幕間2 異世界のヒロインとやらしい展開になどならない

38.雇用主 宿泊させない カンペー君


「おつかれっした……」

「どうしたのカンペー君、すごい顔青いけど⁉︎」

「いや、なんつーか疲労がどっと来ましてね……さいなら」


 約1週間の異世界衛生指導を経た後、戻ってきたのは行く前の5分後の日本。騎士団のゴタゴタに巻き込まれ、硬い床に寝かせられた7日の疲労感がずっしりとのしかかったまま、午後の検査業務を乗り切ったのである……が、


「カンペー!」

「うぇ、まだいる」


 病院を出た矢先、我らが別世界の雇用主ことアイナ・グレイがカタコトで俺を呼んだ。この女、近くの喫茶店で時間を潰していたとかなんとか。


 理由はわからないが巻き込まれてついてきたらしい。今回も散々こき使われたのでしばらく顔を見たくない。


 なにより、まだ月曜日なのである。

 まぁ1週間で金貨数枚を稼げたから精神的には余裕がある。しかしこれ以上異世界人と接触していたら今週を乗り切れない。


 要するに異世界お腹いっぱい。


「あらカンペー君、もしかして彼女さん⁈」


 眼科のご婦人がアイナと腕を組む(無理矢理組まされている)俺を見て嬉しそうに声をかけてきた。


「ハァーイ、カンペーノフィアンセデース!」

「あらあらあらあら〜」

「違いますからね、違いますからねっ! お疲れさんでしたーっ」


 急ぎアイナを抱えてその場から逃げる。明日以降、絶対面倒な噂の的にされそうではあるが、今そんなことはどうでもいい。


「どうしてこうなるのぉっ〜!」


 走りに走って、気づけば自宅アパートの前まで着いていた。途中電車になったはずなんだが、記憶にない。


 もうなんでもいい、ともかくカップ麺でも食って寝よう。風呂に浸かって柔らかい布団で寝るんだ。


 路上にアイナを置く。

 それはもう丁寧に、そっと。


「んじゃ先生、また今度よろしくぅ」


 思考を停止させてそそくさと別れようとすると、アッシュグレーの少女は俺の袖を掴んだ。


「マッテカンペー」

「なんすか」

「……泊メテ♡」

「だめ♡」

「ヘルプミー! オソワレマース‼︎」

「てめぇっ⁉︎」


 即座の行動。やはり極めて優秀な医者は判断が早い。人気のないうちに自宅へ担ぎ込む。


「はぁ……はぁ……ったく、なんて雇用主だ」

「ヨソウガイデース」

「そのカタコトやめれ」

「ンー……シカタないなぁ、言語同調は常に魔力消費が多いからヤなんだけど」


 突然流暢になった異世界人の言語に戸惑いつつも、リアクションが面倒なのでさっさと家事に移る。


「カタコト外国人ネタはもういいんだよ。ぶっ続けで異世界と接触してると疲れるからどっかホテルに泊まれよな」

「いきなり巻き込まれたからお金持ってきてないんだよぉ」

「えぇ……」


 もっと安全を考慮して転移魔法を使って欲しいものである。


「ねぇ一泊でいいから泊めてよぉ。魔力回復させないと帰れないんだからさぁ、ねぇねぇねぇー」

「健康な成人男性の部屋になんの警戒もなく泊まるのはどうかと思うぞ先生」

「むしろこの極めて優秀で眉目秀麗なこの私に欲情しないのは失礼じゃないかい⁉︎」

「自己肯定感が高くて羨ましいぜ……!」


 無駄な問答を繰り返すと、観念したのかアイナは大きくため息をついた。


「しょうがない、金貨1枚払うよ」

「ディナーは何に致しましょうか、アイナ先生?」


 唐揚げと炒飯でもレンチンするか……

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