44.バジリスク探検隊


 翌日。

 

「ふぁーあ…………あー、ねむ」


 結局ギルドの長椅子で一夜を明かした為、良質な睡眠は摂れなかった。仕事帰りにこの仕打ちとは……異世界を恨みそうだ。この世界には枕とマットレス作成スキルはないのか。


「ピィ!」

「カンペー、はやく食べていこ」


 眼を開けると琥珀色の眼が四つ。

 机に並べられた朝食を食べながら、ネルがバジリスクのピーにも千切ったパンを食べさせていた。まーたもさもさのパンだ。


「子供は元気だねぇ……もうこれ俺の職業関係なくない?」

「そんなこと言わないでよカンペー。石化の魔眼は持ち主によっては危険な魔眼なんだから」


 

 昨晩の話では、魔眼の暴走は死を招くとアイナは言った。



『魔眼の力でひたすら暴れて…………死ぬ』


 魔眼の暴走……人、神獣、魔物問わず、何らかの原因で目に宿した魔眼が暴走することがあるらしい。それはアイナが持つ『魅了の魔眼』でも同じらしい。


『私の一族も魅了の魔眼に悩まされてね。好きでもない相手を魅了してしまって痴情のもつれで刺されたり……なんてことはよく聞いたよ。だから解決する方法として、魔眼レンズの開発をしているんだけど……ホント、なんでカンペーは何もないんだろうね』


 魔眼を抑制するための魔眼レンズ……基本の目標はそこにあるらしい。

 本当に、どうして俺にアイナの魔眼は効かないんだろうね?



 ひとまずの目的は『ピーの母親を見つけて帝国に帰すこと』だが、万が一被害が拡大する場合には母バジリスクは倒さなければならないとは、アイナによる。


「んで? その肝心のバジリスクのお母さまはどこですかね」

「わかんない」

「ピィ!」

「昨夜の現場も被害者が出た後だったからね」

「つうかよ、街ン中で石化してるってことは中にいるんじゃねぇの?」

「――いるとしても見つけられないから困っているんですよ」


 応接室に現れたのは金属製のティーポット……というかを持って現れたウェイドがため息を吐いた。


「お茶をどうぞ」

「サンキュー……やっぱ見つかってねぇの?」

「えぇ、精鋭騎士団と下部組織の兵士で市内を捜索していますが、手がかりすら見つかっていません」


 熱々のお茶は湯気を立ち上らせとても飲めそうにない。パン突っ込んだらいい感じにしっとりしねぇかな。


「今回のネル少女とピー……バジリスクの幼体は、石化の魔眼、その正体の手がかりをアイナ先生と掴んだので保護という形で騎士団長に報告しておきました」

「助かるよ、普通の人間でもバジリスクは危険ってことは知ってるだろうからね」

「正直アイナ先生とカンペーさんでなければ即時逮捕モノですけど……これまでの恩があるので協力しますよ。ただ……」

「……ただ?」

「交易都市でもあるハーディー内での事件なので、可能な限り秘密裏に処理したいというのが精鋭騎士団の考えです」


 申し訳なさそうに、ウェイドは困った表情を浮かべた。

 そりゃそうか……危険な街なんて知れ渡ったらそれこそ人が来なくなるし、この世界じゃ問題なんだろうな。よくわからんが。


「なので騎士団からは僕のみ協力という形になりますね」

「少数での行動かぁ……ま、いいや。元々ここに居る面子で探す予定だったし」


 前衛加入だな、頼もしい限りだ。


「あぁ、それと……騎士団からギルドへ依頼して、ひとり応援を頂きましたよ。最近メキメキと頭角を現している冒険者です……入ってください」

「ふぁ、ふぁいっ!」


 聞き覚えのある少女の声が部屋へ。

 小柄で弓を背に、バッサリ切られたショートカット、そして特徴的な長い耳の冒険者……


「お久しぶりです! 冒険者ソニア、ご協力しましゅ!」


 締まらない挨拶だなぁ。

 ちょっと雰囲気の変わった新米冒険者、ソニアが合流した。


「よろしくね。じゃあここにいるみんながバジリスク探検隊だ」


 おー! とその場の全員が拳を上げる。

 ……アマゾンの秘境とか行かないよな?

 

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