12-お説教タイム

堂々と宣戦布告をするアランをしげしげとラルクが見ていると、中央の開けた場所へ向かおうとした所で開いている訓練所の門から誰かが走って入ってきた。

般若の仮面を被ったその人物は、駆けてきた勢いを利用しそのままアランの脇腹目掛けてドロップキックを繰り出す。

その人物に気付いたラルクが、巻き込まれないように1歩分後ろに下がると恐れを成したかと高笑いをするアランの脇腹にキックがモロに入り訓練所の壁に向かって吹っ飛んでいった。


「なんだぁ?俺様に恐れを…なぁぁぁぁぁっ!!!」


「何晒しとんじゃバカ弟子がァァ!」


ドロップキックがヒットすると反動を殺すように華麗な動きで受身をとる人物に、慣れているんだろうなと他人事のように思いながら漫才にありそうなやり取りを眺める。

ふと、ラルクの方を見るとその人物を懐かしそうに目を細めながら見ている。

物凄い音がすると壁にめり込むように人が埋まっているのを見て、こんな事が出来るのかと感嘆の息を漏らす。

だが、この後の展開によっては巻き込まれそうな気がして頭が痛い。


「なっにすんだよ!師匠!!!アンタが腕磨いてこいって言ったんだろうがっ!!」


「腕磨けとは言ったけど道場破りしろなんて一言も言ってないだろうがこのバカ弟子っ!!」


「腕を磨くなら実戦あるのみって言ったじゃんかよっ!!」


「実力差も分からんで挑むんじゃないわっ!!お前が負ければアタシの面目が潰れるだろっ!!」


受け身をとった際のしゃがんでいた状態から立ち上がる姿を見つつ、壁に埋まったままの青年が師匠と呼ぶ人物を見れば、背が高く鍛え抜かれた肢体が印象的な栗色の長い髪を一つに纏めている女性だった。

般若の仮面のせいでどんな表情をしているかは分からないが、相当怒っているのが見ているだけでわかる。

腕にリストバンドはないのでプレイヤーでは無いことは確かだ。


「久しぶりじゃねぇか、ミランダ。お前が弟子を持つとはなぁ?」


「弟子なんざ作った事を後悔してる所だよ

…」


「まぁ、お前が好きそうな元気なガキではあるわな」


流石に壁に埋まったままのアランがいたたまれなくなり手当をするべく壁の方へ向かおうとすると、ラルクに呼ばれたのでそちらを見れば手招きしている。

どちらを優先すべきか逡巡するも嫌な予感しかしないが、ラルクの方へと向かうとにんまりとした笑みを浮かべ肩を組まれる。


「コイツはライアだ。俺が今育ててるヤツでかなり見込みがあってな」


「へぇ、アンタみたいなガサツな奴がちゃんと教えられんのかい?」


「何言ってやがる!ライアはお前が育ててるガキとはひと味もふた味もちげぇぞ!」


「ラルク、ちょっと落ち着いて…」


「アタシの弟子がこんなヒョロいのより劣ってるって言いたいのかい?ふざけんじゃないよっ!」


「あの、彼の師匠さんも落ち着いて…」


俺の言葉に耳も貸さずに何故か互いの育てている弟子の方が強いと言い争いが始まってしまえば、そこに挟まれる形になり全てを諦めて遠くを見つめる。

まだ外で狩りもしたことが無いのだが、自慢げに訓練に対する姿勢などを褒める言葉から見所があるなどと告げているのが聞こえ、嬉しいけれどもやめてほしいと言う複雑な気持ちになる。

武器の知識もない奴が根気よく訓練を受けることの難しさ等も熱く語り始めてしまったので、その場を離れても気付く事は無いと思いコッソリと抜け出す。

壁の方へと向かえば、かなりめり込んでいたのか自力でアランが埋まった場所から出て来ると、脇腹を抑える姿を見て前にラルクから貰った応急処置用の救急箱をインベントリから取り出しながら傍へ行く。


「いってぇ…師匠め…。少しは加減してくれよ…」


「怪我は大丈夫か?脇腹見せてみろ」


「アンタは?」


「俺はライア。この訓練所に通ってる一般プレイヤーさ」


傍まで来ると負傷している脇腹を確認しやすい位置を考えながらしゃがむ。

地面に救急箱を置き、中から湿布などを取り出す姿を見せると素直に上着を捲り脇腹を見せてくる。

ゲームの中とはいえ痛そうな青アザができているのを見れば眉尻を下げながら手当をする。

と言っても、湿布を貼って安静にと言うしかできないのだが。

救急箱をインベントリに収めて振り返れば今度はラルクとミランダが一触即発の雰囲気になっており、流石に頭が痛くなってきたので深い溜息を吐くと再び二人の元へ戻る。


「大体、アンタは昔っから反りが合わなくて嫌いなのよ!」


「それはこっちのセリフだ!オレだってお前みたいな女とは関わりたくもねぇっ!」


「2人ともそろそろやめないか?」


「関係ない奴は引っ込んでな!このバカの弟子でも容赦しないよ!?」


「引っ込んでろ、ライア!この女には一回痛い目を見せてやんねぇとなら、ね…ぇ…」


「言いたい事はそれだけか?」


止めに入ろうとすれば啖呵を切るミランダに思わず口元が引き攣り、尚も収まらずに互いに獲物を取り出そうとするラルクが俺を見れば言葉が尻つぼみになっていく。

優しげな笑みを浮かべたままラルクの腰から短剣を二本奪い、両手にしっかりと握ってから刃の方を上にして短剣の柄を二人の頭目掛けて振り下ろす。

ラルクしか見ていなかったミランダは見事に脳天に柄が直撃し、ラルクは咄嗟に避けたものの肩に直撃して二人とも悶絶している。


「弟子の目の前で喧嘩おっぱじめる師匠ばかが何処にいる!」


文句を言おうと俺を見たミランダだが笑顔のまま殺気混じりに怒る姿を見て開きかけた口を閉ざし、ラルクはと言えば額に冷や汗を浮かばせている。


「師匠という立場の癖に己の感情をちゃんとセーブできなくてどうするんですか?気に食わない相手を前にしても冷静に対処する姿を見せるべきでは?気に入っている弟子の前なら、特に」


短剣を地面に放りその場で腕を組んでは、笑顔を浮かべながら教える立場の者の心得をつらつらと饒舌に話し始める。

何か言い返そうと2人が口を開こうとするのを見て即座に睨み付ければ、口を閉ざして顔を俯かせるので聞く姿勢を作らせる為にその場に正座をさせては、さらに説教を続ける。

その姿を見たアランが尊敬の眼差しを俺に向けていたのは知る由もなかった。

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