第二章 ~『一件落着と皇后の思惑』~
美しい庭園を望む窓からは、季節の花が咲き乱れている。その穏やかな風景は
(きっと上手くいくはずです)
鼓舞しながら謁見の間の前まで辿り着くと、重厚な扉がゆっくりと内側より開かれる。
その先に広がるのは、前回訪れたときと変わらず、壮麗な装飾が施された謁見の間だ。中央では高貴な雰囲気を纏う皇后が玉座に腰掛けていた。
「顔をあげて頂戴」
許しを得た
「エメラルドの謎を解いたと聞いたわ。さっそく教えてくれるかしら」
「彼女の行為は許されないものです。ですが情状酌量の余地は十分にあると考えます」
皇后への提言に、場の空気が静まり返る。すべてを聞き終えた彼女は、緊張を解き放つように拍手を送る。
「評判以上の洞察力と課題解決力ね。本当に素晴らしい。天晴という他ないわね」
皇后はこれ以上ないほどの賞賛を送る。だが
「あなたは素晴らしい働きをしたわ。褒美として、上級女官への出世も、生涯を遊んで暮らせるだけの大金も望むものは何でも用意する。これ以上ないほどの栄光を手に入れたのだから、もっと喜んでもいいのよ」
皇后は賞賛を重ねる。だが
「皇后様、失礼を承知で伺ってもよろしいでしょうか?」
「許可しましょう」
「私に依頼する前から、エメラルドの謎を知っていたのではありませんか?」
「どうしてそう思ったの?」
「皇后様は賢い人ですから。一度だけ騙されたのならともかく、二度も騙されるとは思えないからです」
「つまり私が細工されていると知りながら、敢えて騙されていたと?」
「そう考えれば、すべてに納得できるのです」
「確かに、私はエメラルドに細工がされていると気づいていたわ……」
皇后は悲哀が含まれた声で静かに認めると、遠くを見つめながら、昔の記憶に思いを馳せる。
「
皇后の言葉には、深い責任感と後悔が込められていた。
「部下の失敗は上司の責任。つまり私のミスで起きた冤罪事件だったのよ。その罪を償うために、間接的に
皇后の言葉は、室内に深い静けさをもたらす。
「ふふ、でもさすがは慶命が評価するほどの洞察力ね……きっとあなたなら、私がなぜ謎を解くように依頼したのかも見抜いているのでしょうね」
知っていながら騙されていたのだとしたら、謎を解明する理由もない。それを踏まえた上での質問に、
「皇后様のくれたヒントのおかげです……『この謎を解き、私の求める答えを導き出すように』との依頼に私は違和感を覚えたのです……なぜなら謎を解くだけなら、『私の求める答え』ではなく、『真実』を導くようにと表現するはずですから。つまり隠されている意図があると推し量りました」
皇后はエメラルドの謎を解く以外にも、
「どのような願いでも叶えてくれると皇后様は仰いました。なら私の望みはただ一つ、
「素晴らしいわ。満点の回答よ」
皇后は拍手を送り、
「
「では私から説明させていただきます」
「皇后様はエメラルドに細工が施されているとご存知でした。ただいつまでも騙され続けるわけにはいきません。先帝の呪いだと良くない噂まで流れていましたから。皇族の権威に悪影響を及ぼす前に、本格的な捜査が始まろうとしていたのでしょう」
「正解よ」
「大事になる前に真実を明らかにする必要がでてきたのです。しかし皇后様は
「でも良かったわ。もし
しかし理由もなく独断で無罪放免にしたとあっては、同じように罪を犯した者を罰する際に不公平となり、軋轢を生む。
謎を解いた褒美という形で第三者から無罪を望ませることで、事態を丸く収めようとしたのだ。
解説を聞き終えた
「皇后様も
「私はシナリオ通りに動いただけですから」
結果的には皇后の掌の上で踊っていたに過ぎず、脚本があったからこそ演者として振る舞えたのだと謙遜すると、皇后は笑みを零す。
「私、
手放しの賞賛を受け、
(
だからこそ信用を重視する皇后は、
そして謎解きの裏の目的に、
「
皇后は優しい微笑みを浮かべながら感謝の意を示す。穏やかな空気の中、
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