第二章 ~『物色された部屋』~
「
「君が喜んでくれて嬉しいよ。ただ彼と再会してしまったことだけが残念だったね」
「不快にさせてしまいましたよね?」
「僕は構わないさ。ただ君が心配でね」
「
婚約していた頃から人間性に問題のあった人だ。今更、彼の無礼に感情が揺れ動くこともない。
「
「私は後宮で暮らしていますから。あの人に危害を加えられることはありません」
「でも宝石店を荒らされるかもしれないよ」
「あの人は妙に計算高いですから。後宮を敵に回してまで無益な嫌がらせはしないはずです」
借金がなくなり、宝石店を連帯保証で奪われる心配はなくなった。ただ管理そのものは引き続き後宮が担ってくれており、看板も掲げられている。重罪に処される危険を犯してまで宝石店を荒らすほど馬鹿ではないはずだ。
「
織物屋の支配者として君臨していた
「先ほど、宝石店の前を通りかかった警吏に様子を見てきて欲しいと伝えておきましたから。もし予想通り暴れているなら、次会うときは牢屋の中でしょうね」
本人の歪んだ性格を直すためにも良い薬になる。そんな説明を聞かされた
「君の先を読む力は神がかっているね」
「
「彼は喧嘩を売る相手を間違えたようだね」
壮麗で厳かな雰囲気を放つ東門をくぐり、後宮の敷地内へと進んでいく。門を守る宦官たちは、通り過ぎる馬車に目を留め、敬意を表して頭を下げる。
中庭まで移動し、馬車が停車すると扉が開く。車内から降りると、夕日の輝きは強さを増していた。
「本日はありがとうございました。とても充実した休日を過ごせました」
「僕も君とのデートは楽しかったよ」
「デートだったのですね」
「僕はそのつもりだったよ」
「ならそういうことにしておきましょう」
二人は軽く頬を染めながら笑みを交わすと、別れ際の言葉を残す。
「じゃあね、また一緒に過ごせる日を楽しみにしているよ」
「私もです」
鍵を開け、扉を開いた
(
(悩んでも仕方がありませんね)
気持ちを切り替えるためにベッドから起き上がり、何気なく周囲を見渡した。その瞬間、彼女の目が細まる。
(何か違和感が……)
書籍や資料が整理されている棚は、一見すると異変を感じない。しかし
(誰かが私の部屋を物色したのでしょうか?)
金品が盗まれた様子もないため、金目当ての犯行ではないだろう。念の為、部屋を調査するが失くなっているものはなかった。
(犯人の狙いは不明なままですが、被害がなかったのでまずは一安心ですね)
静かに息を吸い込んで心を落ち着ける。そうしていると扉がノックされ、「
慌てて扉を開けると、
「近くまで通りがかったものだから顔を見に来たの……昼は不在だったようだけど、どこかに出かけていたの?」
「
「やはり外出許可は簡単に取れるものではないのですね」
「難しいわね。私が申請しても数日はかかるもの」
「
四代女官の一人でさえこうなのだ。
「即日で必要な場合は、皇族の力に頼ることが多いわね。私だと皇后様にお願いしているわ」
「
「もしくは彼自身が皇族だったりして」
「まさか……」
「ふふ、冗談よ。宮殿で暮らす皇族は皇帝陛下、皇后様、皇子様の三名のみ。私が顔を知らないのは皇子様だけだけど、彼は引きこもりという噂だもの」
「そうですよね……」
そもそも本当に皇子だとすれば、
「
「いえ、そういうわけでは……あれ?」
「もしかして
「遣いの宮女からは扉の間に挟んだと報告を受けているわ。それを読んでくれたのでしょ?」
「いえ、どうやら盗まれたようでして」
「お金と誤解したのかしら」
「きっとそうでしょうね」
(手紙を奪った犯人は文面を見られたくなかったのでしょうね。そして念の為、他にも手紙が届いていないかを確認するために、私の部屋に侵入したのでしょう)
棚を物色した上で、何も奪わなかったのもそのためだ。犯人に心当たりはあるものの、証拠はない。無用な心配をさせないために、今は
「なら手紙の内容をここで伝えるわね。実は皇后様が
「私で良ければ喜んで」
世話になっている
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