20-迷い人

アラクネを後にしたライアは襟元がお気に召したマオと屋台を巡っていた。

なるべく人に見せない方が良いとも言われたが産まれたばかりで色々な物が気になるマオの探究心にはなるべく応えてやりたいと言うのもある。

最初の街なので変なNPCなどが設定されていないからこそ、こうしてゆっくり出来ているのかもしれないが。

そう考えると先を行く攻略班は気が休まらないのではないかと思うが人それぞれのやり方と思いライアは思考を中断する。

マオの気になる食べ物を手荷物に訓練所へと足を向けていると見掛けた事がない人物が道を探しているのが目に留まる。


『パパー、どうしたのー?』


「ん?いや、なんか道に迷ってる人が居るなと思って…」


『ホントだー。ボクみたいにキョロキョロしてるー!』


「マオは色んな物に興味があるからな。何かを知りたいって言うのはいい事だよ。でも…あの人は違うみたいだし本気で困ってそうだから声掛けるか」


『ボク、服の中に潜ってるねー』


服の中に潜ろうとするマオにアルマの店で購入したペット用のクッキーから一枚取り出し手渡す。

自分と同じ位の大きさのクッキーを受け取り嬉しそうにするマオの頭を撫でてから服が少し膨らんでいてもおかしくないような荷物の持ち方へと変える。

ここに来るまでにマオと知らない人と話す場合のみ信頼できるか分かるまで身を隠すと約束をしたのだ。

クッキーを食べ終えるまではモゾモゾと膨らみが動くことにはなるがなんとかなるだろう。

気を取り直して道を探している人物に歩み寄り声を掛ける。


「すみません、何かお困りですか?」


「えっ、あっ、そのっ!ココへ行く道が分からなくてですね!!」


「その地図、見せてもらっても大丈夫ですか?」


「ひゃっ、ひゃい!」


傍まで来ると迷い人の背は思ったよりも小さく丁度ライアの胸くらいまでの身長で高めの声色からして女性のようだった。

用心の為かフード付きのコートを着ているので顔は口元位までしか見えていないが腰には護身用の剣を携えているのが分かる。

地図を受け取ると目の前にクエストを通知するメッセージウィンドウが表示された。


〈奇縁クエスト

迷い人への道案内

目標:特定の場所に迷い人を連れて行く

報酬:隠された村の情報、50ゴールド

※断る事も可能です〉


地図を見ればプレイヤー用のマップにもピンが刺ったので位置を確認すれば良く行く酒場である事がわかる。

特に断る理由もないのでそのまま迷い人に視線を向けると警戒しつつも助けを借りたそうにライアを見ているのが何となくだが分かる。


「俺の知ってる場所だから案内するよ。君が嫌じゃなければ」


「お、お願いします!こんな建物のある場所、初めてで…」


「初めてならこんな似たような建物ばかり並んでたら分からなくなるよな。あ、そうだ…俺はライアだ。名前が分かれば多少は安心するだろ?」


笑みを向けつつ彼女がついてこれる速度で街道を歩き始める。

時折興味深そうに露店や窓の傍に展示されている商品などを見て立ち止まる彼女に合わせてライアも歩みを止めると、服を直す振りをしながらマオを布地越しに撫でると鼻先を指に押し付けてくる。

退屈そうではあるがライアとくっついていられるからか不満を漏らす事もない。

もしかしたらクッキーを食べて眠くなっているだけかもしれないが。


「街には、色んな物があるんですね…」


「そうだな。道具屋もあれば食堂や宿屋もあるし、こうした露店には装飾品とかも売ってるからね」


「凄いです…。私の住む村は、自然は溢れていても閉鎖的だから…たまにくる旅商人さんのお話が楽しみなくらいです。姉様が村を飛び出した気持ちが、ここに居ると分かってしまうかもしれません…」


露店にある髪飾りを見ながら彼女が告げる言葉にはほんの少しの寂しさが滲んでいるような気がする。

女性の慰め方は心得ておらずライアは少し悩んだ後にフード越しに頭に手を置いては優しく撫でてやる。

驚いたように彼女は一度ライアへ顔を向け見てきたが抵抗はせずに受け入れてくれたので安堵する。

日も暮れ始めているため遅くなっては彼女も危険だと思い、あともう少しで着く事を教えれば再び歩み始める。


「着いたよ、ここが君の探してた場所だろ?」


「はい、ここです!ここに姉様が…居るはずです!」


「まさか、毎日来てる猫の遊び場に人を案内することになるとはね…」


まだ開店時間にはなっていないが店先にテラス席を用意している従業員が居たので彼女の代わりに声を掛ける。

もはや常連となっているので直ぐに話が進み今日は仕事をしに来ている筈のある人を呼び出してもらう。


「ライアくん、昨日ぶりね?私に用事って?」


「忙しいのにすいません、ソアラさん。彼女がこの店に用事があるみたいで…この店の料理長である方に会わせた方が何かと話が進…」


「姉様!!」


「えっ?ミュラ!?」


店の中から出て来てくれたソアラに軽く会釈をしてから説明をしている最中に彼女が飛び出す。

途中で言葉を遮られてしまったが抱き着いた拍子にフードが取れた彼女の髪はソアラと同じ蜂蜜色の髪をしている。

顔は見えないがどうやら感動の再会のような展開なので部外者が邪魔をするわけにもいかずそのまま二人で話しをする姿を見て近くの従業員に声を掛けると近くの席を借りて座る。

どうせ訓練所を閉めたらラルクも此処へと顔を出す筈なので邪魔をしないように風景に溶け込む事にした。

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