9-ワールドアナウンス

足元がふらつくものの宿の外の空気を吸って幾分か気分が良くなれば賑やかながら街道を見渡す。

仲間内で集まって話しながら歩いている者や観光や散歩をするように歩いている者、露店や看板のある店に立ち寄る者など様々だった。


「攻略組はもうこの辺には居ないのか?まぁ…次のエリアが開放されたともなればそっちに向かうか」


姿を確認出来た人々は大体初期装備か自分の扱う武器を腰に下げたり盾を背中に背負ってる感じのいかにも初心者な感じの装いだった。

俺自身は武器も何も持ってない住民のような状態だがあまり気に止めているような人は居なかった。

ただ、少しばかりすれ違う女性に見られることくらいだろうか。

時折ステータスを見て二日酔いの無くなる時間を確認しながら歩いていると足に衝撃を受けたので視線を向ければ噴水広場で出会った子犬がお座りしながら尾を揺らしていた。


「昨日ぶりだな?元気だったか?」


しゃがみ込んで子犬の前足の付け根に手をやり持ち上げてやれば嬉しそうに吠えてくる。

首輪にリードが付いているがその先に飼い主の姿が無いのを見て何となく状況を察しては持ち上げていた状態から子犬を抱く形に切り替える。

腕の中に収まり服を噛んだり撫でろと頭を擦り付けてくるので片腕で支えながら頭を撫でてやる。

こちらを気にしていなかった通行人達が俺を見て羨ましそうな顔をする者も居ればヒソヒソと話し合い何やら会話をしている姿が目に入りあまりこの場に居るべきでは無いと路地の方へと入る。

残念そうな声が聞こえた気もするがそんなものは無視である。


「とりあえずお前を飼い主に送り届けないとだな。噴水広場に居るのか?」


問い掛けても小首を傾げて見上げてくるだけの子犬に苦笑を浮かべるが1匹でも飼い主の元に帰れる程訓練されているようにも見えず、何処か知らない場所に行ったり拐われるよりかはマシだと教えてもらった店に届ける事にする。

若干気持ち悪さが残るものの子犬と遊んでいると不思議と気分も楽になるのでアニマルセラピーという言葉を思い出しながら入り組んだ路地を歩き続ける。

時折リストバンドに触れマップを確認しては人通りを避けてやっと店の前へとたどり着いた。


「ここがアラクネか…なんの店なんだ?」


マップの?の位置に辿り着けば他の店舗よりも一際大きい建物が立っており思わず見上げて階数を数えてしまう。

4階まであるようで首が痛くなったのと目眩もしたので眉間を抑えながら軽く目を閉じる。

二日酔いのデバフが早く取れて欲しいと思いつつ目の前の建物の入口であろう扉に歩み寄る。

店主は居ない筈だが扉のノブにはOPENの看板が下げられているので軽くノックをしてから扉を開ける。

そして扉を開けた先に目に入った物を見て数度瞬きをしてから扉を閉める。


「………俺まだ酔ってんのかな?」


頬をつねろうと思ったが腕の中にいる子犬がなんで入らないんだと言うように鳴くのでコレが夢では無いことを教えてくれる。

いや、これゲームの中だろと思っただろう。

分かってはいるんだが人間驚くと訳が分からなくなるものなんだ。

心の中で言い訳をつらつらと並べながら深呼吸をしてからもう一度扉を開ければソレは扉の前に来ていた。


「威圧感やばいって、ちょっとマジ戻って怖い」


扉から顔をぬっと出してくるのでライアは軽いパニック状態に陥り片手をソレに手を突き出しながら戻るよう促す。

今目の前に居るのは二匹の動物だ。

一匹は額から角を生やした大人よりも大きいであろう虎、そしてその上に乗っているのは部分鎧を身につけた怪物ミノタウロスに似た二足歩行が出来そうな牛である。

いや、普通に動物に区分してもいいのか分からない二匹がじっと目の前でライアを見つめているのだ。

子犬だけ鳴きながら二匹を見て笑顔で尻尾を振っている、メンタル強過ぎるこの子。


「ペロちゃんどこに行っちゃったのかしら…噴水広場に散歩に出ちゃダメねぇ…。あら、お客さんかしら?」


目の前にいる二匹の威圧感溢れる店の奥から噴水広場で少しだけ話をした女性の声が聞こえたかと思えば扉が開いている事に気付いたのだろうライアの方へと向かって来ているのが分かる。

早くこっちに来てくれと思いながら二匹の後ろから女性が顔を出せばライアの顔と腕の中の子犬を見て瞳を輝かせる。


「あらあらあら!あの時のお兄さん!ペロちゃんを見つけてきてくれたのね!」


「たまたま宿屋から出て歩いていたらこの子に会ったもので…この二匹は?」


「ごめんなさいねぇ、この子達は私の使い魔で店の警備も担当してるんだけどお兄さんがペロちゃんを連れてるのを見て警戒したみたい」


「は、はぁ…警備員、なんですね」


「ほらほら、メルちゃんにタウ君は戻って戻って?このお兄さんは悪い人じゃないから」


女性の言葉に頷くと店の中へと戻っていくのを見て思わずライアは安堵の息を漏らす。

流石にレベル1の自分の前に来られれば好奇心よりも恐怖心の方が勝ってしまう。


「お兄さんにペロちゃんを見つけてくれた分もお礼をしなきゃいけないわね!入って入って?」


「あ、ありがとうございます…」


店先で話すのもなんだからと女性に招かれるままに中に足を踏み入れればリストバンドから大きな通知音が鳴る。

何事かと思えば開いてもいないのに勝手にメッセージウィンドウが眼前に表示される。


〈搭乗者の皆様へ

ただいま【匿名】様により隠された店舗への入店を確認いたしました。

これにより下記の機能を解放いたします。

・ペット(非戦闘員)

・使い魔(戦闘員)

・各契約機能(精霊、悪魔、天使など)

隠された場所に踏み入る事により開放される機能などがございます。

引き続きArcaをお楽しみください〉


「マジか…」


自分がワールドアナウンスをする程の業績を成すとは思っておらずライアは頬を引き攣らせる。

女性と子犬にはメッセージウィンドウが見えていないのか小首を傾げながらライアを見ていた。

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