26-お説教再び

道具屋へと訪れたライアは店主に詰め寄られていた。


「ぜひ欲しい!」


「ちょ、落ち着いてください?ね?周りの人が見たら何事かと…」


「もう私には君しかいないんだ!頼む!!」


いかにも、他の人が見たら勘違いしそうな状況になった経緯はこうである。


広場で練り飴を食べた後、マオはいつもの定位置であるライアの服の襟元に帰ってきている。

ゴミはちゃんと捨て場に捨ててから道具屋へと向かったライア一行は店内に入れば、落ち込んだ様子でキノコを生やした分厚い眼鏡に白衣姿の店主であろう男と対面する事になった。

この世の終わりだ、首を吊るしかないなど不穏な事を言いながら店のカウンターに座っており正直不気味である。

帰った方が良いのではないかとは思ったが商品は綺麗に陳列されており目に入った薬の前には効能など分かりやすく書かれたポップが整備されている。


「回復薬から軽傷用の塗り薬とか色々あるな…。POPがあるから用途も分かりやすくていい店そうだけど…店主が不気味だ」


「店主さんはアレですけど薬のいい匂いがします!店で販売している薬草とかも丁寧な処理がされてるので品物に関しては当たりだと思いますよ!」


『ボクは苦手かもー…色んな匂いが混ざって辛いー…』


「マオ、少し我慢してくれ…」


『我慢するー…』


己の尾を抱く様にして鼻を隠し服にしがみつくマオの頭を優しく撫でながら店内を見る。

ミュラは薬剤用の素材が陳列されている場所を見に行き感嘆の息を漏らしながら質を確認している。

エルフだからかこういった薬草などに関する知識は親などから教わるのだろうかと思いつつ、薬の他にも書籍が置いてあるのを見てはライアは本棚の方へ足を向け表紙を確認しながら買うか悩み始める。

薬学に関する本と錬金術に関する本の初心者から中級までの物が取り揃えられており基礎から応用まで身に着けられそうである。

回復薬を己で作成出来るようになれば外で素材を調達し現地で必要な分を用意したりと臨機応変に動きやすくなる。


「覚えておいた方が後に助かるよな…」


『あんまり臭くならないでねー、パパ?』


「意外とこういう作業は好きな方だから夢中になり過ぎないようにするよ…」


本屋で魔法に関する書籍を購入しているため更に本を購入するなら先ずは素材を売った方が良いと思いカウンターでキノコを生やしている店主に歩み寄るとあまり気は進まないが声を掛ける。


「あの…素材の買取はしてくれますか?」


「あぁ、はい…ウォルの毛皮ですか?それともグルゴンの腰布?耳?」


「えっと…コレなんですけど…」


「な、なななな、コレはァァ!貴方、スロムを狩れるんですか!?と言うか、もしや狩場を知っておられる!?」


「ま、まぁ…また近々狩りに行こうと思ってますが…」


「これは天の助けでしょうか!!!神よ!!ありがとうございます!!この方と巡り合わせてくれた事に感謝を!!」


先程までの暗い雰囲気が吹き飛び素晴らしいまでに生気を取り戻した店主がカウンターの上に置かれたスロム関連の素材を見てライアに詰め寄りながら神に対して色々と美辞麗句を並べ立てている。

あまりの変わりようにライアも反応に困ってしまい薬草を見ていたミュラまでどうしたのかと傍に来た。

壁に追い詰められ不気味な笑みを浮かべながら店主が狂気を孕んだ様な目でライアを見つめ顔面横に勢い良く手を付き涎を垂らしつつこんな大声出せるのかと不思議なほどに声を張り上げ告げる。


「ぜひ欲しい!」


「ちょ、落ち着いてください?ね?周りの人が見たら何事かと…」


「もう僕には君しかいないんだ!頼む!!」


「はわわわわわわっ!」


『パパーこの人怖いー!』


「ホントに落ち着いてくれ!スロムの素材ならある分だけ売るから!なんならまた持ってくるから!離れてくれ!」


冒頭までの経緯がわかって頂けた所で絵面的にピンチなのも変わらず必死に声を掛けていると我に返った店主の顔が青白くなったかと思えば飛び退くように距離をとるとその場で土下座する。

小さく震えながら鼻をすする音と共に謝罪と事の経緯を説明し始める。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!最近はウォルやゴブルンの素材ばかりで薬の素材の要となるスロムの素材が足りなくてですね!このままだと在庫を切らしてしまう可能性があり逼迫していた所にお客様が神様のように素材を売りに来てくださいましたので思わず興奮してこのような無礼を働いてしまいまして誠に申し訳ございません!ですが、お願いです!他のところで売ろうとしないで後生ですからウチの店で素材を買い取らせて頂けますとここで命を断てと言われても困りますが他よりも高く買取らせていただきますので僕を助けると思っておねが…」


「だー!落ち着いて!そんなに一度に言われたら何言ってるか俺も分からないんで!」


『今日はパパ、ホントに厄日だねー』


「マオ、茶化さない」


『ごめんなさーい』


捲し立てるように一息で謝罪とお願いを言う店主の言葉を遮るようにライアが叫ぶ。

襟元に居るマオが耳を伏せながらライアを見上げると鼻先を顎元に数度押し付け謝罪しつつ慰めるように尾で肌を撫でる。

傍から見ていたミュラにも慰めるように背中を叩かれ苦笑を浮かべるも未だに土下座を続ける店主を見下ろし深い溜息を吐いてから立ち上がるように促す。


「ミュラちゃん。すまないが、マオを連れて店の外で待っててくれるか?」


「は、はい!マオくん、こっちにおいで?」


『…パパー、あんまり折り過ぎちゃダメだよー?』


「まぁ、程々にする」


素直にミュラの手の上にマオは乗るも振り返りライアに一言伝える。

インベントリの中であの時の事を見ていたのだろうかと思いつつマオの頭を優しく撫でてはミュラが店の外に出るのを見届けてから店主に向き直ると取り敢えずはカウンターにある椅子に座らせる。

準備は整ったと言わんばかりにライアは何時ぞや師匠を叱った時同様の笑みを浮かべる。


「取り敢えず…店主さんの悪い所から全て話していきましょうか?色々と指摘したい所がありますので…心して聞いてくださいね?あぁ、ちゃんと素材は売らせて頂きますのでご安心ください」


「ひゃっ、ひゃいっ!」


満面の笑みだが何処と無く威圧感を感じすっかり怯えてしまっている店主を目の前にしてもライアは止まる素振りは見せない。

リストバンドが通知音を鳴らした事にも気付かずお説教をするのだった。


いくら店のピンチで窮地を救うような客が現れたとはいえ、一人で突っ走ったかと思えば客が困惑する程の謝罪にお願いを述べるなど怒られて当然である。

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