KAC20244 パンダだった

茶ヤマ

1

パンダだった。

何を言っているのかわからぬと思うが、パンダだった。


動物園に来ているわけでもない。

中国の山奥にいるわけでもない。

ただ、自分の生まれ故郷の東北のクソ田舎である盆地。

田んぼと、錆が浮き出ているトタン屋根の家々がまばらに見えるだけのクソ田舎。


そこで何か地響きがする。

だから、この田舎の道を走りさる2tトラックだと思ったのだ。


が、それは間違いだった。

パンダだったのである。

そう…パンダだったのである……。


パンダは熊なのだ。

目の周りの黒ブチがタレ目に見せているから、可愛く大人しく笹を食んでいる動物かと思われがちだが、あいつらは熊なのだ。

確実にこちらを殺りにくる長く鋭い爪と、肉袋を見る肉食獣の目だ。


ああ、これはもう終わったな…。

日本のあちらこちらで熊を見たという情報が相次いでいたし、この生まれ故郷の県では本当に目撃情報も、被害情報も相次いだ。

この盆地にすら現れたんだ…

白と黒の熊だけど…

パンダだけど…


と諦観の目をした、その時だった。

パンダが声を発したのだ。


何を言っているんだ、と思われるかもしれない。

我ながらそう思う。

パンダは人語を話さない。多分だが。

だが、本当に発したのだ。

パンダが。

人語を。


「さ、ささくれ!」


嗚呼、再び云おう。

何を言っているんだ、と思われるかもしれない。

我ながらそう思った。


「え?…あの…すみませんがもう一度お願いしたいのですが…」

「笹くれ!」


頭を抱えたくなった。

脊髄反射で云った言葉は

「その声は、我が友、李徴子ではないか?」

だった。

本当に頭を抱えてしまった。

すまない、本当にすまない。


「違うし君は袁傪でもないだろう。それはさておき、笹くれ」


冷静なツッコミをありがとう。

それはさておき、笹は持ってない、近所にも生えてない。

その旨を丁寧に伝えた。


「ああ、そうなのか。じゃあ笹はいいや。アイスがいい」

アイス…?何がいいんだ?

「サ、サクレ!」


パンダが「ささくれ」と人語を発した話。

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