19-宝石獣・後
アルマが見せてくれた本には宝石獣の特徴と、動物としての種族に縛りはなくあらゆる姿で産まれてくる事が記載されていた。
時には鹿に似た姿や身近にいる猫や犬の姿の時もあれば、魚や鳥の姿で産まれた事があるという情報にマオの姿を見て納得する。
個体差にはよるものの知能が高く、主と認めた者には決して傍を離れず主人の寿命と共に永遠の眠りに付き、その身を完全な宝石に変えるとも書かれている。
固有の能力などは判明されていない旨が書かれており手探りで知るしかないらしい。
ふと、その中に始めた頃に見た生物の名前が記載されており僅かに目を細める。
「宝石獣は精霊龍の遣い…?」
「精霊龍はこの世界を作り出した神に遣える存在の事よ。と言っても、文献にはほんの少ししか残ってなくて本当に居たかも分からない夢物語のような存在なのよねぇ…」
「その文献ってここにあったりしますか?」
「ここには無いわ。王族がそういった文献を収集してるから王都の図書館に保管されてると思うわ」
宝石獣が精霊龍に関連するものと分かっただけでも棚からぼたもちが降ってきたようなものだった。
マオ以外にも存在しているのだとすれば、この世界を冒険していく上で出会うことが出来るだろう。
いつの間にかペロと取っ組み合いの喧嘩をしているマオを回収しては、鼻先をつついてやると見事に尾を垂らしながら見つめてくる。
『この犬嫌いー!パパはボクのなのー!』
「マオ、そんな風に言っちゃダメだろ?」
『だって、だってー!当たり前みたいにパパの膝の上に乗るからー!!』
「あー、それは俺が悪かったな…。マオが来るまではペロを撫で回してたから…」
小さな手で俺の手を叩きながら決してパパが嫌いとは言わないマオに申し訳なくなる。
ペロの頭を優しく撫でれば、意図を察したのか1つ吠えると手の平の上のマオをひと舐めしてからアルマの方へと戻っていく。
マオ自身も嫉妬で酷い事を言ってしまった自覚があるからか小さく震えながらも、服の裾から隠れるように中に潜りこむと体を丸めてしまう。
「ごめんなさいね、うちのペロちゃんが…」
「いや、俺もつい何時ものようにペロを撫でてしまったのが悪いので…。産まれたばかりのマオからしたら嫌な気持ちになるって考えてやれませんでした」
「私もね。ペロちゃんが来た頃は下に居るタウ君とメルちゃんがかなり荒れたの。懐かしいわぁ…」
頬に手を添えながら懐かしむように語るアルマの話を聞く。
その間も服の上から落ち着かせるようにマオの体を優しく撫でていると、不意に目の前にメッセージウィンドウが表示される。
間が悪いと思いながらも目を通すとクエスト開始通知が2件来ていた。
〈種族クエスト・Ⅰ
精霊龍のルーツを辿れ
目標:王宮の秘密書庫に入る
報酬:封印の一段階解除
期限:無期限〉
どうやら精霊龍の話を聞いた事により生成されたクエストのようで種族に関係するものだからか期限はないようだ。
Ⅰという記載があるので連携クエストのようなものだろうかと思いつつ、もう1つのクエストを見ると目を見張る。
〈伝承クエスト
とある宝石獣を捜索せよ
目標:???
報酬:???
※ペットが成長する事によりヒントが得られます〉
明らかに他とは違うクエストの内容に驚いたが、読み終わった頃を見計らうかのように聞き覚えのあるリストバンドの通知音が鳴り響き、嫌な予感が頭を過ぎる。
強制的に開かれるメッセージウィンドウは、ワールドアナウンスしかないのでまたかと思うものの、次に表示された内容に頭を抱えそうになる。
〈搭乗者の皆様へ
【匿名】様により伝承クエストが発見されました。
これより、特定の武器、ドロップ品、一部のペットなどに連なるクエストが生成されるようになります。
取得するだけでは意味がないので、特定のキーワードや情報を集める必要がございます。
謎を解き明かす過程がある分、難易度が高くなりますがより豪華な報酬を得る事が出来ます。
※クエストは搭乗者同士で共有すると無効になるものもございますのでご注意ください。
引き続きArcaをお楽しみください〉
アルマの話も耳に届かない程、メッセージウィンドウを凝視した後に遠い目をしていると、リストバンドが他にも通知を届けてくれている音がしたが見る気にはなれない。
「ライア君大丈夫?」
「あ、あはは…大丈夫です。ちゃんと話を聞けてなくてすいません…」
「大丈夫よ。何か余程の事があったんでしょう?」
『パパ…だいじょうぶー?』
「まぁ、疲れ気味というか最近訓練ばかりしてたから疲労が溜まったのかもしれないです。マオも心配してくれてありがとな」
アルマの言葉を聞いたからか心配そうに服の裾から顔を出し、様子を伺うように見上げてくるマオに笑みを浮かべながら優しく撫でれば擦り寄ってくる。
撫でてくれる手を壁にしながら少しだけ顔を覗かせてペロを見る姿を見て、気に掛けているのがなんとなくわかるとマオをテーブルの上に乗せてやる。
少し逡巡した後に意を決したようにマオがペロに歩み寄る姿をアルマと一緒に見守る。
動物同士でしか分からない言葉を交わしあっているような様子を見せると、ぺこりと頭を下げるマオに気にするなと言うように鳴いてからペロがテーブルの上に顎を載せる。
マオが傍へと歩み寄れば仲直りも兼ねているのか鼻先同士を擦り付け合う。
その後は二匹で遊んでいるのを見つつ、アルマにマオに食べさせていいものなどを聞く。
宝石獣は餌に縛りがないらしく同じ食事を食べても問題がないらしいので、帰りにマオが気になっていたお菓子の屋台に寄る事にする。
毛の手入れの方法などの世話に必要な話を一通り聞き終えれば、他にも客が来るという事なのでペット用の餌もあれば便利かと思い少し買わせてもらってからマオと共に店を後にする。
この仲直りをキッカケにアラクネに顔を出す度に仲睦まじげにじゃれ合うマオとペロの姿が見れるようになり、使った事がなかったスクショ機能を俺はリストバンドから呼び出し撮影するようになった。
因みにメルとタウは店に来るプレイヤー全員を怯えさせてしまうからと、あんな格好をさせられたらしい…逆に怖いと思ったのは内緒である。
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