42.バジリスクタイム


「おぉー! 石になっちまったぁっ⁉︎」


 ガッチガチの右手は同じく石になったカ◯リーメイトを掴んで離さない……つーか一体化してる!


「すっご、まーじで石だ。ははっ」


 笑うしかない、本当に石なのだ。

 しかし鉱物と化しているのは手首から先だけで、先刻の犠牲者のように全身が石化しているわけではない。


「ピィピィ!」

「ダメだったら、ピー!」


 ネルはトカゲもどきを優しく叱る。


「あれ、さっきライトを石にしたのはネルだよな。そいつも石にできんのか……」

「ピーは子供だからまだまだだけどね」

「ピィ!」


 お前もガキだろ……

 鳴き声から名前決めたんだろうが、安直だなぁ。もっとこう……カッコいい名前にしようぜ、ドラゴン系のよぉ。


 固まってしまった右手の代わりに左手で残ったカ◯リーメイトを差し出すと、ピーが齧り始めた。


「あわてないの? 石になってるんだよ?」

「扉の外にいるあいつが医者だからなんとかするだろ」


 多分。

 なんて話してたら扉が開いた。


「カンペー、今の光──」


 俯き加減から顔を上げたアイナが目を丸くしている。理由は大体察するが。


「バババババ、バジリスクじゃないかぁっ! しかも幼体⁉︎」

「ピィ!」


 ピーさんの瞳は再び光るものの、アイナを石にすることはなかった。可愛らしい声を上げながら、首を伸ばす。


「カンペーの右手はこの子にやられたのかな?」

「治して♡」

「やだ♡」

「うぉいっ!」

「冗談だってば。その子にやられたならじきに解けるよ、幼体は魔眼操作が不得手だからね」

「ほんとかぁ……? お?」


 数秒後に右手に亀裂が生まれ、表面がポロポロと崩れていく。石の部分が剥がれ落ち、元の肌でタンパク質が戻ってきた。


「ん〜神秘。これ割れたのも皮膚だよな」

「垢だと思えばいいよ」


 さも当然のようにネルは呟く。

 右手全体から出た垢ってのも、それはそれで嫌だ。


「ライトは戻りませんが先生」

「それはその子の魔眼だからね。えーと……」

「ネル」

「ネルね、よろしく。私はアイナ・グレイ……魔眼研究者であり魔眼レンズ研究をしてる極めて優秀な医者だよ」

「魔眼を調べる人間は嫌い」

「あらネルちゃんごあいさつ」


 俺の時とは態度が違うな。

 ネルは強張った表情でピーを抱き寄せた。


「わたしとこの子の眼もくり抜くつもり?」

「まさか! 人に悪さしてない生き物を無闇に殺めたりしないよ、もちろん君もね」

「俺は右手石になったけど」

「カンペーはノーカン」


 ひどい扱われようだ。

 確かに魔眼は対象から採取しないと使えないから、やってることは割とエグいんだけどな。


「さてと……じゃあネル。さっき見つけた石化人間……あれは君とその子がやってないのは、私はもう分かってる。誰の仕業か教えてもらえないかな?」

「いや」

「ん~困るなぁ……カンペー、なんとかして」

「ネル、このフルーツ味をあげよう」

 

 さらば俺のカ〇リーメイト。羊羹だけでは足りなかったのか、ネルの懐柔はあっという間である。


「ピーのお母さん、大人のバジリスクの仕業だよ。ワタシは、ピーのお母さんを一緒に探しに来たの」


 母を訪ねて……もとい、母バジリスクを求めて。

 いい話の導入みたいになってるけど、それで石化したくねぇ…………!


 波乱の予感。いや、もう波乱は始まってる気がする。

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