29-使い魔の誕生

肩から襟元の定位置に収まりご機嫌なマオの頭を撫でながら魔法に関する参考書をインベントリにしまいつつ後一時間弱で孵化する予定の銀色のタマゴを取り出す。

実際にこうしてタマゴ自体を出して確認したことは無かったなと思いながら表面の鱗のようなザラザラとした手触りにライアは体を洗う為に加工したヘチマを思い出した。

使い魔のタマゴという事もありかなりの重みがあるし手を伝わって鼓動の様なものを感じる気がする。


『パパー、このタマゴはー?』


「マオを貰った時に一緒に貰った使い魔のタマゴだ。もう少ししたら産まれるんだがどんな子かな?」


『むー、パパ取られないように頑張らないとー』


不満なのかマオの尻尾が肌を叩けば苦笑を浮かべつつ、ライアは密かに誕生の瞬間が訪れるのを心待ちにしていた。

自分が確認していなかったのが悪いがマオが産まれる瞬間を見守ってやれなかった事を後悔していたのだ。

しかし、ミュラと会う時間もあるのでこのままではタイミングが合わなければ見逃す事になってしまう。


「マオ、お願いがあるんだが」


『なーにー、パパー?』


「ミュラをこの部屋に連れてきてもらってもいいか?」


『わかったー!ついに、ママができるー!』


「待て、そんなんじゃない。親戚の娘と同じくらいの子にそんな気持ち抱かん」


『ちぇー。いってきまーす!』


襟元から抜け出しベッドの上に降りると器用に棚の出っ張りなどを利用して床に降りる。

同じようにペットを連れている客用にドアに備え付けられている小窓からマオが通路に出て行くのを見送る。

孵化までの時間のカウントが進むに連れて手に伝わる鼓動がより強くなっているように感じる。

空いている手でタマゴの表面を撫でると応えるように揺れた気がした。

ノックの音が聞こえてドアを見れば小窓からマオが顔を覗かせているのが見えどうぞと声を掛ける。

ゆっくりと開かれるドアの隙間からミュラが顔を出せば入るよう促す。


「おはようございます、お兄ちゃん!」


「おはよう、ミュラ。悪いな、急に呼んで」


「いえ!マオくんに起こしてもらえて逆に感謝したいくらいです!」


マオが部屋を訪れた時の事を思い出したのか頬を緩ませながら告げるミュラを見てどんな起こし方をしたのかと思うものの粗相はしていないようなので良しとする。

ベッド脇に置いてある椅子に腰掛けながらミュラも興味深そうにライアが手に持っているタマゴを見る。


「これ、何のタマゴなんですか、お兄ちゃん?」


「この街にあるマオみたいなペットや使い魔を取り扱う店の主人に貰った使い魔のタマゴだよ。本当だったら明日孵化する予定だと思ってたんだけど小一時間くらいで産まれそうな気がするんだ」


「そうなんですね…。銀色で鱗みたいな殻のタマゴ…凄く綺麗です」


部屋の窓から差し込む陽射しでキラキラと輝く様子は確かに綺麗で見蕩れてしまう程だ。

ミュラの足元から登るようにしてベッドの上にやってきたマオが疲れたのかライアの膝の上まで来ると寝転がる。

脇腹を指先で撫でてやれば擽ったそうに身動ぎをするも気持ちよさそうに尾を揺らして喜んでいる。


「ミュラには悪いが宿を出る時間を少しずらしてもいいか?」


「全然大丈夫です!その代わり私も見てていいですか?何が産まれるのか気になるので…」


「ありがとう。俺も何が産まれるのか分からなくてな。孵化するのが楽しみなんだ」


ミュラと話をしながら過ごしているとあっという間に時が過ぎて行く。

話の中で軽く調薬や錬金に関する話もしていたのだが、タマゴの殻にヒビが入るとお互いに話を切り上げ様子を見守る。

中から殻に身体をぶつける様に動いているのが手に伝わるとライアはもう片方の手を添え中の使い魔が力を込めやすいように補助する。

その後、5回ほど体当りをしてやっとひび割れた場所の殻が砕け中に居た使い魔が顔を出す。


「はわわわわ!凄く綺麗な蛇さんです!」


「タマゴの殻と同じくらい綺麗だな。プラチナみたいな色をして…ん?」


「どうしました?」


「もう1匹いるような…?」


ミュラがタマゴから顔を出した金属のプラチナに似た白金色の蛇を見て興奮している。

辺りを見回してからゆっくりとタマゴから這い出てくるとライアの腕にひんやりと冷たい蛇が巻き付く感触に思わず鳥肌が立つ。

ライアの反応に気付いたのか申し訳なさそうに頭をもたげる蛇を見て頭を撫でてやると頭頂部から尾に掛けて毛のような感触がある事に気づく。

よく見れば小さな手のような物が腹側に四つある気がする。

暫く蛇を見つめていたが卵の中のもう1つの重みが動いたかと思えば恐る恐る砕かれた場所から顔を出す蜥蜴が居た。


「1つのタマゴから2匹形状の違う使い魔が産まれるなんて…」


「珍しい事なのか?」


「はい、同じ姿で産まれるならまだしも…」


「取り敢えず…様子を見るしかない、よな」


タマゴから這い出てきた紫がかった銀色の蜥蜴は蛇が巻きついていない腕の方へ転がり落ちてしまい殻から手を離し即座に受け止めるとかなり驚いたのか仰向けの状態で固まってしまっている。

微動だにしない蜥蜴の背に手のひらなので正確には分からないが二つの突起があるように感じる。

ライアは余程驚いたらしい蜥蜴の背を指で軽く叩いて落ち着かせようと試みていると、腕に巻き付いていた蛇が頭をもたげ呆れたような目で片割れを見ていた。

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