第一章 ~『消えた宝石』~
楽しい時間は過ぎるのも早い。周りのざわつきが
やがて夜も深まり、
(
別件で仕事でも入ったのだろう。彼と話す機会はこれからもある。
「部屋まで送ろうか?」
「お気持ちだけ受け取っておきます」
気を遣わせるのは申し訳ないと、提案を断る。これは送り狼を危惧したわけではない。相手が宦官であるなら、そういった心配はそもそも無用だからだ。
「なら僕も帰るよ。君のいない場に残る理由もないからね」
「ない、ない、ない!」
その声は
髪飾りをいじりながら、「皇后様から頂いた宝石がないの!」と絶望的な声を上げる。
悲痛な叫びは宴の空気を一変させる。取り巻きたちも事態の重大さを理解し、捜索を手伝い始める。宝石が見つからない状況に、
「私も手伝いましょうか?」
困っている人を放っておけないと、駆け寄った
「いいの?」
「もちろんです。探しものなら猫の手でも役に立てますから。皆で探せば、きっと見つかりますよ」
励ましを受けて、
「僕も力を貸すよ」
「良いのですか?」
「探しものは人数が多いに越したことがないからね」
「皆さん、聞いて欲しい。なくした宝石を探すためには一人でも多くの力がいる。どうか、周囲を見渡してくれないだろうか」
穏やかに呼びかける
だが懸命な捜索にもかかわらず、宝石は依然として見つからない。時間が経過するに連れて、会場内の空気が重くなっていく。
「一度、捜索場所を絞り込んだ方が良いかもしれませんね」
これだけの大人数で探しても見つからないのだ。すぐに発見できる場所に落ちているとは思えない。範囲を限定しての重点的な捜索が必要だった。
「まずはいつ宝石が消えたのかを特定しましょう。私と話したときには
問いかけると、一人の宦官が手を挙げる。
「舞を踊っているときには宝石があったぞ」
「踊ったのですか?」
「ええ。私の舞は評判が良いから踊ってほしいと頼まれて……」
上級女官は出自に恵まれており、教養ある人材が多い。
「有力な証言ですね。これで時間が絞り込めます。あとは場所ですね。
「そこの露台よ」
「ここは寒いですね」
室外のため夜風が強く吹き抜けており、体を震わせる。それは
「
「ただの慣れよ。あとはそうね、ここの露台は暗闇と月明かりを上手く調和させてくれるの……だから、ここで踊れば舞いはより流麗となるわ。寒さより、舞人としての誇りを優先したのよ」
人から頼まれるほどの舞を踊れるのだ。
「ただ露台には落ちていないようですね」
「もしかしたら踊りの最中に外れて、下に落ちたのかもしれないわね」
「なら私たちが探してきますね!」
「君の顔からすると期待薄のようだね」
「踊っている最中は
「一理あるね」
観客が一人ならともかく、複数人いる状況だ。誰の目にも映らなかった可能性は低いだろう。
「盗まれたとしたらどうだろう?」
「それも難しいかと。なにせ髪飾りに埋め込まれた宝石でしたから」
肌身離さずの状況で、宝石だけを盗むのは困難だ。選択肢から除外していいだろう。
八方塞がりの状況に
「必ず見つかりますから、元気を出してください」
「で、でも……あの宝石がなくなったら、皇后様に顔向けできないわ。私の誕生日に贈ってくれた大切な絆の証ですもの」
宝石はただの綺麗な石ではない。贈り手の想いが込められた宝物なのだ。その想いを守ってあげたいと、
(もう少し……もう少しだけヒントがあれば……)
「やはり見つかりませんでしたか……」
「で、でも、夜だから見つけられなかっただけで……朝になればきっと
「ちょっと待ってください。あなたは今、青い宝石といいましたか?」
「ええ、そうよ」
「なるほど」
「宝石の謎は解けました」
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