第4章 石化の魔眼 VS 石化の魔眼!!
40.またまた異世界へ
「アイナちゃん、お菓子食べる?」
「こっちにもお菓子あるわよ!」
「おいひい〜」
1週間を現実で過ごし、ひとつわかったことがある。
それも、魔眼を使った。
「カンペー君も隅に置けないわねぇ、こーんな彼女がいたなんて」
「自称ですよこいつのは」
「まぁ、ひどい彼氏ねぇ〜?」
「ねー」
青い瞳は強く輝く。
その視線に吸われたものはやや虚な瞳で笑っている。眼科の他の職員も例外ではない。
◇ ◇ ◇
『私の魔眼はね、私の瞳を見た人間に
おかげでまともに魔法が使えやしない、とは雇用主による。転移魔法なり物質の生成なり手広くやっていた気もするが……ま、言うまい。
『問題は、どうしてカンペーがその魅了にかからないのか……だ。なんで?』
買い置きのお菓子を全て食い尽くしながら、奴は言った。魔力回復の為とは言うが、不健康な食生活はどうかと思う。なんでと言われても俺が知りたいくらいである。
話が本当ならアイナの魔眼とやらに影響されないのは謎だ。考えてみれば、アイナに首ったけな副団長がいたような気がするけど。
『ん~、あれは魔眼の影響ってより単に私が好きなだけだから』
それはそれでどうなんだ……?
しかし…………最初から魔眼を持っているなら何で利用してないんだろうな。抑えるよりも使うことを考えた方が良いと思うんだけどな。
『天然の魔眼持ちっていうのも考え物だよぉ? 好きでもない人間にも言い寄られるって面倒だからね』
老若男女誰でもね、と添えて。
◇ ◇ ◇
夜。仕事を終えて帰り道。
彼女兼海外の医者……なんて面倒な設定まで作ってアイナは1日の業務を見学していた。現代の眼科がアイナの研究に役立つかは知らないが、じっくり見たかったらしい。
「お菓子も食べれて満足満足。実りのある見学だったよ」
「お前いつまでいるんだ?」
「魔力がねぇ~回復には食事が一番なんだよぉ」
……もしかしてこいつ、飯集りたいだけか?
この1週間、ずっとメシ作ってる気がする。それも大量に。このままでは神兵家のエンゲル係数は青天井である。まぁ、異世界のもさもさしたパン食うよりかはいいんだろうが。
「で、今日の晩飯のご希望は?」
「からあげ」
即答。もはや清々しい。ちょっと多めに買い物しておくか…………
副菜を考えていると、見覚えのある男が目の前に現れた。
「見つけたぞアイナッ!」
浅黒肌に銀色の坊主頭……アイナパパことランドル・グレイ。今日も今日とて充血した目でこちらを睨む。
「……なんでこっちにいるの」
「そんなことはどうでもいい! 貴様、蒐集していた魔眼は何処にある⁉︎」
「言うわけないでしょ、商売道具なんだから」
親子喧嘩やるなら元の世界でやってくんなぁかなぁ。
冷ややかな視線で眺めていると、アイナが後ろ手でそばに来るよう誘導してきた。
「なぜ帝国に従わない! 貴様の研究成果が我々の悲願なのだぞ!」
「その私の成果を自分のものにしたのはお父様じゃないですか」
こじれてんなぁ……論文とか書かねぇから知らねぇけど。
「お前が魔眼の魔女と言われないようにする為に庇ったと何故わからん!」
「あんた自分で娘の事そう呼んでたじゃん……?」
『ちぃっ、現れたか魔眼の魔女め!』
「部外者が口を挟むな、そもそも誰だお前は!」
「は……?」
変身したお前に火ぃ吹きかけられた被害者ですが? まさか……覚えていない? この前追っかけてきたことも?
「親父さん、なんか変だぞ」
「それは前から。話にならないね、逃げるよカンペー!」
「逃さんぞアイナ・グレイィィィィィ」
叫びと共に、アイナパパの影は膨張。前と同じく巨大な竜となり現れた。流石に異世界へ行ったからか、驚きは少ない。
そしてようやく、選定の魔眼は起動する。俺とアイナを金の糸で繋ぐのだ。
「カンペーごめん、このままハーディー行きだ!」
「からあげはまた今度な」
「よろしくっ!」
魔力十分、虚空へ光の扉を召喚し俺とアイナは飛び込んだ……
◇ ◇ ◇
光の扉を抜けた先は、またまた異世界でした。
「あーぁ、ひでぇ目に遭ったなぁ」
「まさかまだあっちにいるなんて……あの人帰ってないのかな」
「今度でいいから事情教えろよ。なんかおかしかったぞお前のパパさん」
「むぅ、わかったよぉ」
あぁ、また来てしまった。仕事終わりだからまだいいが……
周囲を見渡すと、城郭都市ハーディー内の路上のようだ。辺りは暗く、酒場などの光だけが照らしている。
「診療所、じゃない……?」
「おかしいなぁ、転移魔法なら設定した地点からズレるなんてないんだけど。魔力が足りなかったかも」
「からあげか?」
「かも」
冗談はさておきさっさと移動だ。
晩飯もまだだし、なにかこっちで食うかぁ…………アイナの奢りで…………
「キャーッ‼」
「な、なんだぁ?」
「悲鳴だね」
俺とアイナを繋いでいた金の糸が街の路地へ伸びていく。それは悲鳴の聞こえた方向と同じ。
「見えてるなら、行くべきってことだよカンペー」
「めんどくせぇなぁ」
「魔眼レンズが示してるんでしょ、守ってあげるから!」
「あーはいはい!」
仕事帰りが幸いだった。リュックの中にあった懐中電灯を装備し暗闇を照らす。やや小走りで向かったその先にいたのは、女中らしき人物と……その足元にある大きな石像。金の糸が繋いでいたのは、やたら造形の凝った、庶民じみた男の像。驚いたような顔つきまでしっかり彫ってあって、両手で顔を守るように構えた妙な姿…………
そして糸は分かたれ、もう1人へ伸びる。
勿論女中ではなく、暗闇に紛れても見える琥珀色の虹彩に長細い瞳孔。
「気を付けてカンペー、相手は石化の魔眼だッ!」
「…………うぇっ、マジ?」
アイナと初めて魔眼について話した時の事を思い出す。
『石化の魔眼か、稀少度の高いモノだ。もっとこう、簡単に……魔法に縁のないカンペーに説明するなら、『魔法が使える眼』のことさ』
見たら石になるんじゃねぇか……?
恐る恐るライトを向けると、そこにいたのは色白、そして伸ばした純白の髪を揺らす少女だった。
「…………………………」
「子供…………?」
父さん、母さん。
今度の異世界業務は、今までとはちょっと違いそうです。
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