第一章 ~『謎解きと宝石の秘密』~


 なぜ宝石が消えたのか。その謎を解き明かした琳華りんふぁは確証を得るために、麗珠れいしゅに向かって静かに質問を投げかける。


「失くした宝石は色が変わりますね?」


 質問を受け、麗珠れいしゅは少し驚いた様子で頷く。


「場所によって青くなったり、赤くなったりする不思議な宝石なの」

「正しくは光源による変化ですね。提灯から漏れ出る明かりだと赤く、月明かりだと青くなるのです」


 琳華りんふぁの解説に、天翔てんしょうも関心を寄せる。


「聞き馴染みがない話だね」

「色変化は一部の珍しい宝石だけが持つ特性ですから」


 アレキサンドライト、サファイア、ガーネットなどで起こる現象であり、変化量は個体に応じて異なる。


 色変化の強い個体は、人気が高く、高価である。そのため滅多に扱えない代物であり、琳華りんふぁも実物を見た経験は少ない。麗珠れいしゅの宝石の特性に気づくのが遅れたのも、その希少性が起因していた。


「色が変わる謎は解けたし、納得もできた。でもそれが宝石の行方とどう繋がるんだい?」


 天翔てんしょうの問いは尤もである。その疑問に答えるため、琳華りんふぁは露台に視線を向ける。


麗珠れいしゅ様が舞いを踊った露台は夜風が吹いており、凍えるような寒さです。踊っている最中は耐えられたとしても、終わった後は体を温めたのでは?」

「ええ。そこの火鉢で」


 麗珠れいしゅが指差したのは部屋の隅に置かれた火鉢だ。熱を放つ炭が静かに燃えており、パチパチと弾ける音が響いている。傍には火箸も立てかけられていた。


「無駄よ。火鉢の周辺は私も探したもの」

「では中はどうです?」

「ん? どう見ても、炭が燃えているだけじゃない……」

「いえ、宝石が見つかりましたよ」


 琳華りんふぁは火箸を使って、炭の傍にあった黒い塊を掴み上げる。火元から遠ざけると、徐々に色が変化し、綺麗な赤を取り戻していく。


「私の宝石……でもどうして……」

「火鉢の灯りを強く浴びると、この宝石は黒に変化するようですね。だから大勢で探しても見つけられなかったのですよ」


 朱色の宝石を探す意識では絶対に見つからない。琳華りんふぁに知識があったからこそ発見に繋がったのだ。


 麗珠れいしゅは目に涙を溢れさせながら、宝石を受け取る。その瞬間、部屋の空気が優しくなったように感じられた。


「次はなくさないようにしてくださいね」

「ええ、絶対になくさないわ」


 麗珠れいしゅは力強く答える。その一言には、失われたものを取り戻した安堵が込められていた。


「それと、あなたを侮辱したことを謝罪させて頂戴」

麗珠れいしゅ様……」

琳華りんふぁがいなければ、私は今も絶望の淵に立たされていたわ。あなたが私を救ってくれたの。ありがとう」


 麗珠れいしゅは頭を下げる。プライドの高い彼女が素直に謝罪したことに驚きながら、琳華りんふぁは微笑んで受け入れる。


「私だけの力ではありませんよ。協力を促してくれた天翔てんしょう様に、善意で手助けしてくれた会場の皆さん、そして麗珠れいしゅ様を慕う女官たちが懸命に探したからこそ、発見に繋がったのですよ」


 その言葉は会場にいた皆の心を響かせた。琳華りんふぁを侮っていた女官たちの目からも嘲りが消え、畏敬が含まれるようになる。


慶命けいめい様が琳華りんふぁを中級女官に抜擢したのも納得ね。きっと大物になるわ」


 麗珠れいしゅは最大限の賞賛を残すと、取り巻きの女官たちの元へと駆け寄る。宝石捜索の協力に感謝しながら、発見の喜びを分かち合っていた。


 その様子を微笑ましく眺めていると、天翔てんしょうが声をかける。


「さすが僕の友人だね。こうも見事に問題を解決するとは」

「たまたまですよ」

「いいや、君の力は素晴らしいよ。それに人格もね」

「人格ですか?」

「君は麗珠れいしゅに絡まれていただろう。好意的ではない相手に親身になってあげられる人はそう多くない。琳華りんふぁの本当に優れている長所はその優しさだよ」


 天翔てんしょうの賛辞を、琳華りんふぁは照れくさそうに受けとめる。彼女の頬はほんの僅かに赤く染まるのだった。

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