15-狩りの後
悪戦苦闘を繰り広げ、すっかり疲れた様子で狩場から街へと戻ってきたのだが人目を避けながら行動しなければいけなくなり、裏路地などを利用して訓練所の教官室へと辿り着いてはボロボロの姿でデスクに突っ伏す。
深い溜息を吐いてから身体を起こせば、今回の狩りで手に入れたドロップ品を確認する為にインベントリから取り出していく。
スロムの体液やコアの詳細を確認しながら売るものと売らないもので分けていると、時折訓練の合間にラルクが顔を出してはこの街の住民がどんな素材を求めているかなどこっそり教えてくれる。
前回のミランダと一緒にお説教をされたのが効いたのか、最近は少し冷静に物事と向き合えるようになったと笑いながら話すくらいには立ち直り、関係は良好よりもっと親しくなれた気がする。
「それにしても、初っ端からスロムを狩りに行くとはなぁ…。武器は幾つ駄目にした?」
「持っていった槍一本と短剣を四本全部が駄目になりました…」
「ガハハハッ!アイツらは攻撃を受けると体の成分を溶解液に変化させるからな!五体満足で戻れただけ上々だろう!」
「そういう情報は先に教えてくれよ…ラルク…」
「この前の説教の仕返しだ!まぁ神殿に一度も行かせてないのにスキル無しでよくやったなァ!」
豪快に笑いながら褒めてくれるラルクを恨めしげに見つつ、帰り道を思い出せば苦虫を噛み潰したような気分になる。
武器がお釈迦になった事も痛かったが、何よりも回避に失敗して溶かされた服により恥ずかしい思いをする事になったからだ。
ほぼ上半身は着ているのか居ないのか分からない状態となったし、炎症を起こした皮膚がヒリヒリとした痛みと熱を伴い辛かったのもあるが、帰り道で一部の人にその姿を見られてしまったからだ。
何と戦ったんだと不思議そうな視線を送ってくるプレイヤーが多い気がする。
決してこういう趣味がある訳では無いので誤解はしないでほしいと思うが、好機の視線から逃れる為に四苦八苦したものだ。
「服もダメになったしどこかいい店知らないか?」
「この時間じゃぁツテのある店も閉まってるなぁ。その格好じゃあ人目を集めちまうから訓練生用の服があるからそれでも使ってるか?」
「有難く!!!」
勢いのある返事に笑いながら訓練生用の服を借りれる事に安堵の息を漏らす。
プレイヤー以外にもたまたま道行くご婦人方に目撃されてしまい、小さな悲鳴をあげながら顔を隠していたが目を覆う部分の指と指の隙間が開いておりバッチリ身体を見ていた。
あんな格好になってしまっていた俺が悪いのだが、何となく目が獣のように光っており背筋に嫌な汗が伝ったのは言うまでもない。
「お前さん、レベルも上がっただろう。体格が少し良くなった気がするから少し大きめのにしといたぞ。もっと鍛えて早く他の街にも行けるように頑張れや」
「他の街にもここみたいな訓練所はあるのか?」
「おうよ、それぞれ習得してるスキルや能力に合わせて訓練所が創設されてるから設備も変わってくる。まぁ、行くにはちゃんとここを卒業してからじゃねぇと解放されねぇがな」
「俺は無事に卒業できるかな?」
「ガハハハッ!お前さんは教わる姿勢も良けりゃ意欲も申し分ねぇ!それに、オレが師匠なんだから卒業するまで逃がさねぇさ」
俺の言葉に一瞬間の抜けた顔をするも、ラルクが背中を力一杯に叩きながら断言する姿を見つつ、炎症の痛みと衝撃が一気に襲ってくれば思わず体が強ばる。
今のラルクの平手でHPが減った、絶対減った。
痛みに悶えそうになりながらも歯を食いしばって堪えれば、よく堪えたと炎症に効く塗り薬と回復薬を手渡され、もっと早くくれたらいいのにと思わずラルクを睨むも回復薬は飲み干し患部に塗り薬を使って手当する。
「自力でやる奴も居るかもしれねぇが、ちゃんと基礎の鍛錬をやっておけば良かったと思う頃には後の祭りってやつもある…ライア、お前ならわかるだろうがな」
ラルクの意味深な言葉に訓練クエストを達成した時の報酬を思い出し納得してしまう。
基礎パラメータは勿論のこと自由に割り振れるパラメータを貰えた時には驚いたが、残しておけば必要な時に割り振って使えるので得した気分になったものだ。
手当を終えれば痛みも引き、減っていたHPが全快まで回復していた。
「まぁ、お前さんは特別というか何をやらせても覚えそうだし、根性もあるからオレの弟子にしたいと思う条件を殆どクリアしてる。神殿に行かせないのもそれなりの理由があっから今は我慢しろ」
「縛りプレイをさせてるわけじゃなかったんだな…」
「当たり前だろうが。まぁ、オレの言う事を無視して神殿に行っちまうと最初は思ってたんだが、約束事もちゃんと守れるしお前さんはいい弟子だよ」
脳天に軽めのチョップを受けるも、ちゃんと加減がされているからこそ受けたようなものだ。
本気でやられたら一発でHPが吹っ飛び死亡待ったなしだろう。
「明日もスロムを狩りに行くのか?」
「ああ。誰にも知られてないからか一人で集中して戦えるし、そうするつもりだ」
「そうか、なら今から軽く片手剣の使い方を教えてやるから来い。明日はそれで戦え」
顎に手を添え少し考えてからラルクが告げると、俺の返答も待たずに首根っこを掴んだかと思えばカカシの前へと連れていかれる。
普通に連れて行ってくれと抗議をするものの、笑って流すラルクをまた叱り飛ばそうかと思ったが、かなり年の離れた兄が出来たような気分なので俺も笑って流すことにした。
その後の扱きは半端なく腕に力が入らないくらいにカカシを叩かされた。
不本意にも最後に訓練所に訪れたのに、最初に訓練をしていた人々が帰っていくのを見送る形となってしまう。
まぁ、最後まで折れずにやっていたのは初めて会った時にした酒場の飯を奢るという約束を守ってくれているラルクを待っていたようなものでもあるが。
俺以外の訓練生が居なくなれば、酒場に行こうと声を掛けられたので訓練用の片手剣を片しつつ、門の前で待ってくれているラルクの傍に行く。
ちゃんと灯りなどを消した事を確認してからラルクが開けると、かなりの人数のご婦人が集まっており驚く。
汗を掻いた俺とまだまだ余力のありそうな様子のラルクをご婦人方は交互に見た後、黄色い声を上げながら散っていく不思議な光景を見る事になったのだった。
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