6-酒場と夜空・前
槍の訓練を終え汗だくになりながら大の字になって床に倒れていると様子を見に来た教官ラルクが水を差し出してくれたのでゆっくりと上半身を起こしライアは有難く受け取る。
流した汗の分を補うかのようにペットボトル1本分程を一気に飲み下し乾いた喉が潤うのが分かる。
深く息を吐き出せば飲みっぷりをお気に召したのかラルクに肩を叩かれる。
「他の訓練生と同じように適当にやるかと思っていたがお前さんは違うようだなァ!」
「やるからには、中途半端はよくないと思うんで…」
「くっくっくっ…そうかそうか…。お前さん名前は?」
「ライアって言います」
「ライアか、覚えたぞ!お前さんこれからオレに付き合え」
気付けば外も夕焼け色に染まっておりかなり夢中になっていた事が分かる。
教官に助け起こしてもらい礼を述べれば笑って背中を叩かれた。
暫しの休憩の後で動けるようになったのを確認してから既にプレイヤーが居なくなった修練所を出るとラルクが門を施錠する。
この世界でも運営時間があるらしく基本的には管理者であるラルクがその場を離れている間が閉業時間となるらしい。
「これでよし、と…行くぞ!」
「どこに行くんですか? 」
「ガハハッ!それは着いてからのお楽しみだ!」
多少の身長差があるものの肩を組まれれば下手に動いて機嫌を損ねられるよりはと大人しくラルクの向かう場所へと足を向ける。
夕闇に染まり始めた街道は帰宅する為に走る子供や荷物を持って帰宅する人々などが行き交っている。
中にはプレイヤーも居て街の作りを把握するべく仲間と散策している姿が見て取れる。
「この街も賑やかになったもんだ!まぁ、昔も駆け出しの冒険者共が騒がしていたようなもんだが」
「そんなに賑やかだったんですか?」
「そうだ!近隣の村から若者たちがよく集まってたんだぞ?冒険者ギルドのサポートが手厚いってのもあるが依頼を受けて金も稼げるってな!」
過去の情景を思い出し懐かしむように語るラルクの話を聞きながら街の噴水広場よりも少し奥に行き階段を上がった所にある広めの広場へ辿り着く。
その頃には陽も完全に陰り暗くなった世界を街の至る所に下げられていたランプが一斉に灯り始める。
暗い世界を明るく色付けていくその光景を広場から眺めていればラルクに肩を叩かれ広場の一角に連れていかれる。
そこには外に椅子やテーブルが置いてある酒場があった。
「あら!ラルクさん、いらっしゃい!」
「おぉ、ミーナ!今日は連れが居るんだ。あんまり酒場にゃ慣れてねぇと思うからテラス席使わせてくれや」
「はーい!今日はお店の中は人がいっぱいだから逆に助かりますぅ!」
店の入口まで行くと中は人が多く酒場特有の騒がしさがあった。
樽のジョッキを豪快にぶつけて乾杯する声が聞こえ、料理を食べながら酔いで頬を赤らめつつ手や体でジェスチャーをしながら何かを語る姿も見受けられる。
店のウェイトレスと親しげに会話をしてから外に置かれている席に向かうラルクの後を追う。
「驚いたか?ここはこの町の中でも人気の酒場でな。猫の遊び場って言うんだ」
「面白い名前の酒場ですね」
「そうだろう?一番最初の店主が猫族の獣人だったらしくてな。そこから考えたらしい」
物珍しそうに見ていたのが分かったのかラルクが軽く説明をしながら空いている席に腰掛ける。
それに倣うように席に座るとテーブルの上に置かれていたメニューを差し出されるので目を通す。
聞いた事があるのはビールであろうエール位で他の酒の名前はあまり耳にしたことは無い。
「ラルクさんのオススメは何ですか?」
「そうさなぁ…先ずはエールが妥当か?お前さんがどれくらい飲めるか分からんからな」
「じゃあ、エールにしておきます」
「オレも最初はエールにするか。ツマミは適当に頼んじまうぞ」
こちらの料理に関してはまだ把握していないためラルクにツマミを任せることにする。
テラス席に座っている客の確認をしに来た先程のウェイトレスが見えるようにラルクが手を上げ声を掛ける。
「はーい!お待たせしましたー!ご注文をどうぞー!」
「エールの大ジョッキを二つとカラマスとチーザのマッシュサラダにオルクの腸詰2人前、後は適当にミーナのオススメで二品ほど追加してくれ」
「私のオススメですかー?今日は運動後とかだったりします?」
「オレは道場破りを32人くらい相手してる。こっちは長槍の訓練を2時間くらいだな」
「んー、ならエイジ鱒の香草焼きと締めに二日酔い防止のウィラ貝のスープお出ししますねー!」
ラルクにミーナと呼ばれていたウェイトレスは少し考えた後にメニューを追加すると他の卓にも呼ばれたのか駆け足で去っていく。
少しの時間も経たない間に周りの席にも客が座り始め満席と化していた。
テラス席に居る人間は周りの家に住んでいる住民にも配慮してかあまり大声では話していない。
ラルクから今後の訓練の予定を教えて貰いながら待っていると料理と樽ジョッキを持ったミーナが駆け寄ってくる。
「お待たせしましたー!エールの大ジョッキ二つとカラマスとチーザのマッシュサラダです!」
ドンと置かれたエールのジョッキは子供の頭一つ分程の大きさで並々と注がれたエールの泡が美味しそうである。
カラマスとチーザのマッシュサラダは明太子とチーズのポテトサラダのような見た目をしている。
「おー、これこれ!よし、乾杯といくか!」
「あ、はい。ラルクさん」
「さんは要らねぇ!ラルクでいい!」
豪快に笑いながらエールの大ジョッキを持って構えるラルクに倣うようにライアもエールの大ジョッキを構え互いの飲み口をぶつけあい乾杯した。
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