2-梟の案内人・前
起動の言葉と共に目の前が一瞬光に包まれるも、瞬きを繰り返すうちに視界がハッキリしてくれば、目の前に広がる草原と己に向かって吹き付けられる少しばかり冷たい風に鳥肌が立つ。
草原独特の青臭い緑の葉の匂いがしっかりと感じられ、裸足の足には草を踏んでいる感覚があった。
「凄いな、従来のVRMMOだとここまでの再現は難しいはずなのに…」
「ホホゥ、新しい搭乗者の方ですかな?」
「ん?どこから?」
「ホーゥホホゥ、こちらですぞ。アナタから見て右ですな」
その場で足踏みをしたりしゃがみこんで草花に触れたりして感心していると、愉快そうな雰囲気の声色で語り掛けられ辺りを見回す。
だが、辺りを見回しても人の姿はない。
声の主に右と言われそちらを向いてみれば、先程まで草原しか無かった場所に止まり木が現れており、そこに一羽の梟が留まっていた。
一度大きく羽を広げてから片翼を胸の前に置くようにして礼をする姿が、人間のようだと思いながら梟を間近で見れている事に胸が高鳴る。
「ホゥ、アナタ様の最初の案内人となるフォルクですぞ。これから簡単な説明をさせていただきますぞ」
「よろしく………なぁ、ひとつだけいいか?」
「ホホゥ、熱心な方と見ましたぞ。このフォルクが答えられる事なら答えさせていただきますぞ」
「勿論フォルクにしかできない事だ。………触らせてくれ」
「ホ、ホゥ…い、痛くはしないで欲しいですぞ」
案内人として自己紹介をする梟ーフォルクの柔らかそうな羽が、社畜として生きてきた俺にはかなり魅力的に映る。
許可を得ればゆっくりと近付き怖がらせないようにそっと手を伸ばし頭に触れる。
梟カフェなどに興味はあれど中々男1人では行きにくい場所である為、こうして見て触れる機会が出来たのは凄く有難い。
本物には触れた事がないがちゃんと温度が手に伝わり、羽同士が重なっている独特な感触もしっかりと感じられ、首の近くの少し柔らかめの羽の部分を指先で擽るように撫でれば身を捩るフォルクの反応を見て手を引っこめる。
「ありがとう、撫で回して悪かったな」
「ホホゥ、これくらいお易い御用ですぞ!」
「それじゃ、改めて説明を聞いてもいいか?」
「ホッホゥ!それでは説明をさせて頂きますぞ」
先ずフォルクが説明してくれたのはこの世界の成り立ちと、現実との時間の流れの違いだった。
空想上の生き物や種族が生息し魔物や動物などのあらゆる生命が息づいている事の他に、この世界を作った8人の神について説明される。
また、特定のボスや魔物、動物は幾らでも現れるが生活する人々は一度死んでしまえば生き返らないという大事な事も教えてもらった。
「ホゥ、これは搭乗者の皆様が命の大切さを忘れない為に生命の神・ヴィータ様がお決めになられたのですぞ」
「確かに大事な事だな。NPCだから殺しても大丈夫とは俺も思わない」
「ホホゥ、友好を築いた方がお得である事だけはお伝えしておきますぞ」
時間経過に関してはこの世界の1日は現実世界と同様の時間で成り立っているらしく、この世界で2日目を過ごす際には強制接続解除時間の通知が来るらしい。
現実とこの世界の生活バランスを取るための処置だろうなと理解できる。
廃プレイヤーは何がなんでも連続接続を試みようとするだろうが…。
また味覚も再現されている為、食べ物を食べる時に自動的に無味の栄養剤が体に投与されるようになっているらしい。
「ホゥ、排泄などの処理をする機能は備わっていないので気を付けて欲しいですぞ」
「あー、そこら辺はちゃんと気を付ける。この年でやらかすのは嫌だからな…」
自分がやらかした時の事を想像してしまい、背中を冷や汗が伝うものの気を付けようと心掛ける。
その後もフォルクの分かりやすい説明が続き自分の名前を登録する所まできた。
現実世界の名前をそのまま使う事は推奨されていないが、自分と同じ名前などそうそうないだろうとライアで始める事にする。
どうやら1度だけ名前を変更する事が出来るらしいのだが、その際は別途ゴールドが掛かるという説明をされた。
「ホッホゥ!ライア様ですな!覚えましたぞ!」
「まだこの名前が使われてなくてよかったよ」
すんなりと名前が登録出来たことに安堵しながら続いて自分の種族を決める為に空中に現れた手鏡を手に取る。
鏡を覗き込めば自分の顔が映し出されたと思うと横にメッセージウィンドウが現れ選択肢が表示される。
獣人や鬼、エルフなど割とポピュラーなものからマーマンなど色々ありタップするとイメージが確認できるようだった。
ふと項目の中に星印が付いた物があったのでフォルクに問いかければレア種族というものらしい。
「天使、悪魔、ハイエルフ、ダークエルフ、吸血鬼、インキュバス…女を沢山引っ掛けたいとかそういう思想は持ってないんだが…?」
「ホッホホゥ、どれも搭乗者様の実際の容姿と能力が合わないと表示されない種族ですな。私は詳しくは知らぬのですよ」
「一応、補足として特徴が記載されているがあまりデメリットが無いのはハイエルフかダークエルフという所か…」
ダークエルフは戦闘面が特化している種族のようで選択するとそういった類のスキルに補正が付くようで戦闘好きにはもってこいだろう。
ハイエルフはどれも特に補正などは付与されないがバランスよく極めた分だけ能力に補正が入るようだ。
普通のエルフだと弓術と元素魔法に補正が付くようで高位種となるからこそのボーナスだろう。
天使は闇に弱く夜の時に闇に属する人型が見えなくなるというデバフが掛かり、悪魔は対照的に光に弱く夜に強い。
デバフはないのかと思ったが、悪魔はどうやら光耐性が0でパーティーを組んだとしても味方からの攻撃が通じてしまうらしい。
吸血鬼は吸血する事で安心安全なプレイが出来そうだか夜しか行動出来ず、インキュバスは女に滅法強くなるらしいが誰得と言った所だ。
「んー、どれも長所があるけどパーティとか組む気もないからなぁ。インキュバスや悪魔は事故った場合に大変そうだが…」
暫く見つけたレア種族を眺めていたが、ふとスクロールバーを確認するとまだ最下部まで行っていない事に気付き、スライドさせると最後に表示されたレア種族に目が留まり自然と心惹かれるままにそれに決める。
一緒に手鏡を覗き込んでいたフォルクが驚きに目を見開いていた。
その顔が面白く眺めていれば種族決定用の手鏡が消えると、俺の顔をまじまじと暫し見た後に僅かに目を細めてから止まり木の方へ移り、気を取り直すように次の説明を始めるのだった。
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