5-テラベルタ 初級訓練所

噴水広場を離れマップに従って訓練所までの道を歩き、若干息が上がってしまったが目的地に辿り着くと重々しい門があるので見つめる。

既に何人かプレイヤーも居るのか、中から剣で打ち合う音や弓を射る時の独特な風切り音が聞こえてくる。

早速中に入る為に門を開けようと手を添えた所で、一瞬見ただけでは分からない程に小さな張り紙が少し離れた場所に貼ってある事に気づく。


〈訓練所を訪れし者へ

必ず門を3度ノックしてから開けるべし!

ノックをせずに入った者は道場破りと見る〉


「コレ、気づかなかったら詰みじゃ…」


『ギャァァァァ!!』


「ご愁傷さま…」


張り紙に気付いたので門をノックと言うよりも3度殴ってから開け放つと、他のプレイヤーが悲痛な叫びを上げながら吹っ飛んでくる。

ぶつかったらヤバいと数歩分横に飛び退けば、丁度開いた門から敷地外の地面に顔面から着地し数度転がってから伸びている。

粒子となって消えていないので死亡はしていないのだろうが、なんとなくライアはそのプレイヤーに合掌しておく。


「軟弱軟弱ゥ!!その程度で道場破りなんぞ100年早いわァ!」


訓練所内から外まで響き渡るような声に片耳を抑えつつ、中を伺い見ればいかにも戦士と言える格好をした屈強な男が腕を組んで立っている。

短く整えられた髪に無精髭、顔の右半分に獣の引っ掻き傷があるため覚えやすい。

鍛え上げられた筋肉は魅せるためだけに鍛えられたものでないのがひと目でわかる。

それに纏っている雰囲気が現実で会う人間と全く違う。


「強くなってから出直してくるんだなァ!!……ん?新しい道場破りか?」


「いえ、俺はさっき門をノックしてから入らせていただいたんですが…」


「おお!そうか!訓練所の利用者なら説明をしてやらんとならんな。オレは教官のラルクだ!それじゃ、ちっと確認させてもらうぞ」


思わず返事をしていたら危なかったと思いながら訓練所の中を見渡せば、ちゃんと貼り紙を見て訓練に入っている他のプレイヤーは、真剣な顔をして取り組む者から怠そうな者まで様々だった。

教官と名乗った男、ラルクが俺の前まで来るといきなり肩を掴んだかと思えばそのまま腕、足、腰などをくまなく触られる。

いきなりの事に判断が追い付かず呆然とするも、悩ましげに顎に手をやる姿を見て触っただけで色々とわかるものなのかと思ってしまう。


「ふぅむ、お前さんが何の武器なら合うか確認をしたつもりだが、細い見た目に比べてしっかりと筋肉があるからなぁ。何をやってもそつなく扱えそうな気もする」


「軽く運動はした事がありますが剣とかは握ったことないです」


「そうか…少し待ってろ」


俺の返答にラルクは目を細めると武器庫の方へと入っていく。

訓練をしつつ暫く見守っていたプレイヤー達が俺の事を気にするように時折見てくる。

探る様な視線ではなく好奇心による視線であるのは分かるがあまりいい気はしない。


「まだ始まってもいないのにこうして見られるのは好きじゃないんだが…」


「待たせたな。お前さんはとりあえず槍から始めてみろ」


ラルクが武器庫から戻ってくるとヤバいと思ったのか、他のプレイヤー達は一斉に視線を逸らし訓練に集中し始める。

持っていた槍を差し出されたので受け取ると、思っていたよりも重く少しふらついてしまったがしっかりと握る。

重さもリアルだなと思い槍をしげしげと眺めていれば、しっかりと刃が潰された訓練用の物であることが分かる。


「槍は短、中距離が間合いになる。訓練メニューが終わったら俺に言いに来い」


「型とかは無いんですか?」


「武器も扱った事がない奴にいきなり型は教えん。先ずは慣れる事を考えろ。ここのカカシは頑丈だからそうそう壊れん。好きにやってみろ」


放任主義のような言い方に面食らうも、この世には郷に入っては郷に従えという言葉もある。

ならば、取り敢えずは槍の訓練メニューをクリアする他ない。

あまり他のプレイヤーの目に付かないような場所に位置するカカシを選び対峙する。

槍を構えれば目の前にシステムウィンドウが現れやるべき事が表示された。


〈訓練所クエスト

下記のメニューを達成せよ

・突き×100

・薙ぎ×100

・打撃×100

報酬 ???

※途中で訓練所を離れても24時間以内であればカウントは保持されます〉


「普通の訓練メニューだな…。報酬が伏せられてるのは気になるが…取り敢えずやるか」


先ずはと基本的な槍の攻撃方法である突きを試す。

ちゃんと狙わなくても当たるだろうと踏んで突き出してみたが、カカシの頭の横すれすれの場所を槍の先が通り過ぎる。

ゲームによる補正などはなく自分で当てなければならない事が分かり、少し考えた後に突きではなく払いから始める事にする。

薙ぎであれば距離さえ掴んでいればカカシに当てる事は可能と思ったのだ。


「変な癖は付けたくないし右左交互にやってみよう…。槍が重いから今日中に50回叩ければ御の字か?」


独り言を呟きながら槍を構え直すと、右から槍を横薙ぎに払えばクエストのカウントがちゃんと進む事を確認する。

間髪入れずに持ち手を切り換え左から横薙ぎに槍を払う。

意外と腕の力を使う事もそうだが足腰の踏ん張りも必要になる。

思ったよりも槍を扱うのは難しく、途中休憩を挟みながらもひたすらに槍を横薙ぎに振るいカカシに当て続ける。


「くっ、結構腕と脇腹に来るな…。もう少し腰を落とせば安定するか?」


槍を払いながらどの姿勢が安定して振るう事が出来るか試行錯誤を繰り返す。

他のプレイヤーの訓練を見ていた筈のラルクが、色々と体勢などを変えてカカシに挑む姿を面白いものを見つけたかのように見ている事に俺は気付かなかった。

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