41.石化の魔眼少女、ネル
「……………………」
白色の髪と同じく、これまた白いワンピース。腹部だけは奇妙に膨れ、両手で支えながら、琥珀色の瞳は、ただじっと石像を見つめている。
「もしもーし」
「ちょ、カンペー⁉」
眩しくさせないよう、俺の顔を下からライトで照らしつつ相対す。眠そうに瞼を半分下げて、少女と目が合う。
「なにやってるんだカンペー、石になるよ!」
「どうやってタンパク質が鉱物になるんだろうな」
昔っから不思議だったんだよな、どうやって人体が石になるのか。骨化は知ってるんだが、石ってのは謎だ。まぁ……不健康だと石が出来る箇所もあるが。
「……じゃま」
光量は少なめだったが気に入らなかったのだろう、少女の視線が異世界からの異物へ向けられると、一瞬で灰色の石に変わってしまった。
「うぉ、プラスチックでも石になるんだな」
「万物を石にするのが『石化の魔眼』だ! いいから下がって!」
アイナの腕が俺を後退させる。
短期間だが今までの中でかなり焦っているようにも見える。
「…………君がやったの?」
「…………」
返事はない。
それどころか疲れてしまったのか座り込んでしまった。
「変だな。魔力の反応が弱い……?」
「ホントに魔眼なのかぁ?」
「石化の魔法なんて強力だからね、それこそ魔眼じゃないと使えないよ。その石になった男性からは魔力の残滓が感じられる。それに何より、その子の眼……強い魔力が宿ってるんだけど」
何も感じませんが……?
アイナが警戒を続けていると、騒ぎを聞きつけて都市内部の兵士が数人やって来た。
◇ ◇ ◇
場所を移し、冒険者ギルドへ。
本来ならハーディー精鋭騎士団の兵舎に移送したかったのだが、余計な騒ぎにしたくなかったこと、そして『石化の魔眼』を危険視したアイナによってギルドの方へ移動したとのこと。夜間にはギルドへの人の出入りも少ない為とか。
「犠牲者……というか、石化したのは酒場で飲んでいた客。厠へ向かった所で魔法を受けた、と。第一発見者はたまたま通りかかった別の酒場の女中。犯人と思わしき人物は……」
ギルド内の応接室、扉の前。
駆けつけたのは狐顔の騎士のお兄さんことウェイド・エッジ。ギルドでは対応困難ということで騎士団から出向いてくれたのである。
ウェイドは聞き取った情報を読み上げつつ羽ペンの手を止めた。扉の奥、視線の先には応接室の長椅子に座る白髪の少女。
「名前は不明……石化の魔眼の持ち主と?」
「魔力を調べる限りはね」
「門の出入りにも記録はナシ。どうやって入ったんでしょう?」
「さぁ……荷馬車に紛れて入ったとか?」
謎は重なり止まってしまう。
少女の方はというと、逃げる様子もなくお腹をさすっている。
「またこの事件ですか……しかし、あれから戻って来たと思えば事件を持ってくるなんて……やっぱりカンペーさん達は面白いですね」
「面白くねぇよ……騎士団のゴタゴタからどのくらい経ったんだ?」
「1週間くらいですかね。アイナ先生と一緒に突然いなくなるんですから、副団長が大変だったんですよ?」
「イヴはいつものことだからいいよ、別に。それより『また』ってどういうこと?」
扱いが雑だなぁ……
それよか腹減って頭回んねぇな。
ちょうどリュックを漁ろうとした瞬間、扉のすぐ先に少女が立っていた。
「お腹すいた」
「アイナせんせ〜、なんかギルド内に食べ物ないんすかね?」
「ないよ……」
「空腹で話す気力もないんでしょうか? 僕、近くの酒場から何かもらってきますよ」
う〜ん、気の利く男。ついでに俺の分ももらってきて欲しい。
ウェイドを見送りつつリュックを物色していると、以前換金した時に念のため買っておいた非常食の羊羹バー発見。
……この際カロリーが取れればいいか。
「じぃー……」
「ん?」
扉の隙間から琥珀色の瞳が羊羹を見つめる。
「食べる?」
「うん」
結構図太いなこいつ。
「カンペー……迂闊に近づくと石になるよ」
「今なってないじゃん」
「扉越しに魔法で結界作ってるの。大変なんだよ?」
「羊羹食うだけなんだから大丈夫だろ」
めんどいので応接室に侵入する。アイナが引き留めようとしたが関係ない。仕事終わりの異世界転移は疲れるのだ。それに正直、石にされると言われてもわかんねぇんだよな。
少女と並んで座り、包装のビニールを剥がし、半分出した羊羹を渡す。
「半分だけ?」
「……お嬢さんいい性格してますな」
「お嬢さんじゃなくて、ネル」
仕方ないので一本渡すと、小さな口で頬張り始めた。
「ネルね……そんじゃネルさんはどっから……あ?」
小豆は問題ないらしい様子の少女。
疑問符の原因は、『選定の魔眼レンズ』が起動したからである。
ネルの腹部がもぞもぞと蠢いている。魔眼はそこへ金の糸を繋いでいた。視線に気づいたのかネルはお腹を覆う。
「な、なにもいないよ⁉︎」
「まだなんも聞いてねぇよ」
どうせ何か隠してるんだろうけど。リュックを漁るとさらにお宝発見。カ◯リーメイトも入れてた、ラッキー。
ピィ
「だ、だめ……!」
「お出ましかな」
鳴き声とともに魔眼の見るそれは動き出す。ネルの腹の膨らみが胸元に上がり、そして金の糸が繋ぐ存在は現れる。
「ピィ!」
「……トカゲ?」
のようであり、蛇のようである。
長細いフォルムに小さな手足のついた変わった爬虫類だ。瞳は飼い主? と同じく琥珀色。
「ただのペットか……お前も食うか?」
カ◯リーメイトを差し出すと、トカゲもどきは小さく鳴き瞳を輝かせる。
「ピィィィ!」
「だ、だめ!」
「うぉ、まぶし」
一瞬のフラッシュの後……目を開けた先に合ったのは、
カチカチになったカ◯リーメイトと、
それをガッチリ離さない、石になった俺の右手だった。
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