第二章 ~『恩返しの木箱』~
翌朝、眠りから覚ました
「
届けてくれた宮女から笑顔と共に品を受け取った
その木箱は、滑らかな手触りの黒檀で作られ、上品な光沢があった。表面には細かい金の線で模様が施されており、その美しさに目を奪われる。
ゆっくりと蓋を開けると、中には月餅と胡麻団子がぎっしりと詰められていた。月餅は縁起の良い菊を型取り、胡麻団子は香ばしい匂いを広げている。
(これは凄いですね……)
食べきれないほどの高級菓子の山だ。失くした宝石発見の感謝が十分すぎるほどに伝わり、逆に申し訳ないとさえ感じてしまう。
(少しだけ頂いて、残りはお返ししましょう)
木箱を抱えて
扉を叩くと、木箱を届けてくれた宮女が室内に入れてくれる。
高い天井からは提灯が優雅に下げられ、壁には精緻な絵画が飾られている。床には柔らかな絨毯が敷かれ、
「まずは来客の窓口担当である
「
「規則になっておりますので」
宮女が案内した先には、腕を組んだ人相の悪い女官が待っていた。不機嫌を隠そうとさえせずに、釣り上がった瞳を細めている。
「
「後は私が対応するから、あなたは下がっていいわ」
「承知いたしました」
宮女は一礼すると、自分の仕事場へと戻っていく。
「それで用件はなに?」
「お菓子を返しに来ました。それと一言、
「昨晩の話は聞いているわ。宝石を見つけて活躍したそうね。でも勘違いしないでね。上級女官の
「一言、お礼を伝えるだけです。それでも駄目ですか?」
「駄目よ」
「仕方ありませんね。では、
「ま、待ちなさい」
「どうかしましたか?」
「
自己判断で勝手に客を帰らせたとあっては後々問題になる。それを危惧し、
数分後、
「
「来ちゃいました」
「
その声には心からの歓迎が込められており、暖かい気持ちに包まれていく。
「たくさんの菓子をありがとうございました」
「喜んでくれたのね!」
「とっても。ただこれを全部食べたら太ってしまいますから。一緒に食べませんか?」
少し困ったように伝えると、
「いいわね、一緒にお茶にしましょう。場所は――」
「私の方で用意します」
傍に控えていた
数分後、準備が整ったのか、
椅子に腰掛けると、
「
「私は自分の仕事をしただけですので……」
「でもどうして個室にしたの? 大部屋でも良かったのに……」
「狭い個室の方が
「まさか。細かいところまで気が回るなんて、さすが私の右腕ね」
「
「はい。宴でも見かけませんでしたから……」
「宝石の買い出しで外出していたの。彼女は両親が宝石商だったから、知識が豊富なのよ」
思わぬ共通点に
「私なんて専門家に比べれば素人同然ですよ」
「でもご両親から指導されたのでしょ?」
「両親も宝石商として二流でしたから。その証拠に、最後には店を畳んで、借金だけが残りました……」
だから家族を養うために女官となったのだと、
「
「構わないわよ」
宮女から呼び出しを受けた
「
「いきなりですね」
「回りくどいのは嫌いなのよ。で、どうなの?」
「従う理由はありませんね。誰と友人になるかは私が決めます」
きっぱりと断ると、
「これは
「嘘ですね」
「は?」
「根拠はこの部屋ですよ。大部屋ではなく、個室を選んだ理由は、私と二人っきりの状況を作るため。つまり私を遠ざけようとする意図を他の女官たちに知られたくないからです」
「そ、そんなことは……それに
「あれもタイミングが良すぎました。先程の宮女に事前に頼んでおいたのではありませんか?」
「…………」
「おそらく、2人か、3人か。仲の良い者たちだけを懐柔したのでしょうね」
「
「褒め言葉として受け取っておきます」
「待たせたわね。お茶会を再開しましょうか」
「はい」
楽しい時間は過ぎるのも早い。会話を十分に楽しんだ
「私はこれで失礼するわね。また一緒にお茶会しましょうね」
「いつでも誘ってください」
「それと追加のお土産も用意したわ。友人と一緒に楽しんで」
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