8.素材は足で稼ぐもの


 ――城郭都市じょうかくとしハーディー。

 高い城壁に周囲を覆われた洋風の建築物。実際は魔法で空中を覆い、空襲をも防いでいるとか。屈強な兵士が日夜守っているらしいが……


「俺みたいなの通すなんて結構ザルだな」

「医師である私の助手だよ? それだけで信用に足るさ」


 門をくぐる際に簡単なチェックがあったものの、アイナが説明すると敬礼までされてしまった。魔法が発達していようと医者はどこでも信頼されているようだ。


「怪しい眼科医じゃなかったのか……」

「ここの城郭都市には兵士の他にその上の精鋭の部隊がいてね、そこに幼馴染みがいるんだ。魔眼レンズの作成もしてあげたよ?」


 それで信用があるのか。お上のお墨付きってわけだな。

 都市内部は雑多で、どこか観光地めいた印象を受ける。露店に酒場、行き交う人間の肌も様々。人種のとはこのことである。


「あ、あのぅアイナ先生、わたし達どこへ向かってるんでしょうか……?」

「それな。買い出しなら蝋燭も買っとけよ」

「違うよ! ソニアに合わせる魔眼レンズの素材調達だって!」


 日用品買い足した方が良いと思います先生。

 目の前で駄々っ子のように暴れる医者は置いといて、ざっと周りを見渡す。ファンタジー世界らしく刀剣やその他武器を売るもの、何やら装飾品を売りつけようとするもの、その他エトセトラ。


「まさか魔眼の買い付け?」

「魔眼がこんな公の場で売ってるわけないだろカンペー。取引は秘密裏に、だ……それに、素材は足で稼ぐものだよ?」


 レンガ調の舗装された道をしばらく歩いた先、そこにあったのはこれまたレンガ調の建造物。出入りするのは各々得物を持った老若男女だった。


「素材調達なら冒険者ギルドさ!」

「えぇ…………」


 てっきり魔眼を買う時に俺の眼を使うのかと思ったら、肉体労働かよ。ギルドだなんだと耳にしたことはあるが、まさか本当にあるとは……


「カンペーには少しだけ言ったけど、魔眼は基本的に神獣や魔物に宿っているもの。それらは人間に危害を与えて…………まぁ要するに厄介な害獣みたいなものなんだ」


 神の獣を害獣呼ばわりなんてしてたらバチ当たるぞ。どんな奴なのかはまったく興味ないけど。

 建物に入った時から、隣にいたソニアがそわそわし始めた。出会った時から挙動不審だったがさらに拍車がかかっている。


「君の選定の魔眼で、ソニアに合う魔眼の持ち主を手配書から選んでみてほしいんだ。あとはそいつを倒して魔眼ゲットさ!」

「簡単に言うなぁ……使い方なんてわかんねぇぞ」

「きっと応えてくれるはずだよ。さぁ、とりあえず受付に挨拶だ」


 医者、目の悪い弓使い、コンタクト装備しただけの一般男性。

 なんともまぁ……バランスの悪いパーティーだ。街の外に出たら即全滅しそう。

 正面でにこにこ対応していた茶髪の受付嬢がこちらへ小さく手を振った。


「アイナ先生お久しぶりです、今日はどんな御用ですか? 魔眼関連?」

「正解。患者に必要な素材の調達にね。魔物の依頼はあるかな?」

「そうですねぇ……都市周辺はイーヴァさんの精鋭部隊が対処したので……他には残ったものが何件かあちらに貼ってありますよ」


 何かのゲームで見たような木製のボードに何枚か紙が貼り出されている。魔法で描かれているのか、紙面のイラストが動いている。猪みたいな奴、蛇みたいな奴、牛みたいな奴、鳥みたいな奴エトセトラ……


「カンペー、魔眼レンズは反応するかな?」

「う~ん…………」


 アイナの魔眼レンズ素材を選んだ時のような意識の変化はない。瞬きを繰り返しても、紙を凝視しても特に反応なし。


「そうだ、患者を見てなかったな」

「あわわわ……」


 ソニアへ視線を向けると、冷や汗混じりの表情で固まっていた。瞳は揺れ、口はわずかに開いている。


「あれ、『外しのソニア』じゃん」


 1人は剣を携えた青年、1人は杖を携えた女性、1人は槍を携えた壮年の男。リーダーであろう青年がソニアを指差した。


「誰だあいつら」

「わ、わたしがクビになったパーティーの人たちですぅ……」


 普通は何かしら力を手に入れてからの再会なのでは……?

 少し怯えたようなソニアを見て、選定の魔眼――のレンズはようやく発動するのだった。

 

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