10-お礼のタマゴ

店の中に通してもらえばなるべく来店者に見られたくないと言うと奥の居住スペースに特別に案内してもらえた。

秘密の店に踏み入った事によりマップの内容が更新されている可能性があるので間もなく普通のプレイヤー達も訪れるかもしれない。

なるべく人目につきたくもないのでNPCに甘えられるのであれば甘えるべきだろう。

一応このArcaにはフレンド同士のメッセージのやりとり機能は存在しているがチャット機能は搭載されていないとフォルクが言っていたはずだ。

プレイヤーギルドが作成出来るようになればまた違ったメッセージのやり取りする機能は作られるかもしれないが。

事務所のような場所に通されれば案内してくれたペロの飼い主である彼女は振り返り笑顔で口を開く。


「そういえば、自己紹介がまだだったわね?私はアルマよ。ペットや使い魔を取り扱うこのお店を経営しているわ」


「俺はライアです。店に居たあの2匹はなんなんですか?」


「ふふふ、気になる?気になるぅ?さっき店先で会った子達は私の使い魔よ!悪さをしなければ大人しいから安心してちょうだいね?」


「悪さをしないように頑張ります…」


「ふふふ、ライア君なら大丈夫だと思うけどね?折角だからペットと使い魔のことも教えてあげるわ!」


生き生きと説明をしてくれるアルマの説明を要約するとこうなる。

ペットは非戦闘員となり飼い主に対して友好の意を持っていなければ感知されないらしく連れ歩いてる最中に戦闘となっても敵から視認されないそうだ。

戦闘面で力になれないので採取などのサポート系の能力を所持している個体が居るらしい。

逆に使い魔は戦闘員として活躍することができるので誰の目にも視認ができる。

種族によってはその場に居るだけで主人であるプレイヤーに向くはずのターゲットを引き受ける能力があったり、高い防御力を所持しているのでいい相棒になってくれたりと様々らしい。

ペット、使い魔以外の契約に関してはまだ扱えるレベルではないという事なので適性を満たせばその時に説明すると約束してくれた。


「ここはそんなペットや使い魔と出会う手助けをするお店なの。本当はもっとじっくり説明してあげたいんだけれども…」


「大丈夫ですよ。ペットや使い魔を買えるだけの資格がまだ俺にあるかどうか…。今日はたまたまコイツと偶然会えたから来ただけですし」


「うぅぅ…謙虚でいい子だわ…。それにこんなにこの子が懐くことも滅多にないし…このまま返すのもしのびないし…」


話をしてる間も甘えるように腕の中に居たペロがじゃれてくるので頭を撫でてやる。

話をしている間に二日酔いの気持ち悪さも抜けたのが分かれば店の中の方から悲鳴に近い声が聞こえ先程の自分を思い出し苦笑いが思わず浮かぶ。

長居をすれば迷惑も掛かるだろうし目的は子犬を送り届けることである。

ペロのような可愛いペットや、店先で強烈なイメージを植え付けてくれた使い魔を所持したいと思わなくもないが、現在の所持金は起動時に運営から配られている500Gだけだ。

むしろ良くここまで使う事にならなかったなと思う。


「そうだわ!アレがあったわね!」


「アルマさん?」


「ちょっと待っててちょうだいね?」


思い立ったが吉日とでも言うように小走りに2階へ上がっていく姿を見送ればペロと顔を見合せライアは小首を傾げた。

暫く待つと籠を抱えたアルマが戻ってきた。

布が被せられているので何が入っているのかは分からないが嬉々として差し出されるので代わりに腕に抱えていたペロを差し出しライアは籠を受け取る。

ペロと引き換えに身代金を頂いたような光景になったがアルマは気にしていないのか笑顔を絶やさない。


「元は友人からの預かり物だったんだけど、この前ふらっと来て資格がありそうな子に譲ってくれって言われたのを思い出してね」


「え、俺は何も資格なんて持ってないですけど…?」


「アナタみたいに動物に優しい人ならその資格は十分あると思うわ!ペロと遊んでくれたり連れてきてくれたり色々とお世話にもなったからそのお礼でもあるの。大事にしてね?」


籠の中身は教えて貰えなかったがあまり目立ちたくないと思っているのを察してくれてか店の裏口に案内される。


「またお店に来ることになるだろうからその時を楽しみにしてるわ!」


手を振りながらそれだけ告げるとアルマはいそいそと店の方へ向かうのを見送ってから受け取った籠に掛かっている布を取ると2つのタマゴがあった。

片方は銀色の輝きを放つ子供の頭ひとつ分の大きさで、もう1つは空色の手のひらサイズの大きさである。


「タマゴ…どうやって使うんだ?」


詳細を確認したくもあるが訓練所にも行かなければならないのでリストバンドを操作しインベントリに入手したタマゴをしまう。

籠と2つのタマゴと別々に保管されたことを確認するとそれとは別にメッセージカードが保存されたのを見てそれだけインベントリから再度取り出す。

籠の中にあったのに気付かなかった事を申し訳なく思うものの書かれていた内容を読む。


〈ライア君へ

銀色のタマゴも空色のタマゴも普段から所持してなくても成長するわ!孵化する時が来たら宿屋で起きた時にきっとサプライズがあるわよ!

P.S.孵化したらちゃんと名前を付けてあげてね?

アルマより〉


簡潔に分かりやすくまとめられている内容を見てアルマに感謝しながらメッセージカードを再びインベントリに収めてからライアは気を取り直して訓練所に向かうのだった。


ペット機能解放と言う事もありアラクネを誰が見つけたかで一時掲示板やSNSで騒がれる事になるのだがそういった事に興味が無いライアは知る由もなかった。

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