27-道具屋の苦労人

無事に説教を終えては店の外に出ていたミュラとマオを店内へ招き入れ、カウンターの椅子に座り両腕を頭の上へと伸ばし泣いている薬屋の店主と対面させる。

状況が理解出来ず困惑するミュラとやれやれという顔をするマオに見つめられてしまえばライアは気まずさに顔を背ける。


『パパー、程々にって僕言ったよー?』


「すまん。段々楽しくなってきちゃって…」


「うっうっ…もう、暴走しませんっ…ちゃんと会話しますっ。突っ走りませんっ…。店でも平静を取り繕います…。泣き言も言いませんっ…うぇぇんっ…」


「と、取り敢えず反省してる様なので腕は下ろしてもらいますかっ?」


「…………そうだな」


『まだやらせたりないみたいな顔してるよー、パパー』


ミュラの肩に乗っているマオへ手を差し出せば素直に手のひらの上に移動しそのまま服を掴んで落ちないように気を付けながらライアの肩へと移動する。

小さな手でライアの頬に触れてはぐいぐいとマオが押してくる。

もう少しやらせてもいいのでは無いかと思っていた事を見通されており複雑な気持ちになった。

腕を下ろした道具屋の店主は涙を拭い鼻をかんでから改めて口を開く。


「僕はこの道具屋の店主、ヨハネです。先程はお見苦しい姿を見せてしまい本当にすみませんでした…」


「俺も言い過ぎてしまったのでお気になさらないでください。とりあえずスロムの素材の買取の方から済ませてもらって、それから先の事を話しましょう」


「はい!それではお品物見せてもらいますね」


「お兄ちゃん、スロムを狩れるんですね!」


「ははは…武器はお釈迦になるけどね」


「氷属性の魔法か土属性の魔法が使えると狩るのが楽になるって前に聞いた気がします」


スロムの核や身体を形成していた粘液などの素材をヨハネが見ている間にミュラが興奮した様子で狩りに興味を示したので話をする。

弱点となるのは氷か土で凍らせた場合には取得できる素材が変わるらしくより薬剤に適した物となるらしい。

その話に反応したヨハネが素材の代金を用意しながら話に参加してくる。


「お待たせいたしました。素材の保管状況も良くこちらの店の都合を鑑みまして全て合わせて3000ゴールドご用意させて頂きました」


「そんなに高く買い取ってもらって大丈夫なのか?」


「先程怒られてしまいましたが冒険者の皆様が回復薬を頻繁にお求めになるので調剤用のスロムの素材の消費が激しく無いに等しかったんです。これだけの素材があれば暫くは心配せずに済みますから…それに大事な事も教えていただきましたしこれぐらい払って当然です」


落ち着きを取り戻したヨハネは申し訳なさそうにしながらも憑き物が落ちたように穏やかな表情でライアに代金を手渡すと頭を下げる。

回復薬がいきなり大量に購入されるようになった事に関してはプレイヤーが頻繁に訪れるからだろう。

狩りに慣れる為に一日中敵と戦う人もいるのだから消費が激しいのは予想できる。

製造が間に合わぬままだと怪我を治療できずに死ぬ可能性が増える事を考えれば道具屋として、人として責任を感じる事になりあんな状態になるのもわかる気もする。


「ウォルやグルゴン、稀にブルルンの素材は他の方から買取していたのですが、スロムの素材はライアさんが初めてでしたので…本当に有難いです」


「スロムの生息地が森にあるって知らないからだろうな…。皆、街を出て見つける事が出来る敵と戦うから」


「なるほど…そういう事ですか。森になんて用事がなければ入りませんよね…。何が居るかも分からないでしょうし」


納得したように頷くヨハネに狩場を独占していてもあまりメリットが無いことをライアは考えるとある事を思いつき提案する。

目を瞬かせながらライアの案を聞き暫し考えた後に快い返事をするヨハネと今後の予定を軽く打ち合わせする。

その間、ミュラは店内の薬草を見つつ時折マオを撫でながら待っていた。


「…じゃあ、1週間後店内に張り紙をするという事で」


「はい!何から何までお世話になってしまいすみません」


「いや、初対面なのにお説教してしまったからな…詫びのつもりだ。ついでにこの錬金と調薬の本を買って行きたいんだが?」


「いえいえ、アレは僕が悪かったですから…では、そちらの半額で売らせて頂きます!分からない所があれば聞いて頂けたらお教えいたしますよ!ここの道具は殆ど僕の手作りですから」


「え、ここの薬草とかお兄さんが作ってたんですか?」


「はい!良ければお嬢さんも遊びに来てくださいね!工房もお貸しできますよ」


「はわわわわ!絶対来ます!」


本の代金を支払いながら話をしているとマオと遊んでいたミュラが道具の制作をヨハネがしていると聞いて食いつく。

先程、薬草の処理などに関心を持っていたのでもしかしたらそういった知識が豊富なのかもしれない。

更には工房の話が出た時点でミュラは今後この街で何をするか決めたようで嬉しそうにヨハネと話をしている。


『パパー、なんか複雑そうな顔してるねー?』


「なんか、娘を取られた気分になっただけだ…」


『パパの子供は僕だけだもーん』


「ははっ、ごめんごめん。拗ねるなって」


宿屋から道具屋までそんなに距離もなく自分が狩りに出る時に此処へミュラを送り届けてから行けば心配もない。

マオに表情を指摘されライアは苦笑を浮かべるも不貞腐れたようにそっぽを向くのを見て謝りながら手のひらで包むように触れ親指で耳の根元や顎元を撫でると気持ちよさそうに目を細め身を預けてくる。

明日はミュラを道具屋へ送り届けてからラルク指定の片手剣でスロム狩りを行い、素材を売るまでを目標として決める。


目標を決めたはいいが武器を買っていない事を忘れておりミュラを宿屋に送ってから閉店間際の武器屋に駆け込んだライアが居たらしい。

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