第三章 ~『宝物殿の管理』~
「しばらくは定時帰りができそうですね」
「これも
「慶命様、どうかされましたか?」
「実は仕事を頼みたくてな。お主を探していたのだ」
「
慶命の言葉に
「詳しく聞かせていただいてもよろしいですか?」
「宝物殿には貴重な文化財や歴史的遺物、金銀や宝石類まで多彩な品が保管されている。その管理が主な仕事となる」
文書管理課の枠組みの一つとして、宝物品の管理もして欲しいという依頼だった。
「もちろん無理にとは言わない。どうだろうか?」
慶命にはいつも世話になっている。それに仕事も落ち着いており、余裕もある。断る理由がないため、
「私にできることなら喜んで協力させていただきます」
「おおっ、そうか。欠員が出て、困っていたのでとても助かる」
「前任者は退職されたのですか?」
「横領が起きてな。職を辞することになったのだ」
「そのような事件が……」
「ただこれは珍しい話ではない。なにせ過去にも一度起きているからな……宝物品には魔力がある。魅了されて、つい犯罪に手を染めてしまったのだろう」
宝石鑑定士をしていた
ただ
「それほど簡単に横領ができるのですか?」
宝物品の管理は厳格に行われるべきものだ。横領が容易にできる環境に疑問を呈すると、慶命は眉間に僅かな皺を寄せる。
「宝物殿の管理は二人一組の体制にし、互いに監視して、不正を働けないように工夫してきた。だがそれでも問題は起きた。だからこそ
「私を?」
「宝石のような高価な品を扱い慣れている
声がかかった理由を理解し、
「
なにせ
「分かっている。新しい人員も並行して探す」
「約束ですよ」
「ではさっそく宝物殿へ案内しよう」
慶命が鍵を開け、重い扉をゆっくりと押し開けてくれる。
すると目の前に息を飲むような光景が広がった。宝物殿の内部は広々としており、天窓から差し込む光が大理石で作られた室内を輝かせている。
「綺麗ですね……」
思わず、
「凄いだろ。儂も初めて訪れた時は感動したからな。気持ちは理解できる」
「ここで私は働くのですね……」
新しい職場に心を踊らせていると、慶命は分厚い書物を
「これが宝物殿の目録だ。保管されている財宝の詳細と品番が記録されている」
目録には棚卸しの日付と署名の記入欄も存在する。
「目録の一番上は宝石なのですね」
「歴代の皇室に引き継がれてきた貴重な品だ。興味があるなら、見てみるか?」
「是非!」
宝石に目がない
「もしかして日光対策ですか?」
「さすが専門家だな。この宝石は日光に弱い。ヒビ割れなどを防ぐために、普段は黒い布で展示ケースごと覆っているのだ」
慶命はそう説明すると、布をそっとめくる。するとその下から、美しく輝く宝石が姿を現した。
大粒のオパールのネックレスは光の加減で多彩に輝き、
「これほど見事なオパールは見たことがありません」
「国宝級の宝物だからな。売れば、一生遊んで暮らせる品だ」
慶命の言葉を受け、
「こちらの宝石は何ですか?」
「それは街に商人が移住してきた時に贈られたダイヤモンドだ。ただ置き場がなくてな。オパールと同じケースで管理しているのだ」
「これはダイヤモンドではありません。偽物ですね」
「本当か?」
「間違いありません」
「だが儂も多少の知識はある。他国で大量生産されているモアッサナイトではないだろう?」
「こちらはホワイトサファイアですね。ダイヤモンドより安価で、モアッサナイトよりは高価な品です。少なくとも宝物殿で管理するような貴重な代物ではありませんよ」
「あの商人め、儂を騙したのか……」
慶命は不満を呟きながらも怒ってはいない。元々、お近づきの品として無償で譲渡されたものだ。だからこそ憤りも抑えられていた。
「見事だ、
慶命は
「丁度良いところに来たな」
宝物殿に足を踏み入れたのは
「紹介しよう、もう一人の管理人、
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