第三章 ~『宝物殿の先輩』~
慶命が部屋を去った後、
「宝物殿の管理は私が先輩ですから。私の指示には従うこと。よろしいですわね?」
「善処はします」
「はっきりとしない答えですわね」
「理不尽な命令には従わない主義ですので」
そんな
「相変わらず生意気な女ですわね……そんなあなたには雑用がお似合いですわ。まずは掃除から始めなさい」
(反論は容易いですが……)
掃除は誰かがやらないといけないことだ。素直に頷くと、その反応が意外だったのか、
「指示を聞く気になったのかしら?」
「私は理不尽な要求に従わないと答えましたが、筋の通った命令には逆らいませんよ」
「ふん、ならせいぜい頑張りますのね」
「
忠告を受けて、
「その服、とても似合っていますね」
「お世辞はいらないわ」
「いえ、本心ですから。素晴らしいものは正直に褒めるようにしているのですよ」
内面はともかく、
(素直じゃないですね)
丁寧に掃除を進めていくと、部屋の一角に設置されている水槽を発見する。色鮮やかな魚が優雅に泳いでおり、天窓から差し込む光が水面を反射して、幻想的な光景を作り出していた。
「その魚が気になりますの?」
「宝物殿に魚がいるとは思いませんでしたから……」
「価値ある貴重な魚らしいですわよ。だから宝物殿で管理していると聞いていますわ」
「確かに綺麗な魚ですからね」
水槽で泳ぐ魚たちは宝石のように輝いている。これも宝物の一種なのだと、その美しさを前にして納得する。
「お世話も私たちの仕事の一環なのですか?」
「そうですわね。ただあなたは触らなくてよろしいですわ」
「
「この魚たちは非常にデリケートですもの。慣れている私がやった方が安全ですから。夜に部屋に持ち帰ってから水を替えておきますわ」
「そうですか……」
世話係を譲ろうとしない
だが宝物品の数は多く、掃除に集中していると終わった頃には夕日が沈んでいた。温かみのある色がゆっくりと室内に満ちていく。
その日は掃除だけで一日が終わり、肉体的にも精神的にも疲労を感じていたが、清掃を終えた宝物殿の輝きはそれだけの価値があるものだった。
「終わったようですわね」
「ただ宝物品のチェックができませんでしたから。明日はそちらをやる予定です」
「それは許されませんわ」
強く否定するように、
「あなたの仕事は明日も掃除ですもの。これは命令ですわ」
「それはできません」
「あなたも掃除の大切さは理解しているはずですわよね?」
「ええ。ただ頻度も重要なはずです。少なくとも
「わ、私は、毎日していましたわ!」
自分の主張を正当化しようと
「それ、嘘ですよね?」
「は?」
「私が掃除した際、一ヶ月分ほどの埃がたまっていました。もし毎日掃除をしていたのだとすると、この状態に説明がつきません」
「うぐっ……」
「それに宝物品のようなデリケートなものは頻繁に触れるのを避けるのが一般的です。以上からあなたの言葉は嘘だと判断しました。何か反論がありますか?」
「……っ……ありませんわ……」
嘘を見抜かれた悔しさで、
「では明日は宝物品の検品をさせていただきますね」
(まさか不正でもしているのでしょうか……)
二人体制でやるべき検品をさせないために、掃除を押し付けようとしているとさえ感じる。怪しんでいると、それが
「
「私がそんな愚行を犯すはずがありませんわ」
「なら良いのですが……」
静かに言葉を続けると、
「私は帰るから。鍵を閉めておいて頂戴」
「分かりました」
「それと、水槽を持って帰るから他に宝物殿から持ち出してないかのチェックをお願い」
「問題ありません」
「そう」
それだけ言い残して、
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