18-宝石獣・前

取り敢えずはベッドの上に散乱しているタマゴの殻をインベントリに収納して名称を見れば、ペット(??)と書いてあるのを見る。

?の部分には何が書かれていたのだろうかと思うものの、手の平の上で指を舐めたりして甘えられてしまえば指で頭を撫でてやるも、書かれている説明が頭に入ってこない状態に苦笑を浮かべる。

説明を読む事を諦めてもう片方の銀色のタマゴを確認すると、こちらはまだ孵化まで時間が掛かるようで残り72h3日と表示されており一秒ずつカウントが進んでいた。


『パパー!パパの手おっきー!』


「こんな風に会話出来るペットって居るのか?」


『知らなーい。パパー、名前ー!ボク、名前欲しー!』


「あー、うん…そうだな、名前が無いと不便だよな」


撫でていた指にしがみつき、ぶら下がりながら名前をせがむ小動物の名前を考える。

体毛は殻とは打って代わり、汚れたらすぐに洗ってやりたくなる程に綺麗な白色の毛をしており額の翡翠色の石と赤い瞳が特徴的である。

もしかしたらアルビノなのかもしれないと思ってうも、陽の光を見ても目の痛みなどは訴えてこないので問題無い様子をれば元々の色のようだ。

指にぶら下がっている間に性別を確認させてもらい、立派な雄である事が分かれば男の子を連想させる名前を考える。

雌なら小雪とか色々あったのだが雄となると中々に思い付かず首を捻るものの出来ればいい名前を付けてやりたい。


「んー、そうだなー…。毛の色とか抜きにして…マオなんてどうだ?」


『マオ!ボクはマオ!気に入ったよ、パパ!』


指を離し太腿の上に飛び降りると服をよじ登って肩に乗れば鼻を頬に擦り付けてくる。

可愛さに癒されつつ、産まれたら店に来いと言っていたアルマの言葉を思い出せば宿屋のベッドから降りると軽く伸びをする。

肩の上に乗っていたマオが急に動いた事で服にしがみつくのを見て謝りつつ、大丈夫と告げてから器用にしがみつきながら首元まで移動すると、服の中へ潜り込み中で方向転換しては襟に顎を乗せるように顔を出す。


「マオと巡り合わせてくれた人の店に行くから大人しくしてるんだぞ?」


『ボクいい子ー!パパの言うこと聞くー!』


服の襟を掴みながら大人しくするマオの頭を指先で撫でてから宿屋を後にする。

外に出ると嬉しそうに周りを見る姿も産まれたてなんだなと思うも、服の中で揺れるマオの尻尾の毛が肌を撫でて擽ったい。

道行く人々がチラチラとマオと俺を見て、羨ましいやペット可愛い、飼い主ちょっとイケメンじゃない?などと言っているのが耳に入る。


『パパー、アレ何ー?』


「露店でお菓子を売ってるみたいだな」


『お菓子ー?食べ物ー?』


「そうだよ。甘いのからしょっぱいのと色々あるぞ」


『ボクも食べてみたーい!』


「マオが食べられるものを店で確認してからな?」


『はーい』


忙しなく辺りを見回すマオの鼻先を軽く突いたり頭を撫でたりと、退屈させないように構ってやりながらアラクネに辿り着いては看板を確認してから扉を開けるも、再び硬直する事となる。

可愛いリボンを角に結ばれた虎の上に、何故かひらっひらの大きめに作られたドレスを着てゲンナリとした様子の牛が出迎えてくれたからだ。

確か虎の方はメルと呼ばれ、牛はタウと呼ばれていた事を思い出す。

げんなりとした表情がなんともいたたまれなくなるものの、奥からひょっこりと顔を出したアルマがペロを抱いて出てきた。


「あら!ライア君!来てくれたのね!」


「お久しぶりです、アルマさん」


『パパー、ココが目的のお店ー?色んな匂いがするー』


「この子が産まれたので見せに来ました。名前はマオです」


「あら!あらあらあらあら!凄く可愛い子が産まれたわねぇ!しかも、この子は宝石獣ジェムビーストね!」


「宝石獣?」


店先で立ち話はなんだからとアルマが2階へと通してくれた。

後から行くと告げられ階段を上がる途中の壁を見て色々な動物の絵画が掛けられているのに気付き、少しばかり鑑賞する。

どの絵にもアルマが一緒に描かれており年代は分けられていると思うのだが、今の容姿から変わっているように見えない。

エルフ以外の長寿の種族なのだろうかと考えるも、後から上がってきたアルマに声を掛けられ思考を中断する。

慌てて2階へ上がるとアルマが先頭に立ち奥まった角にある部屋へと通されれば、そこには数多くの本棚がある書斎のような場所だった。


「一つだけ注意をしておきたいんだけれど…この街の人は問題ないとは思うわ。でも、マオちゃんはなるべく信じられる人にだけ会わせるようにした方がいいわね」


「…どうしてですか?」


「凄く希少な子なの。この世界でペットにできた人は10人も居ないかもしれないわ。優れた知能を持っていると聞いた事があるけれども、まだ解明されてる能力も少ないの」


「確かに、マオは生まれた時に俺にパパって喋りかけるくらい知能はありました」


「あら!じゃあ、その子は念話のスキルを持ってるのかもしれないわ!生まれた瞬間から子供くらいの知能を持ってるとなると…成長するとどうなるのかしらね」


近くのソファーに座るように促され、俺は軽く頭を下げてから腰掛けつつアルマの腕から床に降ろして貰ったペロがすかさず撫でてくれと寄ってくる。

前足の脇に手を差し込み抱き上げると、膝の上に乗せてやり首元や耳の付け根などを撫でてやれば、気持ちよさそうな顔をしているペロにマオが首元から飛び出し太腿の上に着地すると尻尾を逆立て威嚇し始める。

何となく微笑ましい光景に見えてしまい笑みが浮かぶものの、アルマが一冊の厚い本を持って向かいのソファーに座りテーブルを挟む形で対面する。


「この本に少しだけ宝石獣に関する話は出ているけれどもページが所々破れたりして読めない所もあるかもだけれど…。あ、ここの部分だわっ!…よかったら読んでみて?」


アルマがページを捲り該当の場所を見付けるとその部分を開いたままの状態でテーブルの上に置き、差し出してくれるので開かれた場所を閉じないように手に持つ。

ペロに対して一方的にマオが威嚇している状態が続いているので申し訳ないが、ソファーの上に一旦退いてもらうと開かれた内容に目を通すのだった。

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