32.天然の魔眼 ≠ 魔眼レンズ
「あはは〜ざっこぉ」
「ボクが……負けた……?」
項垂れるウェイドの前に立つのは余裕の笑みを浮かべる少女……というかガキ。黒髪のツインテールが左右に揺れ、紫の瞳が煌めいている。
「こんなのがナンバー3ぃ? キャハハハハ!」
合間に置かれたナンバー3の勝負はあっという間だった。
ウェイドが間合いに入ろうとした瞬間、わずかに動きが止まり、その隙を突かれて剣を弾かれてしまった。
「また変なガキが出たなぁ」
「帝国騎士団……天然の魔眼持ちであるローレンス姉妹、その妹のメイ・ローレンスだね」
「天然……?」
「人間にも魔眼を持って生まれることはあるよ。帝国は特に、魔眼持ちの人間を集めて利用しているんだ。あれは……相手の身体に干渉する魔眼だね」
「ふぅ〜ん……魔眼レンズよりつえーの?」
「強弱の話なら比較できないよ。だってあの子とカンペーの選定の魔眼レンズ、どっちが強いって話になるし」
身体の動きを止める魔眼?
俺は新鮮な野菜を選んでくれる魔眼レンズの方がいいな。
「人間の筋肉か神経系に作用する魔眼なんてデメリットがあるはずだよ。そんなリスキーなものより、魔眼レンズの方がよくない?」
「つけっぱで結膜炎になるんですが……?」
「そこは……ルールを守ろう」
解除不可の呪いが発動している場合はどうしたらいいですか先生……
魔眼持ちのガキは瞬殺した相手を見下げて顔を覗き込むと、嬉しそうに目を見開く。
「あれれ〜? もしかしなくても帝国騎士団やめたウェイド・エッジ君〜? こんなとこにいたんだぁ〜」
意外な事実にハーディー騎士団がざわつく。
「ハーディーなら上になれると思ったぁ? ねぇねぇ、またアタシに負けたけどどんな気持ち?」
「くっ……!」
ウェイドが殺気混じりの細目を飛ばしているが、メイはまるで気にしていない。そして逃げるようにウェイドは舞台を後にした。
「あらら、どっか行っちゃった」
「心配してる暇はないよ。これで2勝2敗──」
ところがどっこい、一度悪い流れが来るとトントン拍子に転がってしまうわけで。
「そこまで、帝国側の勝利!」
「あららら……」
5戦2勝3敗。逆王手である。
選定の魔眼で選んだとはいえ、必ずしも正解というわけではないらしい。そして……
「うっ……なんか、目が……⁉︎」
「まずい、はやり目だ……ごめん、感染しないように空いてる部屋に運んでくる」
ここに来て参加予定だった1人が発症してしまうとは……とことんツイてない。
「まずいぞ、騎士団長はまだ療養中で参加できないし……まずい!」
「じたばたすんなよ、参加者にアテはあるから順番繰り上げできねぇの?」
「あら、何かお困りごと?」
ぐだぐだイヴと話していると、背後から冷たい声が首筋を震わせた。振り返った先にいたのは、黒い長髪に冷たい黒色の視線。
「失礼、あたふたする副団長様があまりに無様だったので」
「うわぁお、辛辣。誰この人」
「……ウェイドを倒したメア・ローレンスの姉であり、帝国騎士団の副団長だ」
「はじめまして……先ほどは妹が失礼しました。ベラ・ローレンス……またの名を『黒炎のベラ』です、お見知りおきを」
漆黒の瞳……天然の魔眼が、暗いまま俺を映していた。
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