第三章 ~『高まった評判』~
映雪が後宮を去ってから数日が過ぎた。退職理由については公にされていないものの、
宮女とすれ違うたびに名前を口にされることも増え、多くの者たちから注目される存在となっていた。
評価された人材は需要も高まる。
自分の部下に引き入れたいと熱望する彼女たちは、高い給与や好条件を提示した。しかし
(どのような厚遇を提示されても、
凝った装丁が施され、品のある書体で書かれた手紙には、給与を現在の五倍支払うと記されていた。差出人の名前は
(評価してくれるのは嬉しいですが、いくらなんでも噂話だけでこの待遇は過大評価が過ぎるのでは?)
他の条件と比較しても、頭一つ抜きん出いている待遇に驚いていると、自室の扉が叩かれる。誰だろうかと、扉を開けると
「朝早くにごめんなさい。
「心配ですか?」
「実は昨晩から、あなたを引き止めるようなら許さないと圧力をかけられていて……それで
「私は何もされていませんよ。ですが……」
「どれほど圧力を受けても、
「
「優秀な部下に負けてはいられないもの」
二人は笑みを零しながら、きっぱりと断る覚悟を決める。そんな彼女たちの決断を、柱の影で覗き見ていた人物がいた。
「それは許されない判断ですわね」
姿を現したのは小柄な女性だった。華のある容姿をしており、黒く艶やかな髪が綺麗にまとめられている。淡い朱色の
「あなたは……」
「はじめまして、私は
ジロジロと観察するような視線を向けた後、
「二人が揃っているなら話は早いですわね。
「
「ふふ、建前はいりませんわ……人は皆、金の虜ですもの。目的は報酬ですわね。五倍で足りないなら十倍の給金を出しますわ。これで悩む余地はありませんわね」
破格の給料を提示されながらも、
「どうしても求めに応じるつもりはないと?」
「百倍の報酬を提示されても、お断りします」
「なら強硬策に出るしかないですわね」
「
有無を言わせぬ圧力を秘めた脅しだが、
「どうやら私についての調査が足りないようですね」
「……どういう意味ですの?」
「私は頼まれて、後宮で働いているのです。クビは脅しになりません」
(簡単に退いてはくれなさそうですね……)
大人しくいても問題が解決しないと悟った
「私を脅すことは
「それは……」
「いえ、答えはいりませんね。スカウトしに来たのなら、クビにしては本末転倒ですから。この脅しは、きっとあなたの独断ですね」
図星だったのか、
「ですがそれは悪手です。後宮で話題になっている私を無理にクビにしたとなれば、
「うぐっ……」
「それを踏まえて、もう一度訊ねます。本当に私を後宮から追放するつもりですか?」
「~~~~ッ」
何も言い返せずに悔しさが込み上げたのか、
「誘いを断ったこと、必ず後悔させてやりますわ」
捨て台詞を残して、
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