4-子犬は可愛い
石畳の床の感触を確かめるように数度爪先で蹴ってから辺りを見回せば、人間から獣人、エルフなど最初に選べる種族の姿があった。
住民とプレイヤーを見分ける術としては頭上に表示されている名前かリストバンドをしているか否かという違いだろう。
流石にリリースされたばかりのゲームなので街中で
「取り敢えずここなら邪魔にもならないし問題ないだろう。スキルはまだ無いから設定の方を確認するか…」
リストバンドのボタンのような場所に触れるとウィンドウが現れる。
取り敢えずはステータスよりも初期設定の画面を見る。
頭上の名前表示をオンだったものをオフに切り替え、ゲーム内の痛覚を100%へと切替える。
致命傷を受けて死ぬ場合には、自動的に痛覚が遮断される機能が備わっていると説明がある為、自分から怪我を抑えるような動きを覚えるにはどうしてもこの設定が必要だと思ったのだ。
ゲームだからと無謀な突撃などはしたくないしする気もない。
痛覚を遮断してプレイをしてしまえば、人間が本能的に感じる危険を切り捨てて過ごすようなものな気がしてしまうという理由もある。
「これだけ感覚がリアルなら…痛みを感じる事で覚えられるスキルとかもありそうなんだよな」
独り言も交えつつグラフィックやフレンド機能、ワールドアナウンスが流れる場合の匿名機能などを一通り確認し設定してからウィンドウを閉じて大きく伸びをする。
段々とプレイヤーが増えてきたからか騒がしくなってくる噴水広場を眺める。
老若男女問わず集まって話をしているのを眺めながら、不意に水が手に付いた事に気づき顔と共に視線を下へと向ければ、リードに繋がれた子犬が飼い主に縁に乗せてもらったのか尻尾を振って噴水の水に前足で触れて遊んでいる。
細かい部分までリアルだなと思っているとリストバンドが不意に着信音を放つ。
「ん?運営からのお知らせか?」
リストバンドに触れると自動で届いたメッセージがウィンドウとして現れる。
隣にいた子犬が俺の膝の上に濡れた前足で躊躇無く触れてきて驚くも、無邪気な瞳か見上げてくるので片手間に頭を撫でてやりながら内容に目を通す。
〈Arcaにご接続頂き誠にありがとうございます。
搭乗者が一定の人数を超えましたのでクローズされていた下記の機能を解放させていただきます。
・各ショップ
・初級訓練所
・初級~中級フィールド
・冒険者ギルド(戦闘関連のクエストが受託できます)
・生産ギルド(採取、作成系のクエストが受託できます)
・魔術師ギルド(魔法関連のクエストが受託できます)
・神殿
フィールドボスを倒す事により新たなエリアが解放されます。
その他、探索により隠れた村なども発見出来ます。
開放された施設などの詳しい内容はヘルプをご覧下さい〉
「やけに広場に人が集まったままだなと思ってたが、なるほど…。まだ施設が解放されてなかったのか」
膝の上で腹を見せてくる子犬へ1度視線をやれば、柔らかな腹の毛を堪能したくなり撫でる場所をこっそりと変更する。
大事な子犬を撫で回してしまい飼い主に申し訳ないなと思いそちらを伺い見れば、知り合いのご婦人と楽しく話しているようなので急に居なくなって探す事になるよりは、自分が見ていれば心配も無いだろうとそのまま遊び続ける。
「お前懐っこいなぁ。いて…噛むな噛むな。まぁ、俺はゆっくりプレイするつもりだし人が散るまで待つにも丁度いいか」
友人と落ち合ったりする為に暫く動かないプレイヤーも一定数いるので様子を見つつ、撫でていた手を前足で取りじゃれるように甘噛みしてくる子犬を見ては、空いている方の手で鼻をつついてやれば千切れんばかりに尾が左右に激しく揺れ膝を叩く。
暫く遊んでいると再度リストバンドが通知音を立てたので何かと思い通知に触れると称号獲得のメッセージが浮かび上がる。
〈一定時間動物と触れ合い懐き度が最高になった為、
称号:獣を愛でる者 獲得
効果:獣に該当するNPCや???との友好度が上がりやすくなる。
また、獣と名の着く???と契約しやすくなる〉
「………これは、懐き度最高って…お前さんそんなちょろくていいのか?満足そうだからいいか」
初称号が子犬と遊んでいたおかげで手に入るとは思っておらず、棚からぼたもちが降ってきた気分になる。
しかし、?で表示されている部分はまだ解放されていない機能が関連しているからか伏せられているので何が入るのか気にはなるものだ。
暫くして遊び疲れた子犬が膝の上で寝てしまうと、話を終えたのか婦人が俺の方を向いて膝の上の子犬を見て状況を把握したのか何度も頭を下げられてしまった。
「ごめんなさいねぇ、少し話すつもりがつい夢中になっちゃって…。ウチの子、遊んでくれる人にはとことん遊んでもらおうとするものだから…大変だったでしょう?」
「いえいえ、子犬の頃は遊びたくて仕方がない時でしょうから。俺も暇だったので逆に遊んでもらってたようなもんですよ」
「今どき珍しい謙虚な子ねぇ…そうだ。近くにアラクネって言うお店があるんだけど良かったら今度寄ってちょうだいな!お礼をするわよ」
寝ている子犬を抱きながら少し悩む素振りを見せた後に、思い付いたように噴水広場から続く道の1つを指差して店の名前を教えられる。
どんな店かまでは教えてくれなかったが、絶対に来て欲しいと念を押されては絶対に行くと勢いに呑まれて告げれば、満足気に頭を下げて去っていくご婦人を見送る。
俺も何時までもここに居るのもあれなので街の散策に向かうため立ち上がる。
「神殿にも行きたいけど取り敢えずは初級訓練所に行きますか…。流石に戦闘知識はあった方がいいだろうし」
行き先が決まれば後は向かうのみとリストバンドの地図機能を呼び出す。
初心者も遊びやすいようにこの始まりの街のみ既にマッピングが済んでおり、施設の場所が分かりやすく記載されている。
先程ご婦人に教えてもらった店にも印が付いているが?アイコンが表示されているだけでどんな店かは分からない。
よく作り込まれているなと思いつつ、俺は訓練所に向けて足を運ぶのだった。
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