第二章 ~『天翔と皇后』~
《
「もういいわよ」
皇后が呼びかけると、部屋の片隅に設置された小部屋から
「私のことが苦手なのにわざわざ様子を見に来るなんて……そんなに
「友人だからね。
「ふふ、意地っ張りなところは子供の頃から変わらないわね」
皇后は嬉しそうに微笑む。一方、
「でも
「好みは似てないよ。
「高く評価しているのね」
「それだけの価値がある女性だからね」
「一理あるわね……賢明で、洞察力に優れ、外見はちょっと地味でも容姿は整っている。それに何より誠実な人間性が素晴らしいわ。次期皇后としても悪くない人材よ」
皇后の思いも寄らない言葉に、
「……正気かい?」
「私は本気よ。縁談を断り続ける
「余計なお世話だよ。なにせ僕と
皇族の権力は絶大だ。やろうと思えば
だが
「私も鬼ではないわ。無理に婚姻を結ばせたりしないわよ」
「僕の意思を酌んでくれると?」
「もちろんよ」
「信用できないな」
「無理もないわね。私は皇后としての責務を果たすため、母より役目を優先して生きてきたもの。でもね、あなたの母であることに変わりはないわ。息子に幸せな婚姻を果たして欲しい気持ちに嘘はないの」
「
「あの人は反対するだろうからね……」
母親以上に不仲な父親を説得するのは骨が折れるはずだ。想像しただけで疲労を覚えた
だが言い残したことを思い出した彼は、足を止め、頬を赤くしながら振り返る。
「もし僕が
「ふふ、素直じゃないのは父親似ね」
皇后の軽口に気恥ずかしさを覚えたのか、早足で謁見の間を去る。その背中を見つめる彼女の瞳は、母としての愛が込められていたのだった。
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