36.水に流さず一件落着?
「あっづ⁉︎」
「ぎゃぁーっ! みず、だれかみず、みずをっー!」
チリチリになっていく髪を眺めながら片目の魔眼レンズをつまみ取る。不敬ながらもローレンス姉妹に水がぶちまけられ、綺麗だった黒髪はなぜか見事に爆発していた。
「おぉ〜ボンバヘッ」
「帝国に牙を向くとは……お、おぼえていろハーディー騎士団ッ!」
予定を切り上げ、帝国のお客さんは帰っていってしまった。実滞在時間はほとんどなかったのではないだろうか。
あれよあれよと、あっという間の出来事に帝国騎士団もハーディー騎士団の面々も呆気に取られていた。その中でアイナは冷静で、こちらを見ていた。
「驚いた……炎猩々の魔眼レンズはつけたら灼熱に焼かれるのに」
「なんか着けれたわ……ゴロゴロするから今回限りだけどな。選定の魔眼が選んだってことは問題ないんだろうよ、ちゃんと洗ってたし」
とはいえ、他人のレンズなど2度とゴメンだな。うわ、まだちょっとゴロゴロする。
「どうして奴らにあんなことを……」
「魔眼に依存して、持ってない奴を見下すのはおかしいだろ……っていうのは建前で、なんかムカついたから」
この先帝国との関係がどうなるかは知らないけど。俺、部外者だしな!
「選定の魔眼レンズをつけた副作用? いや、それでもウェイドにみられた炎熱反応は間違いないし、他の魔眼レンズの副作用を……」
「せんせー? おーい」
「無駄だよカンペー、そうなったらアイナはしばらく戻ってこない」
「ま、いっか……で? 交流戦はどなったのよ?」
「勿論勝ったさ。アイナが圧勝してな!」
これで帝国に三連勝だ! と大笑いのイヴ。命運のかかった最後を部外者に委ねるのはどうなのだろうか、とは言うまい。
なんにせよ、これで交流戦は終了だ。
はやく柔らかい布団で寝てぇ。
◇ ◇ ◇
夜になり、兵士や騎士関係なく兵舎は打ち上げで酒盛りをしていた。なお、まだ完治していない病み上がり騎士たちは別室にて酒盛り。そこまでして酒が飲みたいのか……
俺はというと、騎士団長の執務室に呼ばれていた。今回の騒動について意見を聞きたいらしい。部屋には騎士団長、俺とアイナ……そしてウェイド。
「なるほど……騎士団を辞める時にいずれ地位を約束した上で病気の元を渡された、と?」
「小瓶に入った病気の種みたいなものでした。交流戦に参加した帝国騎士は知らなかったと思います。ボクにそう言ったのは、帝国の魔法使いだったので」
「じゃあ魔眼レンズはたまたま発見したってこと?」
「えぇまぁ。当初は交流戦に参加するであろう騎士団長と副団長を病気にして戦線から外すことが目的で……魔眼については風の噂で知ったんですよ。『魔眼を人工的に作る危険な医者がいる、もし見つけたら確保せよ』と」
「アイナじゃん」
「そうです……それにイーヴァ副団長が昔は魔眼に目覚めてなかったと調べて分かったので、アイナ医師との関係を考えれば魔眼に秘密があるなと思いまして」
「さすがは諜報部だ。もっとも、力の秘匿に努めなかったイーヴァにも原因はあるがね」
「ったくぅ、俺とアイナが来なかったらどうなってたことやら……」
「ははっ、君が握手をしなかったのもよく分かったよ。これから手の浄化には努力するよ」
そんな大袈裟なことではないのだが。
「それで、ウェイド三席の処遇はどうするの? 帝国のスパイって分かったし、このまま野放しにするわけにも行かないでしょ?」
「分かってます。ボクのしたことは、投獄されても文句は言えないですからね」
呼ばれた割に勝手に話が進んでいくんだが……正直、ウェイド1人を責めるのはそれはそれで少し違う。
「いやいやいや、ちょっと待て。今回のはやり目蔓延は確かにこいつが原因だけど、広めたのはあんたらにも落ち度があるんだぞ?」
「なんだって?」
「だってそうだろ? 訓練後は手も洗わずに飯、便所行っても洗わず、その他諸々洗わずって続けてたからウェイドの策略にガッツリハマったわけなんだし」
「カンペー言ったろう? 水周りの改善は難しいんだよ」
「呪いだなんだと騒いでたんだから指摘されて当然だ。だからこいつを、ウェイドを保健衛生担当にしとけ。あ……あとナンバー3は降格な」
「か、勝手に決めないでくださいよ……! それに、ボクをみんなが許すはずなんて」
「許されるわけねーだろ。勝手に牢屋入って満足してんじゃねぇっつうの」
一歩間違えば炎症で視力低下、はたまた失明もあり得る話だ。そんなふざけた話を投獄で済ませていいわけがない。
「自分がしたことがどれだけ大変なのか身をもって知るんだな。あぁそれと、魔眼レンズなら合わせてやるよ」
「……え?」
「か、カンペー?」
「欲しいなら合わせてやるのが魔眼フィッターだからな」
図らずとも、お仕事ゲットである。
ま、別料金だけど。
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