17-パパになりました?

ミランダとラルクの一悶着を収めた後、頼んだ料理はほぼアランが食べてしまっており流石に怒ったのは言うまでもない。

弟子がやらかした事だからとミランダの支払いとしてちゃんと再注文し、料理は堪能させてもらったのでチャラとなったのだが。

初めて酒を飲むという事でアランに一口だけ飲ませたのだが、下戸だったようでテーブルに突っ伏す様に寝てしまったのでどうせ宿屋で部屋を取るからと、俺が連れていくことになりラルク、ミランダ、ソアラを残して酒場を後にする。

ちゃんと宿屋に辿り着きアランの分も代金を払いつつ、部屋のベッドに寝転ぶと寝るかログアウトの選択肢が出たので後者を選ぶ。


「ログアウトすると一気に現実に引き戻されるような感覚なんだよな…」


宿屋のベッドに横になってからログアウトするので現実の姿勢と変わらない状態で起きれるのは良いが、少しばかり静かな部屋を見回し寂しさを感じる。

まだ少し飲み足りないような気がするが不思議と腹は満腹なので、深夜に開いてるスーパーに明日の朝食の材料を買いに行く。

日持ちのするような物となるとカップラーメンとかになるのだろうが、仕事を辞めたお陰で時間には余裕があるため作るようにしている。

と言っても、チャーハンや焼きそばなどのお手軽飯になるのだが。


「ソアラさんに料理を教わるのが楽しみなんだよな…。あの味を再現するためにもしっかり金も稼いで食材買えるようにならないとか…」


初心者の街すら脱却できていない時点でまだまだ先の話とはなるのだが目標は高く持っておくべきだろう。

使うことなく貯め続けた貯金もまだあるので生活には支障はない、はずだ。

明日はスロムを狩った後にドロップ品を売りにラルクから教わった店を回ってみようと思い、予定をスマホのメモ帳に書いておく。

ふと、アルマから貰ったタマゴを思い出し孵化までどれくらいの時間が掛かるか確認していなかった事を思い出す。


「明日ログインしたら確認しておかないと…なんか色々あったからか色んな事を後回しにしてる気がする…」


貰ってから約1週間は経っていることを指折り数えて確認すれば、さすがに放置し過ぎたなと苦笑を浮かべる。

食材の買い出しを終えて帰宅すると軽くシャワーを浴びてから服を着替え布団に潜り眠りに着いた。


翌日、ベットから起きると買ってきた食材で食パンにハムとレタスを挟んだサンドイッチを作って食べる。

ちゃんとからしマヨネーズも手作りして塗り、ピリッとした辛さが起きたばかりの目を覚ましてくれる。

テレビを付ければArcaの情報を専門に扱う為だけに放送局が作ったチャンネルへと切り替え、朝食を食べている間だけ視聴するのが最近の日課だ。


『皆さん!おはようございます!今日もArcaの情報をお伝えしていきますのでチャンネルはそのままでよろしくお願いしますね!』


『今日の情報はどんなものがあるんでしょうねぇ…。ふむふむ!どうやら始まりの街で服を溶かされて帰ってきたプレイヤーを目撃したという話がありますね!』


『え、始まりの街周辺に出る敵はオオカミによく似た獣型のウォルと緑の体が特徴の棍棒を持った小さい亜人型のグルゴンでは?』


『後は少し強めの猪に似た獣型のブルルンが普通のハズなんですけどねぇ…。始まりの街にレアな狩場でもあるんで…』


番組キャラクターのようなコスプレ衣装を身に纏った女性達が話す内容を聞いて、そっとテレビの電源を落とすと今日は食べる事に集中する。

半裸である事を目撃されたのは致し方無しと云う所だが情報がリークされるのが早すぎるのではないかと思う。

いや、ゲームと言ったら情報が何よりも大事というのは分かるが、コレが俺だとバレれば人が押し寄せてくるだろう。


「今日の狩りとドロップ品の処理は明日以降の方がいいかもだよな…」


スマホのメモ帳を開き予定に取り消し線を付けては、残った項目であるタマゴを確認する事を優先事項に決める。

その後はまた何時ものようにラルクに稽古をつけてもらうのもありだなとサンドイッチを食べ終われば、使った食器を洗い、洗濯などの家事を済ませてからArcaにログインする。

いつも利用させてもらっている宿屋の天井を見つめてからゆっくりと身体を起こした所で動きを止める。

太腿の上辺りが膨らんでおり何かがもぞもぞと動いているのを見てしまったのだ。


「え、俺…なにか産んだ?」


頭が回らず変な事を言ったような気はするものの恐る恐る布団を捲り確認すると、そこには前足で必死に顔を掻いている生き物が見える。

ゆっくりと布団を剥がせば急に明るくなり眩しいのか頭を抱くように丸くなると、尻をこちらに向けてくる。

柔らかそうな体毛に額辺りに小さな翡翠色の石があるのが見える。

よく見れば太ももの周りに空色のタマゴの殻が散乱していた。


「えーっと…コレは、確認する前に孵化しちゃった感じか…?」


太腿の隙間に挟まっている小動物をそっと手の平の上に乗せて持ち上げると、確認する為に顔の前へと持ってくる。

一見ハムスターのようにも見えるが、尻尾はリスの様にフワフワで長い。

前にフクロウカフェのスタッフを見た時にラインナップに居たチンチラに似ている様な気もしたのだが、首回りにはライオンのような立派な鬣のような毛が生えている。

鬣辺りに触れると指先が埋まるくらいかなりもふもふとした柔らかい毛が気持ちよく、寝ている間に暫く手の平の上に乗せたままの状態で空いているもう片方の手で撫でていると、違和感を感じたのか薄目を開けた所で何度か瞬きをした後に俺と目が合うと飛び起きる。

そして、嬉しそうに小さな手を目いっぱい広げて尻尾を振りながら爆弾発言をする。


『パパ起きた!』


「へ?」


『パパー!』


「なんてこった…子供だなんてまだ心の準備もできてないのに…」


目の前の小動物が脳に直接語りかけて来たことよりもパパに驚いた俺は、周りに知人が居たら盛大に吹き出していそうな程にズレた発言をするのであった。

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