第一章 ~『慶命の狙い』~
『
宝石の謎が解けた今、
「では私はこれで失礼しますね」
彼の脳裏には、この夜、
「面白い女性だったな……」
宮殿は鮮やかな柿色の屋根瓦に覆れており、月光に照らされて、その煌びやかなデザインを夜空に輝かせていた。
厳重な
その優美な光景を眺めていると、待ち構えていたかように人影が近づいてくる。
「
「
人影の正体は総監である
「まるで嫌なものでも見たかのような表情ですな」
「小言を抑えてくれたら、もう少し愛想を良くしても構わないんだけどね」
「手厳しいですな。ですが、儂は皇子の教育係でもありますから。これからも手を抜くことはありません」
「宴は楽しめましたか?」
「予想していたよりはね」
「それはなによりですな」
「
「たまたま同じ火鉢の近くに座ったからね。そして友人になった。出会いの機会を作ってくれて感謝しているよ」
「皇子の役になれたなら、臣下にとってこれ以上の喜びはありません」
「彼女は皇子のお眼鏡に叶いましたかな?」
「まぁね。なにせ僕が友人になりたいと願ったほどだ」
「儂としては皇子が
知らなかった狙いを聞かされ、
「また悪巧みをしていたのか……でも僕に結婚願望はない。その狙いは外れたね」
「それは残念です」
「あまり懲りてないようだね……」
「簡単には諦めないのが長所ですので」
「
「これからも絶対にないと断言できますか?」
「それは……」
「断言できないようなら、狙いは半分成功です」
クスクスと
「……仮に僕が恋仲を望んだとしても無理だよ」
「なぜです?」
「出自の問題で周囲から反対されるからさ」
皇族にはそれに見合う高貴な妃が選ばれる。
「問題ありません。昔ならともかく、現在の皇族の権勢はかつてないほどに高まっていますから。反対できる者などおりませんよ」
「父上や母上は?」
「賛成するでしょうね。今は縁談による勢力拡大よりも、地盤を盤石にすることが肝心ですから。そのためには家柄が良くても、傲慢で、皇子をたぶらかすような女では駄目です。次世代の皇后として、資質ある賢女が求められるのですよ」
縁談の力で良好な関係を維持する必要がないため、求められているのは失敗しない婚姻だった。
「
「何を根拠に……」
「皇子とは長い付き合いですから。どういう女性が好みかは把握してますよ」
「…………」
「初めて会った時、ピンと来ましたよ。皇子なら絶対に気に入ると」
「随分と推すんだね」
「これは儂の問題でもありますから」
「君の?」
「将来、皇子の結婚相手は皇后として後宮のトップになります。つまりは儂の上司です。その人が馬鹿では困るという話ですよ」
その点、
「結婚を望まないならそれで結構。人の意思など変わります。いえ、変えてみせます。皇子、どうかご覚悟ください」
口元に笑みを浮かべながらも、
そんな
「では、皇子。儂はこれにて」
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