』
『ボクはマオだよー!長男はボクだからねー!パパは渡さないよー!』
互いに自己紹介をしながら楽しげに話す3匹を見て喧嘩にならなかった事に安堵する。
茂みを掻き分け進んでいるとスロムの生息地である湖へと辿り着いた。
やはり、この狩場を知る者が自分以外に居ない状況を見て眉尻を下げる。
ライアのようなVRMMOを知ってはいるが実際にプレイしていない人間も居るには居るのだろうが、少しだけ訓練をして神殿で使った武器のスキルを受け取り途中で辞めてしまうプレイヤーが大半なのだと改めて実感する。
「訓練メニューがキツ過ぎるのか?日を分けて効率よくやればちゃんとこなせると思うんだけどな」
『パパー、何がー?』
「あ、いや…。ラルクの訓練クエスト…クリアしない人が多いみたいだからな」
『若みたいに努力家で途中で投げ出さない者は少ないのかもしれませんぞ?』
『旦那はんは真面目やからねぇ…。タマゴの時に独り言とか聞いとったけどあんなに考えて動く人なかなか居らへんで?』
「え、タマゴの時に聞いた事を覚えてるのか?」
白銀の言葉に疑問に思った事を問い掛けるとバツが悪そうな顔をした後に頷くと、黒鉄を尾で指し示しながら言葉を続ける。
『はいな。わて等はタマゴの中で主人となる人を良く知る為にその手に渡った瞬間から旦那はんの話などは聞こえるんよ』
「だからマオもあの時程々にって言ってたのか…」
『パパが忘れてそうだから黙ってようと思ってたのにー!』
『すんまへん、小さい兄さん。まぁ、そのせいでわての片割れが旦那はんに会った時に粗相してしもたからビビり散らかして固まっとったんですわ』
『姉上!何故そこまで言ってしまわれるのか!』
『隠した所で直ぐバレるんやから言うた方がえぇやろ。一時の恥なだけやし…』
『姉上ぇぇ』
恥ずかしさからか手のひらの上でずっと円を描く様に動く黒鉄の足が柔らかいからかライアは擽ったさに眉尻を下げる。
マオはマオで襟元から抜け出すと腕を伝い巻き付いたままの白銀の体を小さな手で叩く姿に顔合わせは今日が初めてなのに仲が良さそうで安心する。
いやしかし、腑に落ちないのはライアがまるで怒ったら恐ろしいと言うような言い方に片眉が上がる。
「俺が怒ってもそこまで怖くないだろ…」
『パパは怖いよー?』
『あんな理詰めで逃げ場なく追い込まれたら誰でも心折れるで…』
『某は、絶対トラウマになりまする』
「解せぬ…」
スロムの狩場の目の前でする会話では無いと思いつつ白銀と黒鉄とマオに責められながらライアは未だ納得がいかないというように眉間に皺を寄せる。
その後もライアのいい所や悪い所などの話になってしまい段々と目的が逸れ始めたのだった。
基本的にこの狩り場にいるスロムは仲間が攻撃を受けなければ無害である。
初心者向けの狩場だからこその設定ではあるが、暫しの時間なにやら楽しげに会話をしているライア達の姿を各々自由に動きながら遠目に見ていたスロム達はコイツら何をしに来たんだろうかと思っていた。
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