11-予期せぬ訪問者

あれから3日ほど経ち、やっと槍の訓練クエストが終わりを迎える所まで来た。

社会に出てから運動をすることがなくなっていたが、Arcaをプレイし始めてからそれとなく身体が鍛えられた気がする。

そのお陰か初日は50回が限界だったが翌日、翌々日とカカシを槍で攻撃できる回数が少しずつだが増えていた。


「これで最後だっ!」


最後の突きが的に当たるとクエストクリアのメッセージウィンドウが表示された。


〈訓練クエスト 達成

報酬:ATK+3、DEF+1

搭乗者内初達成ボーナスとして、

報酬:自由分配ステータス+5

を獲得しました〉


「へぇ、訓練クエストを達成したらステータスを貰えるとはな…。って、初達成したの俺なのか…。確かに、最初に居た頃のプレイヤーはもう見かけないもんな…」


「お、ライア!槍をそこそこ扱えるようになったみてぇだな!」


「時間は掛かったけど突き、薙ぎ、打撃を各100回ずつやったよ、ラルク」


「よくやった!体力作りにもなっただろう?」


達成報酬の内容を見て驚きつつ槍を肩に担いで立っていると、ラルクが感心しながら笑みを浮かべてこちらへ歩いてくる。

その手には次にやらせようと思っている武器が握られているように見えたのだが、またかなりの回数振らなければならない事を考え、あえて何も見えていない振りをする。

自分から言ってしまったら負けなような気がしたのもあるが。


「よし!じゃあ少し体触るぞ」


「ああ」


「ふむ、始めて会った時よりもいい筋肉が付いてきてるな…。じゃあ次はコイツだ」


初めて訓練所に来た時のように肩や腕、足などの筋肉を触って確認されれば擽ったく感じるも、ニヤリとラルクが笑うのを見て期待には応えられた事が伺える。

担いでいた槍をラルクが回収すると次はリーチが打って変わり近距離用の短剣を渡される。

重い槍を持っていたからか短剣が物凄く軽く感じられる。

興味本位で軽く振ると風を切る音が耳に届いた。


「槍の間合いは覚えてるよな?今度はその短剣で槍を持っている人間を相手にしてると思ってあのカカシを叩け」


「格闘技で言うシャドウみたいなものか?」


「そうだ。槍の間合いを意識して相手の隙を縫うような動作を心がけろ」


その他にも軽さを活かした動きを幾つか教われば訓練クエストが表示される。


〈訓練クエスト・2

下記のメニューを達成せよ

・首、胸を狙った素早い2連撃×100

・敵の動きを意識した回避攻撃×100

・行動を封じる事を狙いとした攻撃×100

・??×100

報酬:秘密の狩場の情報、???

※途中で訓練所を離れても24時間以内であればカウントは保持されます〉


槍の時よりも少し具体的に内容が記載されているのでやりやすいなと思うものの、死角を意識したという動きに関する条件に顎に手を添える。

先程、ラルクが説明していた短剣の強みが関係しているのだろう。

リーチは短いが短剣自体の重さはそれ程ないので、身体への負荷が少ない事もあり素早い動きが可能となる。

?で隠されたメニューが気になるもののネックとなるのは敵の動きを予測した回避攻撃だ。


「ここが一番難しいよなぁ…自分が動いていた時を意識しても所詮は素人。どこかで見れたらいいのに…」


簡単に槍を持った己を想像しろと言われたが、卓越した槍術使いであれば槍のリーチを色々と利用した動きをするに違いない。

現実世界でそう言った動画を見漁るのも一つの手と思うが、戦闘を想定して対人で挙げられているものはそんなに無いだろう。

イメージが纏まらない内は首、胸を狙った素早い2連撃のメニューをこなす方が妥当だなと思う。

ラルクの話によれば短剣は敵との戦闘の際に近い距離で挑まなければいけない為、中距離や遠距離武器との相性が悪い。

間合いに入ってしまえれば同じ武器を持っていない相手ならば、簡単に制圧することも可能となる。

だが、懐に入るまでが難しくかなりスピードが居ることになるのだが。


「くっ…首と胸を連撃って結構キツイな…」


選んだ2連撃のメニューだが、攻撃の速度が早い分には問題ないが、速度が足りておらず間隔が空いてしまうと連撃としてカウントされず無駄打ちとなってしまう。

有効とみなされる時間の間隔を測るために色々と試し打ちをし、プロボクサーがジャブ2発を繰り出す位の速度が安定する事が分かるも、素人からすればかなりの苦行に眉間に皺が寄る。正確に首と胸を攻撃する為の集中力も維持しなければならず、体力も必要だが精神的にもかなりの疲労を要する訓練だ。


「槍よりも短剣のクエストの方がキツいって思わないよなぁ…。でも、やってやるさ」


己を鼓舞しながらコツを掴む為に再度姿勢や距離を調節しつつ、カカシを叩いてやりやすい位置を探る。

そんな姿を傍から眺めながら、自慢なのかもしれない顎髭を撫でつつ様子を見ているラルクが居る。

これが何時もの風景なのだが、今日だけは違った。


「たぁのぉもぉぉぉぉぉぉっ!!」


「うぉ!うるせっ!声でかっ!」


「イキの良さそうなのが来たじゃぁねぇか!」


訓練所の門が開け放たれると同時に大きな男の声が響き渡り、思わず訓練の手を止め耳を塞ぐがラルクは笑いながら門の方を見ている。

狭い訓練所内に響き渡った声のせいで若干耳鳴りのようなものを感じつつ、門の方へと視線を向けると所有者と同じ位の背丈の朱槍を持った青年が立っている。

見た目は20代位でいかにも熱血系の雰囲気を醸し出しており、門を開けたままの姿で歯を見せて笑う様子は少し生意気そうである。

ズカズカと大腕を振りながら訓練所の中に入って来ると、ラルクの前に立ち人差し指を突き付けたかと思えば、またも大きな声を張り上げる。


「俺様はアランだっ!!道場破りに来てやったぜっ!!」


「イキはいいがまだまだひよっこじゃねぇか…。お灸を据えてやらぁ」


アランと名乗った青年が、堂々とラルクに向かって啖呵を切る姿を見て瞬きをしつつ、今日はクエストをしている暇は無さそうだなと悟るのだった。

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