14-挑発は許さん
道場破り事件の後から数日掛けて短剣の訓練クエストを終えた俺は、次のクエストへ移る前に5日ほどラルクから休みを与えられた。
次は片手剣の訓練とは聞いているのだが、学んだことを活かして二日くらい実戦で槍と短剣を使って来いと言われている。
何時までもレベル1というのは流石に良くないとも思っていたので、正直な所ありがたい時間である。
また、狩場に行った日は帰りに訓練所に寄れとも言っていたので忘れないようにしなくてはならない。
「この狩場の地図、結構初心者区域から離れてるけど俺に狩れるのか?」
歩き始めの頃はパーティーでレベリングをしている人々を見掛けていたのだが、森の中へと入る頃には自分以外の人間は見あたらなくなっていた。
実は上級の狩場なのではないかと不安が募り、ここに来るまでに何度も地図の適性レベルが1である事を確認していた。
一応、教えてもらった鍛冶屋で槍を一本と短剣を四本、防具一式を揃えはしたが、初期値に毛が生えた程度しかステータスは上昇していない。
「ここら辺の筈、だよな…?獣とも遭遇しないの怖いんだが…」
地図とマップを見比べながら、目的地であることを確認しては腰の高さ位まである茂みを掻き分けつつ歩くと開けた場所へ出る。
中央に位置する泉は陽射しを受け輝いており、美しい風景に一瞬心を奪われるものの一歩踏み出した際に、パキッと言う何かが割れる音と足の裏に柔らかいものを踏んだような感覚が伝わる。
首を傾げながら下を見れば薄水色のぷるんとした何かを踏み付けていた。
「あ、ごめん…」
すぐに足を上げたものの奇声に近い声を発しながらソレは光の粒子となって消えてしまった。
ピロンとリストバンドから通知音がしたので指で軽く触れると、メッセージウィンドウが表示される。
そこにはレベルアップと称号獲得の通知が表示されており、取り敢えずレベルの方から確認する。
〈獲得経験値 120
Lvアップ Lv.1→lv.3
上昇ステータス
AP+5 MP+5
ATK +4 DEF+3 VIT+1〉
「え、さっきの奴…そんなに経験値獲得できる敵だったのか?」
一気に2もレベルが上がった事に驚きながら称号の方も開いてみる。
〈 はぐれスロムを見つけ一撃で倒した為、
称号:はぐれを見つけし者 獲得
効果:はぐれと名の付く敵と遭遇しやすくなる
また、はぐれと名の付く敵のレアドロップ率、獲得経験値にボーナスが入る〉
「待て…待ってくれ、システム…。初戦闘がたまたま敵を踏み潰すってどうなんだ」
なんとも言えない初戦闘に動揺が隠せず、辺りを見回すも敵が消えた場所にドロップ品があるのを見て現実と思い知る。
初戦闘と言うのはもう少し緊張感があるものなのではないだろうかと心の中でツッコミながらドロップ品を拾う。
丸い宝石が真ん中で綺麗に真っ二つに割れた様な物を手に入れ、取り敢えずインベントリに突っ込んでから詳細を見る。
〈はぐれスロムの形見 rank:R
情報:中々出会えない一体で行動するスロムのコア。集団で行動するスロムのコアより脆い為、中々手に入れることは出来ない。魔素が高く薬の材料として重宝される〉
「あー、なるほど。俺はたまたまコアを踏んだんだな…」
なんともマヌケな感じだが中々ない事をやってのけたのだと前向きに考える。
気を取り直して足を進めれば、最初に踏んだものとは違い丸い形のものや四角など様々な形のスロムが居た。
四角い形のスロムは反動を付けながらゆっくりと地道に動いている。
なぜ四角いのかは分からないが、一瞬見ただけでは凄く和やかな風景に思える。
攻撃をしなければスロム達も普段通りに生活するのかしっかりと戦闘プランを立てる時間があるのは有難い。
取り敢えずは近場に居る一体で行動しているスロムと交戦する事にする。
「………コイツって物理効くのか?まぁ、訓練クエストで貰った地図だし適正レベルも1だから大丈夫、だよな?」
とりあえず距離を置いて戦える槍を構えスロムに向けて振り下ろす。
柔らかい何かを斬る感触が手に伝わり何か硬い物と刃が接触したのが分かる。
刃に当たった物体はそこそこ硬さがあるのでそのまま真っ二つにする事が出来ず、嫌な予感が過ぎれば斬られたスロムがその場で震えたかと思えば、細い繊維のような触手を己の体で作り俺へと振りかぶる。
当たっては不味いと覚束無いながら回避行動を取るが、素人の動き故に腕を掠めてしまう。
「いっ!意外と痛い…な…。え…マジ…?」
スロムの攻撃が掠った腕が、ジンジンと沁みる様な痛みと熱を持ち始めればその場所へ視線を向けると思わず目を見張る。
掠めた部分の肌が炎症を起こし赤くなっているのだが、さらに驚いた事に腕を覆っていた筈の服の袖が溶けていたのだ。
取り敢えず自分の残りHPを確認すれば20程削れただけでまだまだ余裕はある。
しかし、服が溶けたという事はスロムの体を構成する液体はただの水ではなくなったという事だ。
ハッとして槍の刃を見れば僅かだが溶けているような気がする。
「戦闘前は無害なタイプ…って奴か?いやでも、これちゃんと一撃で仕留めないと武器も無くなる?」
状況を理解し頬を若干引き攣らせるながら、敵の体力を確認すれば弱点に当たっていたからか半分は削れている。
長引けば周りに居るスロムまで寄ってきてしまう可能性を考え、難しいかもしれないが戦闘を早く終わらせる必要がある。
槍で突いていれば一撃で殺れていたかもしれないが、確実に当てる事を考え振り下ろすことにした己の判断を悔いる。
「買ったばかりの武器を駄目にされてたまるかっ!」
その場で飛び跳ね糸状だった触手を人間の腕の形に変え挑発してくるスロムに、プチッと何かが切れる音を聞きながら腰から短剣を抜き放つと渾身の力を込めて投げる。
何度も訓練で投げ続けた短剣は、しっかりと狙った場所に刺さるくらいには上達しているので確実に当てられる自信があった。
油断していたスロムの核を覆う水ではなくなった液体により刀身が僅かに溶けたものの、しっかりと弱点に突き刺されば奇声を発しながら光の粒子となって消えたのだった。
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