3-梟の案内人・後

死亡に関するペナルティは半日ログイン出来なくなるらしくプレイヤーからしたら一種の休息時間のような感じだった。

犯罪を犯した場合には程度によって一日~1ヶ月ログイン不可などがあるらしいので危ない事はしないに限るだろう。

一度フォルクが咳払いをすると何も無かった止まり木の横に小さな黒板のようなものが現れる。


「ホホゥ、種族が決まったので次はスキルの習得についての説明ですぞ」


「はい、フォルク先生」


「ホーゥ…先生と呼ばれるのはなんともむず痒くなりますぞ」


照れくさいのかモゾモゾと動くフォルクを見て思わず笑顔になるものの気を取り直して翼が黒板をなぞると説明が表示される。

字の表記が黒板だからか昔懐かしい白チョークの文字で学生の頃に戻った気分になる。


「ホゥ、この世界でのスキルの習得には3種類の方法がありますぞ。1つは神殿に赴き祈りを捧げることでライア様のプレイスタイルに合ったものが付与されますぞ」


「ふむ、レベルアップの際には習得されないのか?」


「ホッホゥ、レベルアップの際には各能力にボーナスが入りスキルに関しては何度も使用する事によってレベルを上げる形ですぞ。時折神殿に立ち寄り習得できるスキルがあるか確認する事をオススメしますぞ」


レベルアップで成長するのは基本パラメーターのみで、スキルに関してはプレイしていく上でその成長に見合ったスキルが配布されるシステムのようだ。

確かに、これなら職業に囚われることなく各自のプレイスタイルを確立できるというものだろう。

料理や鍛治なども経験すればスキルとして習得できる可能性がありできる事の幅が広がるのはやり込み要素にも繋がる。


「ホゥ、2つ目がこの世界に生きるNPCから伝授されることですぞ。その為には友好度などが必要となってくるので嫌われる事は極力しない事ですぞ」


「なるほど。例えば道具屋とかに頻繁に通って買い物をしたりとかか?」


「ホッホゥ!商人ならばそれが一番ですぞ!街の住人と会話などをしても内容によってはクエストにつながったりもしますぞ。逆に嫌な内容によっては…下がるので注意ですぞ」


現実の人間関係とそこら辺は同じようなので取り敢えず相手の嫌がる事は避けるようにするのが吉だろうな。

そうなるとこのゲームのNPC達はプレイヤー側と同じ位の知性が備わっているとみていいだろう。

VRMMOのフルダイブ型の中でも最高峰という事か。

他のゲームやれなくなるんじゃないか?


「ホホーホゥ!3つ目が搭乗者の皆様が大変喜ぶであろうスキル合成ですぞ!」


「スキル合成?」


「ホッホホゥ!覚えているスキル同士を合成して初期レベルのスキルを作り出せるのですぞ!」


「それは面白そうだな。組み合わせとかのテンプレとかもあるのか?」


俺の問いに暫し固まると目を閉じ少々唸りながら翼で頭を抱えるフォルクの姿を見ながら現状でも思いつきそうな物を考える。

魔法であれば炎と風を組み合わせるようなオーソドックスな物から特殊となると剣技と弓術を無理やり組み合わせたものとかだろうか。

剣技と弓術の組み合わせで矢の代わりに剣を弓で飛ばすような事を連想したがそれを出来るくらいの力がないといけないのだから多分アウトだろう。


「ホーゥ…NPCからの情報で既に検証済みの組み合わせを教えて貰えることもあるようですぞ!基本的に組み合わせは搭乗者の皆様が思い付いたものを神々が検討し問題無しと見れば新しいスキルとして登録されますぞ」


欲しい情報に感謝を述べつつ神々というのが所謂システムが最終的には受理するかどうかで決まるようだ。

実際にそこら辺はゲームをしながら研究していく方が妥当だろう。

その他にもゲーム内通貨の換金レートやスタート地点となる始まりの街に関する情報などを一通り説明してもらう。


「ホッホホゥ、最後にライア様のステータスを確認したい場合にはこちらのリストバンドを使用して欲しいのですぞ」


「へぇ…こんなのもあるんだな」


「ホゥ、パーティを組まない場合は周りの者にも見えない仕様なので安心して確認して欲しいのですぞ!あ、大通りなどで確認する事はオススメしませんぞ。馬車に轢かれて痛い思いをしますぞ」


「うへ…それは勘弁して欲しいな…」


「ホホホホゥ、これにて説明は終了となりますぞ。そうだ…レア種族を選んだ搭乗者様が序盤に襲われない為にもこれを渡しておりますので装備して欲しいのですぞ」


一通り話を終えると満足気な顔をしていたフォルクだが、思い出したと言うように片翼を広げ頭を寄せると嘴で羽を弄り始める。

やがて見つけたと言うように羽から何かを取り出すと俺の肩に飛び移り嘴を差し出してくるので応じる様に手のひらを差し出す。

ポトリと落とされた何かをまじまじと見てからフォルクを見れば僅かに目を細め微笑んでいるような顔をしている。


「ホホゥ…ライア様の姿を種族決定前の姿に見えるようにしてくれますぞ」


「良いのか?そんな物貰って」


「ホッホホゥ、レア種族を選択する方に必ずお渡ししているものなので気にしないで欲しいですぞ」


フォルクの意味深な言葉に首を傾げつつ受け取った耳飾りを見るとウィンドウが表示されており装備するか否かの選択肢があった。

アイテムの名称を確認すると〈影法師の耳飾り〉と表示されている。

効果の方を確認すると本来の姿を隠し別の姿を形作る事が出来、また付けている事を気取らせないように隠蔽の能力も備わっているらしい。

ステータス上昇系のものは無いため他のプレイヤーと変わらぬ状態でゲームを始めることが出来る。

迷わず装備を選択すると自分では分からないが見た目が変わっているようでフォルクがちゃんと効果が出ていることを翼で丸を作って教えてくれた。


「ホホゥ、ここに訪れた時と同じ姿ですぞ」


「そうか。まぁ確かにあの姿じゃ目立つよな」


「ホゥホゥ、それでは始まりの街に繋がるゲートを開きますぞ…。ライア様が良き旅に巡り会えるように心よりお祈りしますぞ」


肩に乗っていたフォルクが止まり木へと戻ると片翼を広げる。

少しの沈黙の後に空間が歪み楕円形のゲートのような物が出来るとそこから噴水広場のような場所が映し出されている。

流石はゲームと思いながらゲートに近付くと思い出したようにフォルクへ視線を向ける。


「そうだ、またファルクに会えたりするのか?」


「ホゥ…また、会う時はあると思いますぞ」


「そうか…なら、また会えたら触らせてくれよな?」


「ホホゥ!一度くらいならいいですぞ!」


暫し考えるように瞬きを繰り返していたフォルクが頷いたのを見て心の中でガッツポーズをする。

軽く手を振ってからゲートへ入ると一瞬視界が歪む感覚に襲われるも、次の瞬間には草原から噴水広場にある石畳の床の上に立っていた。


ーーーー


ライアが居なくなった草原に取り残された1羽の梟はゲートが閉じるのを見届けると次の瞬間には人の姿へと転じていた。

止まり木は杖へと変わり長く伸ばされた髪と髭が特徴的な老人は愉快そうに笑う。


「ほっほっほっ、面白い若者だったのぅ。また出会えるのが楽しみだわい」


彼こそが本来現れるべき案内人の真の姿であり他のプレイヤー達が出会う老人である。

草原には穏やかな風が吹いており一人違う経験をした事を知る由もないライアにまた再び出会う時が楽しみであった。


「いやしかし、フクロウの姿って疲れるもんじゃなぁ。けど、フクロウと思われとるしまたやらんといけんのか…。なんで化けてしもうたんかのぅ…過去の自分を殴りたいわい」


一通り笑った後、現実に引き戻されたかのように老人はぼやくと肩を落としながら草原から去ったのだった。

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