43.母バジ尋ねて三千里


「わざわざ幼体のバジリスクの為に……泣かせるなぁ」

「人間を石にしてるけどな」

「健気なネルに涙が出るよ」

「人間が石にされてるけどな」


 ついでに俺のライトも。

 

「バジリスクはハーディー周辺には生息しない生物だけど」

「うん。ワタシの一族は元々帝国の方に住んでて、バジリスクと共生してたんだけど、ピーのお母さんが何かの理由でこっちに来たの」


 出稼ぎ……?

 いや、トカゲもどきが働くわけないか。


「一族で…………ずいぶん仲良さそうだね。ネル、バジリスクは危険な魔物だよ?」

「だからだよ。ピーのお母さんは人を襲うようなバジリスクじゃなかった。少し前から変になって、人間を石にし始めたの」

「さらっとヤバい事言ってませんかね……?」

「まぁそれは置いといて」


 置くなよ……

 今の話を聞くだけなら、変になった『原因』があるようだが。


「帝国の方でも問題になって、いつのまにかピーの前からいなくなっちゃった」

「それで流れに流れてハーディーまで来たと……」

「うん」


 母バジ尋ねて三千里ですか……泣けるねぇ。


「魔物の親探しで石化騒ぎに巻き込まれる街の事も考えてほしいですね」


 外出していたウェイドが両手にパンやら抱えて戻って来た。見覚えのあるそれは、もさもさのパン……既に口の中はパッサパサなんですが。仕方なくパンを齧る。


 ひとまず腹に物を入れつつ、ウェイドから状況を聞くことに。お互いに今持っている情報を共有する。


「事件はアイナ先生たちが消えてからすぐ発生。犠牲者こそ少ないですが、今夜の男性を含め、10人程度が石化されています。時間はすべて夜、場所は無差別で性別、年齢も関連は見られません」

「1週間前から解けてない石化ってことは、かなり強力な魔眼だね。成体のバジリスクの魔眼は半永久的な石化作用があるし」

「……一応確認ですが、その女の子……ネルが抱えているのはバジリスクの幼体ですよね?」

「ウェイドちゃん賢~い。このピーちゃんに俺、さっき手ェ石にされたぜ」

「カンペーさんは、緊張感なさすぎです」


 あらま、注意されちゃった。


「……幸い発見者が貴方たちで良かった。下手をすれば即時処分する必要もありますし」

「え……そんなにヤバい事件なのこれ?」

「うん……だってこれ、『魔眼の暴走』だもん」

「……………………」

「ピィ……」


 室内が静まり返る。

 暴走って単語だけ考えれば、良い事ではないのは確か……なはず。アイナの言葉に、ネルが顔を強張らせた。


「私が魔眼研究をしている一つにね、魔眼の暴走が関係しているんだ」

「暴走するとどうなるんだよ」


 食事の手を止めて、アイナは少しの間沈黙。そして青い瞳をまっすぐこちらに向ける。


「魔眼の力でひたすら暴れて…………死ぬ」


 

 

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