39.アイナの『魔眼』
「ふぅ〜ごちそうさま! やっぱりこっちの料理はちょっと変わってるね」
「そりゃ外国みてぇなとこと比べられてもなぁ」
遠慮なしに常備していたインスタントを食い散らかしたと思ったら、結局普通に料理までさせられて冷蔵庫が空になってしまった……金貨1枚ならお釣りくるからいいけども。
「でも変だなぁ魔力操作は間違ってなかったはずなんだけど、なんで私まで」
「気が緩んでたんだろ、ひとつトラブルが終わった後だし」
「あー、交流戦でハジけたのもあるかな」
「なんじゃそら……」
こっちは一人暮らしのシンクに溢れた洗い物があんだよ。はよ風呂入れ。
「ねぇカンペー」
「あ?」
ふと、アイナが隣に立ってまっすぐ見つめて来た。魔猫の魔眼レンズのついていない、海のような真っ青な瞳。
「私を見ても、なんとも思わない?」
丁寧に両手の水気を拭き取り、少女の両頬をつねる。
「満腹でもちもちのほっぺたですねぇっ⁉︎」
「いふぁーい!」
「さっさと風呂入れ!」
なんとも思わない、ねぇ……
なんとか思ってほしいのだろうか。変なやつである。
俺には汚れた皿やらフライパンやらを片付けなきゃならんのだ。まったく、とんだ1日……1週間だ。
こんな時でも『選定の魔眼レンズ』はどの皿から洗えばいいか金色の糸で示してくれる。
便利ではあるんだが……やっぱこう、地味だなぁ。炎出したり水出したり、めちゃくちゃ目が良くなったりとか身体能力が上がるのと比べると、地味。
そもそもこの魔眼の主は何してたんだ?
「……って、考えても無駄か」
金貨もらって少しでも生活の足しになりゃそれでいいや。雇用主も結構羽振がいいしな。
「カンペ〜タオルとってぇ〜」
「んぁ? ちゃんと身体洗ったのかよ」
「失礼だなー、効率的に早風呂なのさ」
それを洗っていないというのでは?
あんまりガミガミ言っても仕方ないので扉越しにタオルを渡す。
「私着替えないんだけど」
「着てきたヤツ着ろよ」
「貸して♡」
「やだ♡」
「叫ぶよ」
「冗談だ……ジャージ貸してやるからさっさと体拭けよな」
「彼シャツは?」
「どこで覚えたんだそんな事……」
妙に俗っぽいんだよな。
まぁいいや、明日にはおかえり願おう。プライベートな空間に異世界でも上司がいるのはめんどい。
「ほれ、ジャージ」
「ありがと!」
世話のかかる奴だ。
洗い物が終わり、テレビを見て時間を潰していると、ようやくアイナが出てきた。
洒落っ気もない紺系のジャージ。
袖丈が長く萌え袖姿の美少女は自分の身に纏う現代の服を嗅いでいる。
「……なんか男臭いね」
「俺のだからな⁉︎」
シバかれたいのかこいつぁ……
なんでもいいや、俺もさっさと風呂に入ってしまおう。そう思って立ち上がったものの、目の前の医者はどかない。
「どした?」
「う〜ん……カンペー、やっぱり私を見てもなんともない?」
「大変失礼な雇用主に振り回されて疲れてますよせんせ」
「そうじゃなくてぇ……!」
まったくドキドキしないこの状況。
アイナは何か言いたいらしいが、はっきりせず口を噤む。
「私、いま魔眼がずっと発動してるんだ」
「レンズじゃなく?」
申し訳なさそうにアイナが上目遣いでこちらに視線を向ける。
「元々私は、自分の魔眼を封じるための方法として魔眼レンズを研究してるんだ……グレイ家は魔眼持ちの家系だからね」
「で、何の魔眼なの?」
「魅了の魔眼さ」
「……」
「……」
「…………」
会話を止め、異世界で雑に洗っていた髪を搔き毟る。そしてアイナをお姫様抱っこの要領で持ち上げる。
「カ、カンペー⁉︎」
若干頬を赤らめた少女の顔が近い。
両目は青く透き通り、吸い込まれそう……でもなく、
いつも寝ているベッドへアイナを放り投げた。
「ぐぇ⁉︎」
「バカなこと言ってないではよ寝ろ!」
布団を被せてアイナの反論を封じる。
やっとまともな風呂に入れるぜぇ……今日は長風呂にしよう。
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