28-朝の一時

何本駄目にするか分からないので余分に武器を購入し、ラルクには狩りをする予定だからと夕食の断りを入れてから宿屋でログアウトし現実で朝を迎える。

なるべく一日の終わりは現実で過ごすように気を付けている。

自分が本当に生きている世界を自覚する為でもあるし、生活をおざなりにして部屋などを汚いままにしておきたくないと思うからだ。


「今日は、取り敢えずログインしたら購入した武器の本数の確認をしないと…。駄目にした分はちゃんと数えて次回狩る時の戒めにしないと…」


鍋に湯を沸かし沸騰した所で塩ひとつまみと二束分のパスタを湯がきながら雷亜は今日のやる事を指折り数える。

麺がくっつかないように菜箸で解すように掻き混ぜてからタイマーを付け放置する。

その間に冷蔵庫から大葉とたらこ、バターを取り出し、暗所で保管している焼き海苔を用意する。

タイマーが鳴ったらしっかりと湯切りをしボウルに入れるとバターを一欠片入れたらこを一本と大葉を手で千切り入れてはよく掻き混ぜる。

ボウルにくっついてしまったたらこの粒が勿体ないが、なるべく残さないように皿に移すと用意しておいた海苔をキッチン用の鋏で細い短冊状に切る。


「なんか忘れた気が…あ、醤油か」


完成するが何か忘れたような気がして暫し悩んだ後に醤油を入れていない事に気づく。

追加するかしばし悩んだ後にたらことバターの塩味が効いているのでいいかと思い、使用した調理器具を洗い場に置き水に漬ける。

盛り付けたパスタの乗った皿とフォークを持ちテーブルへと向かう。


「テレビ、今日は付けなくてもいいか…。昨日ギルドがーみたいな話をしてたからそこら辺の情報な気がするし」


皿とフォークをテーブルに置くと椅子に座りリモコンに手を伸ばすが昨日の出来事を思い出せば別にいいかと宙をさ迷い掛けた手を軌道修正する。

雷亜は小さな声で食事の挨拶をしてから、フォークを手に取りたらこパスタを少量巻き付け口に運び咀嚼する。

少し味付けが濃く感じもう少し大葉と海苔を増やすべきだったかと思うもののかなり気になるレベルでは無いので食べ進める。


「静かに食事を摂るのは久しぶりだな…。大体、ラルクや他の皆と食べてるし…なんか寂しいな」


ぼそりと呟いては苦笑を浮かべつつたらこパスタをしっかり胃に収めるとごちそうさまを告げてから食器を手に持ち水に付けておいた調理器具と共に洗う。

軽く水を振り落としてから水切りかごに使った器具が並ぶと軽く体を伸ばしてから洗濯物の量をチェックし明日でも問題ないとみなして少し早めにArcaにログインする事にする。

カプセルの中に入るのも慣れたなと思いつつ横になり起動させる。

最近はログインする際の感覚にも慣れたなと思いながら酔うような感覚を軽減する為に目を閉じれば、暖かいものが上に乗っている感覚に目を開く事が出来なくなってしまう。


「………マオは寝相が悪いようだな」


瞼の上でちいさな何かが上下に動いているのを感じ起こさぬように手を顔の横に添えてからゆっくりと寝返りを打ちマオを転がす。

手のひらの上に収まればもぞもぞとマオが動きながら手を伸ばし親指を捕まえると自分の方へ引き寄せ抱き締める姿を暫し眺めると身体を起こす。

マオを手に乗せたままインベントリを開き中の物を確認していると不意に銀色のタマゴに目が留まる。

一昨日確認したときは72hの表記であったが カウントが早まっており2時間を切っていた。


「いきなり孵化が早まる事なんてあるのか?今度、アルマさんに聞いてみるか」


何かアイテムを使ったわけでもないのに不思議な事が起こるものだと思いつつ、ライアは昨日買った書籍をベッドの上に並べる。

ミュラを道具屋に送る時間までまだあるので少しばかり読んでも支障は無いはずだ。

指にしがみついているマオの手をそっと離させてから胡座をかくと膝の上に置く。

変わらず寝息を立てているのを確認してから子供でもわかる魔法の参考書を手に取る。


「まぁ、読んでるうちにマオも起きるだろ」


本の表紙を開くと本当に子供向けなのか絵による説明が記載されており、読みやすいようにと全てひらがなで書かれているため逆に大人には読みにくい。

少しばかり眉間に皺が寄るものの魔力の記載されている魔力の感じ方を目を通しながら実践する。

血液と同じように循環している魔力を感じ取る為に一人でやるにはかなり時間を要するらしいがやってみなければ分からない。

深く深呼吸をしいざ試さんと目を閉じた所でもぞもぞとマオが動くのを感じ薄目を開けると顔を擦りながら起き上がる姿が目に入る。


『パパー、おはよー』


「おはよう、マオ。よく眠れたか?」


『寝たー!パパ、暖かいから傍に居るとすぐ寝れるー』


声を掛けられてしまえば中断せざるを得ずマオの前に手を差し出せば甘えるように擦り寄ってから手のひらの上に乗る。

屋内に居るときの定位置である肩の上へと誘導すれば飛び乗りマオは鼻先を何回かライアの顎に押し付けてくる。

実践は今は止めておくことにし読んでいた本をマオに見せながらミュラと会う時間までゆっくりと過ごすのだった。


因みに今日のマオの朝ごはんは屋台で購入したきなこ棒とねり飴である。

きなこが真っ白な毛を黄色に染めたものだから朝からマオをお風呂に入れるライアの姿があったらしい。

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